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17.魔物狩り

 翌日。僕と白亜はラッヘラカンプから一時間ほど離れた平原にいた。


 狩猟組合や冒険者ギルドで聞いたのだが、魔物は基本的に聖域に近づかないため、戦おうと思ったら街から離れなければならないそうだ。


 一昨日はクリスラビットと街から十分ほどの距離で戦ったが、そのくらいの位置だと滅多に魔物には会えないらしい。今の僕らはスキルが増えてかなり戦えるようになったはずだ。水も出せるから、一時間くらいの遠出も苦にならないだろう。


 平原はところどころに膝くらいまで伸びた草が生い茂っている以外、土が剥き出しの場所が多い。ウサギくらいの大きさの魔物なら草陰から奇襲もできるだろうが、逆に言えばそれ以上の大きさの魔物は離れた位置から視認できる。見通しのいい平原は初心者にとって戦いやすい地形というわけだ。


「ねえカケル」

「ああ、見えてる」


 遠方からこちらを伺うようにして近づいてくるのは、やたらフサフサした巨大な尻尾を持つ犬だった。

 尻尾以外はウェルシュ・コーギーに似ている。極端に短い四肢に、胴長で愛くるしい顔立ちの犬なのだが、牙を剥き出しにしながらにじり寄る様は完全に魔物のそれだ。


 僕は〈エンサイクロペディア〉を開いた。あ、そういえばこの魔物の名前が分からない。どうしよう。


 だが杞憂だった。視界の中で開いた本は、しっかりと『ポンポンコーギー』のページを開いていた。


『名称:ポンポンコーギー

 分類:魔獣 強さ:Rank E-

 草原に住む犬の魔物。尻尾が巨大な玉房になっている。

 雑食性だが他の生物を見ると積極的に襲う習性を持つ。短い四肢とは裏腹に移動は素早く、爪と牙による攻撃をする。

 特に警戒すべき特殊能力などはなく、尻尾から上質の糸が紡げるため、冒険者にとってはカモである。』


「白亜、魔物だ。打ち合わせ通りに戦おう」

「ええっ。可愛いのに……」


 僕と白亜は剣を抜き、構えた。好戦的な気質らしいコーギーは、ふたり相手だからといって怖気づいたりはしないらしい。「わふ!」とひと吠えしてから、走りだした。速い。


「〈ウォーター・スピア〉!」


 白亜が魔法を放つ。コーギーに吸い込まれるように飛ぶ水槍は、しかし機敏なステップにより回避された。白亜も僕も、まだ動く的に向けて魔法を撃つのは不慣れだから、仕方がない。


 事前の打ち合わせでは、まず白亜が〈ウォーター・スピア〉を撃ち、そこからは僕の剣で倒すことになっている。白亜は魔法を撃ったら、自分の身を守るために魔物に剣を向けるだけでいい。僕が苦戦するようなら、僕も魔法を使うのだが、


 ……こいつには必要ないな。


 地面を蹴り、すくい上げるようにして剣戟を見舞った。コーギーの胴体に当たった鉄剣は、ガ、と白い火花を散らしてHPを削る。


 コーギーは剣を嫌がり身をくねらすと、頭ごとぶつかるように僕に突進を仕掛けてきた。開かれた口の中に並ぶ黄ばんだ犬歯が迫るが、――遅い。横に飛んですれ違いざまに斬りつける。余裕があるのでもう一閃、振り下ろす。


 バリン、と白い光が砕けた。剣から伝わる手応えで、HPを削りきったことが分かる。


 コーギーが「わふッ!?」と悲鳴を漏らすが、そこはまだ僕の剣の間合いの(なか)だ。右手を支点に、左手をくゆらせて連撃を放つ。HPの守りがなくなったコーギーから、ぱっと血煙が舞う。わずかに後ずさろうとしたコーギーを逃さず、僕は踏み込み一閃した。首にある動脈を切ったのか、血が噴き出す。そのままコーギーは倒れた。


     ◇


「うわ、カケル強っ」


 白亜は口に手を当てて大げさに驚いてみせた。


 確かに余裕だった。魔物の『強さ:Rank E-』というのは、『Rank E』冒険者がソロで倒せる程度の強さ、という意味だ。目安でしか無いのだが、〈剣技〉を取得した時点で素人ではない技量があるということだったから、この結果は当然かもしれない。


「スキルの恩恵だな。剣が届く範囲も感覚的に分かるし、どうやったら斬れるか考える前に身体が動くんだ」

「へー。凄いね〈剣技〉、私もいつか習得できるのかなあ」


 問題はそれだ。白亜の白兵戦技術の習得は、彼女自身を守るためにも必要になる。後ろから魔法を撃つのに専念してもらってもいいのだけど、それにしたって護身術はあった方がいい。


 できれば白亜に怪我なんてさせたくない。でも僕が彼女を守りながら戦えるかというと、敵が強くなったり複数になったりすれば厳しいと想像がつく。ひとりで出来ることは限られているし、戦いに仲間は必須だ。


 なにより〈期待する瞳〉(ウィッシュ・スター)の効果は絶大で、今の戦いでも明らかに〈剣技〉の経験値を稼いだ感覚があった。どうやら実戦の方が得られるものが大きいらしい。ただ素振りをしているだけで、剣の達人にはなれないのだ。


 白亜の同行が必要なら、白亜自身の強さもまた同時に必須となる。どうにか白亜にもスキルを増やしていきたいんだけど。〈期待する瞳〉(ウィッシュ・スター)は白亜に効果がないんだよなあ。


 どうするべきか。いや、考えるのはひとまず置いておいて、目の前の死体を処理しなければならない。


「白亜、こいつ解体しようか」

「うん……」


 視界の隅にある〈エンサイクロペディア〉のアイコンを選択し、解体の仕方を調べる。換金できる部位は尻尾と肉だ。


「じゃ血抜きからだな。動脈はもう傷つけたけど、後ろ足をロープで縛って木から吊るすか……」

「ねえねえ。血抜きって肉を食べるためにするんだよね?」

「そうだな」

「この犬、食べられるんだね。そういう地方というか国はあるって聞くけど」

「まあな。おいしいのかなコイツ」

「不安だけど一度くらいは味わってもいいかも?」

「だな。狩猟組合でどういう料理になるのか聞いてみるか」


 放っておけば血が固まるから、血抜きは手早く行わなければならない。念のため先の手順も確認すると、


「あ、内蔵も取るのか。そりゃそうだよな」


 必要なのは肉と尻尾だ。〈ストレージ〉の中に入る体積も限られているし、不要な部分は取って捨てた方がいい。


 剣の鞘で地面に穴を掘り、コーギーの腹を捌いて中身をぶちまける。白亜が「うわあ」って悲鳴を上げるが、目を背けるでもない。こういうの割りと平気なのかな。


 吊るすのに尻尾が邪魔そうなので切り取り、〈ストレージ〉に入れておく。血抜きをしている間、どうやって過ごそうか。血におびき寄せられて魔物が集まってきたりしないだろうな?

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