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21.装備更新

 2日を狩りに費やし、1日の休憩を挟んでまた2日狩りをした。


 街の周辺だけで行ったにも関わらず、日に10体弱の魔物を安定して狩ることができた。


 結果、ふたりの所持金が銀貨40枚を超えたので、今日は装備を更新するために鍛冶屋に来ている。


「すみません、剣を見たいんですけど」

「おう。どんな剣がいいんだ?」


 もっさりと髭の生えたハゲたオッサンがこの店の店主だ。前に見に来たときは奥さんが店に立っていたが、今日はどうやら旦那の方が店番らしい。


「両手で扱うのがいいんですけど、この剣だと短いんです」

「ふうん。どれ……ああ確かに長くはないな。人によっては物足りないかもしれん。錆も気になるが」


 初日に洗い忘れてたせいで、剣先がちょっとだけ変色しているのだ。


「今のところは切れ味に問題はないんですけどね」

「ううむ、確かに物は良いな。買い換えるとしたら、どのくらいの長さがいい? 幾つか手にとってみろ」


 棚に飾られていた長さや厚みの違う剣の幾つかを、カウンターに並べてくれた。順番に振ってみる。


 長さや厚み以外にも、刀身の形が違うものもあった。片方だけ刃が途中からしかない剣は、柄に近い部分で受け止めるためだろう。細くて突くことを念頭に置いた剣もある。日本刀のように片刃の剣もあったが、反りがないためどう使うのがいいのか分からない。いまのところ特殊な戦い方はしないし、形状は普通のでいいかな。


 重さと長さを確かめながら振っていると、店主が感心しながら言った。


「若いのに様になってるな。冒険者か?」

「いえ。ただの旅人です。でも大きな街に行ったら冒険者になってみようかと思います」

「ふうん。心得があるようだが、剣は誰に教わった」

「我流です。でも〈剣技〉はありますよ」

「なに、その若さで〈剣技〉を習得しているのか」


 店主は唸りながら、目を見張った。


 あれ、そんなに驚くのか。ある程度、訓練したら誰でも習得できるってわけじゃないのか?


 白亜も〈剣技〉を習得していると言ったら、どんだけ驚くか分からないから言わないことにした。ちなみに白亜は初期装備の剣が短いとは感じないようで、今日は防具だけを買う予定だ。


 そんな白亜が、店主を更に驚愕させることを言った。


「カケルは〈剣技指南〉もあるもんね」

「はああ!?」


 今度こそ天地がひっくり返ったと言わんばかりに、店主が目を剥いた。


 さすがの白亜も店主の驚きっぷりに違和感を覚えたのか、「言っちゃマズかった?」みたいな目で僕を見るがもう遅い。店主は掴みかからんとするような勢いで僕ににじり寄った。


「なあお前さん、一体なにものだ? そんな腕前があるのに、なんで冒険者なんぞになろうとする?」

「え。冒険者、駄目ですか?」

「駄目ってこたないが……」


 店主曰く、〈剣技指南〉があるほどの腕前なら、大きな街で道場を開けるそうだ。そうでなくても兵士の訓練教官など、他にいくらでも安全で割のいい仕事がある。冒険者にならずとも、冒険者ギルドの職員として採用されるだろうとも。


「いや、若すぎるか。確かに冒険者で箔をつけてからの方が、いいかもしれん。しかしううむ」


 考え込んでしまった店主に、僕と白亜は顔を見合わせた。他に安全な仕事があるって言われても、魔物を倒して人類の生存圏を広げるっていうのが僕の異世界に来た目的なんだよなあ。


 ……いや待てよ。別に僕らが律儀に戦わなくても、他人を鍛えて人類全体を強くすればいいんじゃないか?


 白亜のギフトは僕に対して無制限に働いているけど、別に僕以外に対して効果が皆無というわけじゃない。少なくとも僕の〈剣技指南〉は誰に対しても効力を発揮するはずだ。


 つまり軍隊を鍛えるのだ。大勢の人間を率いて魔境を滅ぼし、徐々に人類の支配圏を広げる。魔物に対して数で負けているけど、大変に人間らしい戦い方じゃないか。ちょっと真剣に検討してもいい気がする。


「お前さんくらいの腕前なら、こういう剣もあるぜ」

「はい?」


 大勢を目の前にして剣を教える姿を思い浮かべていた僕は、店主の野太い声で現実に引き戻された。そうだ、剣を選んでいる最中だった。


 店主が奥から持ち出してきたのは、オーソドックスな剣だった。初期装備の剣より当然長く、刀身の白が眩しいくらいに輝きを放っている。柄も長めにとってあるのが、技巧派の僕には嬉しい。でもお高いんでしょう? 素人目でも、他の剣とはひと味違うのが分かる。


「鉄だが、ミスリルを少量だけ混ぜてある。他の剣より丈夫で切れ味がいいはずだ」

「ミスリル……」


 魔法の金属として良く聞くアレだ。具体的にどんなものかといえば、銀のように軽くて、しかしやたら丈夫な金属らしい。銀と違って黒ずんだりせず、合金にすれば錆なくなるという点だけでも有益だ。


 手にとると、やはり刀身よりもまずその柄の長さが気に入った。右手で握り、左手を添える位置を変えるだけで、剣先の軌道が面白いほどよく動く。変幻自在の〈剣技〉で相手を翻弄できそうだ。この剣でなくても、柄の長い剣があればそれに決めてもいいかもしれない。


「ちなみにこの剣、幾らです?」

「銀貨40枚だな」


 高けえ! ミスリルをちょこっと混ぜただけで4倍になるのか。


 しかし普通の鉄の剣より格段にいいものだというのは、なんとなく分かる。例え少量でも、ミスリルが入っているというのはそれだけで剣の質を大きく上げるようだ。〈剣技〉を中心に戦う僕だから、良い剣を持つ機会は逃したくない。


「20枚くらいにまかりませんか」

「20!? いや無理だ。その剣はまからんぞ」


 値切るのは無理そうだな。しかし銀貨40枚か……長く使うならこのくらいの剣があってもいいよなあ。


 伺うように白亜を見ると、「いいものなら買ったら?」と小首を傾げて言った。え、いいの? じゃあ買っちゃおうかな。


「いま使っている剣を下取りにしますから、安くなりませんか?」

「その剣か? まあ銀貨5枚分だな」

「銀貨35枚か……じゃあ、あとこれもつけてくれたら買います」

「うん? まあそのくらいならいいだろう。売った」


 目についた篭手を一組とって、カウンターに置いた。鎧兜は動きが鈍りそうだし高価だけど、篭手くらいなら防具として有用だろう。少なくとも僕の【器用】とは相性がいいはずだ。


 白亜に銀貨15枚を出してもらい、僕の方は20枚を出した。下取りに出す剣も置く。銀貨を数えて〈ストレージ〉に入れた店主が「毎度あり」と言って、新しい剣と篭手をこちらに寄越したので受け取る。


 鉄製の篭手は前腕を覆う半円筒型で、内側にある革のベルトで腕を固定するようになっている。篭手の外側にはスケート靴のブレードのような円弧状の突起がくっついていた。強度を高め剣などを受け止めるためだろう。これを積極的に相手の得物にぶつけていくのもアリかもしれない。


 試しに嵌めてみた。僕には大きいのか元からそういう作りなのか分からないが、サイズには余裕があった。手首を返す動きも制限されないので、却っていいかもしれない。剣のオマケについてくるなら悪くないだろう。


 そして新しい鉄の剣も腰に下げてみる。前より長くなった分、鞘から抜くのが大変になるかと思ったがそうでもない。いや抜き方は少し変わったが、自然に抜けるというか。恐らく〈剣技〉か【器用】の影響だろう。


 軽く振る。うん、問題ない。


「良さそうかね」

「はい。いい感じですね」

「おう、そうだ。お前らに剣の手入れの仕方も教えてやる。砥ぎ石は持ってるか? なけりゃ小さいのでいいから買っていけ」


 そうか、剣の研ぎ方も知っておいた方がいいか。


 店主の好意に(あずか)り、ありがたく教わることにした。


     ◇


 店を出た。新しい剣に浮かれつつも、まずは今日の目的を果たせなかったことを彼女に謝らねばなるまい。


「悪いな白亜。防具、買ってやれなくて」

「いいよ。その剣、いいものっぽいし。それにまだ怪我とかしてないしね」


 未だに僕らは怪我らしい怪我をしていない。初日に僕が負った傷だけで、以後は無傷だ。たまにHPを減らされることはあるのだが、ゼロになるほどのダメージは受けていない。その減ったHPも〈ヒール〉で回復できるため、むしろ余裕すらあると言えた。


 ふたりともが〈剣技〉の使い手で、自衛できるというのも大きい。強さ『E-』の魔物が2~3匹では、なんの脅威にもならないのだ。


 とはいえ緊張感を欠くのは、いかにも危険である。防具を後回しにした結果、取り返しのつかない怪我を白亜が負うようなことになったら、悔やんでも悔やみきれない。そうならないためにも、


「もっと稼ぐしかないな」

「だねえ。カケル、魔境はやっぱり危ないの?」

「そりゃ危ないだろう。でもそろそろ試してみたいよな。今の僕らがどれくらい戦えるのか」

「だよね。少し強い敵と戦わないと、分からないよ」


 慎重なようでいて、しかし表情にはお互い、自信をみなぎらせていた。あのでかい熊はともかく、もう少し強い魔物を狩ってみたい。それが出来た時こそ、この街を出て大きな街へ行くタイミングだと決めていた。

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