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エンゼル・ホットライン ~僕のカノジョは恋の奴隷~  作者: イ尹口欠


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28.全魔法の習得

「それにしても魔術……いいなあ」


 フェリシテが物欲しそうな顔で僕を見る。〈属性魔術:水〉〈空間魔術〉〈情報魔術〉〈神聖魔術〉と四種類もの魔法を使える僕は、魔法の苦手な狼少女からすれば羨望の的だ。


 いい機会だから、魔法についてこの世界の住人に聞いてみることにした。


「なあフェリシテ。魔法って、どうやって使えるか使えないかを判断するんだ?」

「うん? 一番簡単な魔術を唱えて、出たら使える、出なかったら使えない。それだけだな。成長したら使えなかった魔術が使えるようになることもあるらしいが、それも魔術が使える人が別の属性を習得できるようになる、という話だろう。使えない者は一生、使えないのだ」


 つまり全魔法スキルのレベル1を片っ端から唱えればいいのか。適性があれば成功し、なければ失敗する。なんとも分かり易い方法である。


 ……白亜の〈期待する瞳〉(ウィッシュ・スター)はあらゆる行動に成功ボーナスがあるんだろ確か。これ全魔法が使えるんじゃないか僕は。


 天使からバグが修正されたとは聞いていない。ならば未だに僕のあらゆる行動に、白亜のギフトは効力を発揮しているはずだ。


 ……ちょっとやる気が出てきたな。少なくとも魔法については〈エンサイクロペディア〉で調べてみるのもいいか。


 フェリシテが言うには、〈属性魔術〉は下位四属性の地・水・火・風と上位五属性の炎・氷・雷・光・闇の計9種類があり、その他に〈神聖魔術〉〈結界魔術〉〈契約魔術〉の3種類があるらしい。


「これら12の基本魔術を唱えることで、適性の有無を知ることができるのだ」


 僕と白亜は「へえ」と揃って相槌を打ち、そのいずれも使えなかっただろうフェリシテを見た。その視線の意味を読み取り、狼少女はそっと目を逸らす。


「……てちょっと待て。水と氷はいいとして、火と炎は別の属性なのか?」

「うむ。そこは誰しも疑問に思うところだが、実際に別のスキルらしいぞ」


 ……何が違うんだよ、火と炎。大きさか? 威力か?


 白亜も「ファイアとフレイムの違いだね」と訳知り顔で頷くが、あれは分かっていない。重要なのは何故、違うのかだろう。


 さっそく〈エンサイクロペディア〉で調べてみる。……よく分からなかった。違う理由がこれっぽっちも見当たらない。


 〈属性魔術:火〉は発火の魔法である〈ティンダー〉と火の矢を飛ばす〈ファイア・ボルト〉から始まり、どんどん攻撃魔法のバリエーションを増やして最終的に〈ディスインテグレイト〉という格好良い名前の攻撃魔法を習得できる。


 対して〈属性魔術:炎〉は〈フレイム・ランス〉というやはり攻撃魔法から始まり、最終的に〈インフェルノ〉というやはり格好良い名前の攻撃魔法で終わる。


 ……なんだこれ。ほんとにファイアとフレイムの違いなのか?


 白亜の何気ない一言が真理を突いているようで、軽く戦慄を覚える。そもそも水属性は途中で回復魔法や防御魔法があったりして便利そうだったのに、火属性と炎属性はレベル1~レベル10までほぼ攻撃魔法ばっかりなのだ。ますます火と炎が別である意味が分からない。


 仕方ないので天使に聞くことにした。


『ご利用ありがとうございます、天使です』

『なあ。火属性と炎属性が別なのは、なんでだ? どう考えてもおかしいだろ』

『なるほど。それはよく言われますね』

『だろ?』


 世界の管理者にとっても、頻出する質問だという認識はあるようだ。


『ひとことで言うなら、バランスの問題なのです。要約して説明させて頂きますね』

『ほう?』

『地水火風の下位四属性はしいて分類するならば、物理三属性と化学一属性に分けられます。物理三属性は殴打の地、刺突の水、斬撃の風と分けられ、化学一属性は火の燃焼という化学反応が当てはまるでしょう。レベルが上がるにつれ物理三属性は殴打・刺突・斬撃をそれぞれで担えるようになり均質化していきますが、火は変わらず高温と燃焼のみを扱い続けます。そして攻撃以外の面でも、やはり地・水・風の三属性は応用が効きやすく、効果は多岐にわたるのです。これは〈エンサイクロペディア〉をご覧になれば傾向が見て取れますよね』

『う、うん?』

『そして次に上位五属性のなかで炎・氷・雷に目を向けますと、火は炎、水は氷、地と風は雷とそれぞれ関連があります。氷は物理属性ですが、炎と雷は化学属性ですね。水は氷を得て更に物理属性を強化し、地と風は新たに化学属性を獲得するに至ります。しかし火と炎はというと全く変わらない特性を維持しており、氷と雷ほど応用も効きません。上位属性は下位属性よりも攻撃力の高い魔法が増えることになりますので、攻撃力に秀でていた火と炎の両属性の地位が相対的に下がります。他の属性に攻撃力で並ばれた挙句に、できることが増えませんからね。そこで我々は火と炎の適性を近づけ、敢えて攻撃魔法のバリエーションを増やすことで、他の属性とバランスを取ることにしたのです』

『うん……』

『実は水属性が使えても氷属性が使えない方は多いのですが、火属性が使えて炎属性が使えない人というのは存在しません。もちろんスキルの経験値などが足りず、〈属性魔術:炎〉の習得にタイムラグがあるのは確かですが、それを考慮しても同時に習得できる魔術スキルとして知られているんですよ。確実に魔術スキルが増えるということは、MPの面でも有利ですから、攻撃魔術師としては――』

『あー分かった、もういい。もういいから。知りたいことは分かったから』

『え、そうですか?』

『うん。大変良く分かりました。……あとお前。要約って言葉の意味、調べとけよ?』

『はあ。それではご利用、ありがとうございました。またよろしくお願いします』


 〈エンゼル・ホットライン〉を閉じて、ほっと一息つく。相変わらず説明大好きだな天使。


 結局、よく分からない理由で火属性と炎属性は別だったわけだが、大した理由ではなさそうだ。ゲームでも不遇なデータを救済したり、逆に強すぎるデータを弱体化するようなアップデートがあるから、そういった話なのだろう。この世界は死後に訪れてエンジョイすることで魂が浄化されると、そういう話を最初の応接間でされたのを思い出す。ところどころゲームのように思える魔法やシステムは、実際のところエンターテイメント性を考えて創られているというわけだ。


 ……まあガチで中世くらいの世界に放り込まれるより、便利で助かるけど。


 トイレットペーパーは粗悪だが存在するのが分かったし、水は魔法でなんとかなる。財産は〈ストレージ〉で守れるし、なんだかんだで便利な世界だ。


 文明レベルは魔法のせいで計りづらいが、少なくとも識字率がほぼ100パーセントを誇っているのは凄いと思う。文字が読めなければ〈マイ・ステータス〉の意味が分からないから、文字と算数の学習だけはしっかりしているらしい。子供たちがぞろぞろ吸い込まれていく建物が気になって街で聞いた結果、小学校に相当する教育機関があって驚いたのだ。


 ちなみに会話はもとより、文字も日本語に翻訳される。店先では明らかに別の言語と思われる文字が並んでいるのだが、その全てに日本語字幕が被さって見えるのだ。どうやらこの世界の人には逆に僕らの日本語が彼らの言語に翻訳されているらしく、会話も文字もスムーズに伝わっていて便利である。そしてこの翻訳機能は、彼らの間でも有効らしい。異種族や歴史のなかで変化した言語もやはり翻訳されるらしく、知識と技術を伝えるのに役立っているのだ。


「火と炎が違うのはいいとして、その基本魔法ってフェリシテ、全部言えるか?」

「もちろんだ。子供でも全部言えるぞ。私をなんだと思っている!」


 フェリシテが目を吊り上げて声を上げた。魔法が苦手なのをからかわれていると思ったらしい。そういう意図の質問ではなかったんだが。


「いや。ふと僕らの故郷と同じなのか気になっただけだよ。試しに全部、言ってみてくれないか」

「違うことがあるのか?」

「もしかしたら、そういうこともあるかもしれない。違う魔法で試したら、案外簡単にフェリシテが魔法使えたりしてな」

「おお!!」


 フェリシテは目を輝かせて、12の基本魔法を流れるように暗唱した。


「どうだ!? なにか違う魔法はあったか!?」

「いや、同じみたいだな」

「…………そうか」


 あからさまにがっかりしたフェリシテがちょっと可哀想だ。白亜の視線が心なしか冷たい気がする。


 ……いやだってさ。魔法増えるよ? 新しい魔法だよ? 白亜も魔法、大好きだよね?


「よし、白亜のギフトの効果で全魔法を覚えよう」

「なに!? そんなことができるのか!?」


 ガバっとフェリシテが顔を上げた。僕はサムズアップして歯を見せて笑みを返す。


     ◇


 上位属性の中にはレベル1に攻撃魔法しかない炎・氷・雷があるため、外に出て試すことにした。


「えーと。じゃあ私が見てるから、ふたりとも魔法使ってみてよ。……私も使えるのがあるといいな~」


 さきほどフェリシテが暗唱した基本魔法を打ち込んだ〈ホワイト・ノート〉を唱え、ふたりの前に出してやる。


 僕も順に唱えようとして、ふと思いついたことがあったのでやめた。


 ……多分、僕は白亜が見ていれば全部成功しちゃうよな。逆に白亜が見てないところで成功する魔法があったら、それが僕の適性ってことじゃないのか?


 きっとそうだ。適性がある魔法の方が成長が早かったり、威力が高かったりするのではないだろうか。〈期待する瞳〉(ウィッシュ・スター)の恩恵に預かれない白亜が、しかし僕と同じくらいの早さで〈属性魔術:水〉を習得したように。


 ……試す価値は十分にあるな。


 そんなことを考えていると、フェリシテが12の魔法を気合を入れて唱え、全部失敗していた。


「……わ、私には弓があるしぃ」


 涙目になって強がるフェリシテが可哀想だ。白亜も申し訳無さそうにして「何度も試せば、いずれ成功する魔法もあるよ!」と励ましている。


「白亜、そうじゃない」

「え?」

「いいか、思い浮かべるんだ。フェリシテは狼人族(ワーウルフ)で、弓使いで、隠密とか毒とかが得意なシーフ系だ。どんな属性の魔法が似合うと思う?」

「んー……」


 白亜は人差し指を顎に当て、「風と、闇かなあ」と呟いた。


「よしそのまま白亜は風と闇を操るフェリシテを想像しながら、見ていてくれ。……フェリシテ、風と闇の基本魔法を試してみろよ」

「う、うむ。――〈ブリーズ〉ッ」


 唱えたフェリシテの手から、そよそよと風が生まれた。


「お、おおお!? みてみてハクア! 魔法だ、魔法が使えたぞ!!?」

「ほんとだ。良かったねえ、フェリシテちゃん」


 そう、それでいいんだ白亜。対象が僕ではない以上、白亜が()()しなければボーナスは乗らないんだ。


 フェリシテが魔法を使うためには、白亜のイメージが重要になる。白亜が「できるに違いない」、そうでなくとも「もしできたら似合う」くらいは思っていないと、期待は生じないに違いないのだ。


 続いて闇属性の〈シェイド〉も成功した。これは自分の影を思い通りに動かすという使い所の分からない魔法だ。〈ブリーズ〉と〈シェイド〉はそれぞれ消費MPが1ずつだから、これでフェリシテはMPを使い果たしたことになる。


「スキルを習得できればMPが増えるから、それまで毎日、白亜に見てもらいながら練習するといい。MPを増やすためにどっちかを重点的やるのも手かな」

「うん! やる。毎日使う! これで私も魔術師だ……!!」

「良かったね、フェリシテちゃん。よーし。私も新しい魔法、覚えるぞ~」


 白亜は〈属性魔術:火〉〈属性魔術:炎〉〈属性魔術:氷〉の3つに適性があった。


 僕はといえば、白亜に後ろを向いてもらって使った結果、〈属性魔術:光〉〈属性魔術:闇〉〈契約魔術〉の3つに適性があるようだった。もちろんその後、白亜のギフトの恩恵を得て全魔法を試し、成功させた。

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