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15.フェリシテの頼み

「メイユシュテット? っていうのは、どういうところなの?」

「ここから行ける、一番大きな街だ」


 首を傾げる白亜に、フェリシテが答えた。


「てっきりメイユシュテットの方へ行くかと思ったが。違ったか?」

「え、ううん。何処へ行くかはまだ決めてないの」

「そうか」


 多分、冒険者や商人はメイユシュテットに行くためにこの街を経由するのだろう。逆に言えばこの街に目的を持ってやってくる旅人はあまりいないんじゃないだろうか。いくら子供相手とはいえ、不審に思われるのは避けたいな。


「僕らはこの辺りに詳しくないんだ。ひとまずラッヘラカンプまで来たはいいけど、次の行き先を決める前にしばらく路銀を稼いで過ごそうかと思っている」

「ふむ。そうか」


 言い訳がましかったか? フェリシテが不思議なものを見る目でこちらを見ている。ううむ。そもそも、年下の女の子にどう接したらいいか微妙に分からない。ここは白亜に任せた方がいいだろうか。白亜に視線を向けると、心得たようにフェリシテに話しかけてくれた。ああ、目と目で通じ合えるって素晴らしい。


「ええと、フェリシテちゃんはどうしてメイユシュテットに行きたいのかな?」

「うん? 私は唯一の家族である兄を失って、いまは一人で狩りをして生活している」

「え、ひとりなの?」

「そうだ」


 フェリシテはマントの中から、短弓と矢筒をチラリと見せた。木製の弓は使い込まれているようで、小さな傷がいくつもついている。


「狩猟組合に獲物を売って生活しているのだが、できれば冒険者になりたい。だから私はメイユシュテットに行きたいんだ」

「大きい街なら登録できるんだよね」


 フェリシテは頷いた。


「でも冒険者は魔物と戦うよ? 危ないんじゃないかな?」


 白亜はフェリシテを心配げに覗きこんだ。この世界の常識は知らないが、見た目が小学生くらいのフェリシテが冒険者というのは危なっかしいものを感じる。


「大丈夫だ。魔物となら今も戦っている」

「あ、そっか」


 魔物じゃない動物もいるにはいるが、普通の動物だけを狙って狩りをするのは難しい。街の外、つまり聖域から出れば魔物に遭遇するのは避けられないのだ。狩りをするフェリシテは当然、魔物との戦いを経験しているということになる。


「じゃあもっと大きくなってから、とか」

「う、私は十……五歳だ。もうひとりで進む道を決められる歳だ」


 嘘くせえ。どう見ても僕らと同い年には見えない。


「じゃあ歳のことはいいや。でもフェリシテちゃん、私たち以外、例えば街の人はメイユシュテットに行くことについてなんて言っているの?」

「……あまり賛成してくれない」

「じゃあ私たちも責任持てないし、連れて行くわけにはいかないんじゃないかな」

「でも!」


 諭すようにして言う白亜に、フェリシテは慌てて言った。


「でも、私はもう一人だ。狩りで食べていくことはできるが、兄の意志を継いで冒険者になりたいんだ」

「お兄さんは冒険者になりたかったの?」

「うん。一緒に冒険者をやろう、と。でも、二年前に病気になって……助からなかった」

「そっか。大変だったんだね」

「うん? それはそうでもない」


 ケロっとした表情で返された白亜が目を白黒させている。


「そ、そっか。それで、街の人とか、今まで来た冒険者にそういう話はしなかったの?」

「この街の人はみんな知っていると思う。冒険者には頼んでみたけど、まじめに聞いてくれる人はいなかった。ハクアとカケルが今までで一番、よく聞いてくれた」


 僕は気になったことがあるので、聞いてみることにした。


「フェリシテ。ちなみに聞きたいんだが、メイユシュテットまで何日くらいかかるんだ?」

「うん? 徒歩なら七日くらいだな」


 遠っ。いや、僕らはもっと遠くから来た設定なのか。しかし七日もかかる街までこの年頃の女の子を連れて行ってやろうなどと、安請け合いはできない。


「無理だな。僕らじゃ責任を持てない」

「だね……。ごめんねフェリシテちゃん」

「いや。こちらもダメ元で聞いているのだ。仕方ない」


 気にした風でもなく、フェリシテはさっぱりと言った。


「ではこれで。ハクア、カケル、話を聞いてくれてありがとう」

「うん。またねー」


 白亜が手を振る。狼人族(ワーウルフ)の少女は、振り返ることなく去っていった。


 しかしあの様子だと、諦める気は全く無いだろう。むしろ手段を選ばずに無茶をしないか心配になる。


 フェリシテを見送ると、白亜が拳を握りながら言った。


「可愛かったね。ワーウルフだって」

「ああ。獣人とか異種族がいるんだな」

「尻尾、ふさふさだったよ。触りたかった~」

「この街にいる間はまた会えるかもしれないぞ。仲良くなったら触らせてもらえるんじゃないか?」

「そっかなー。じゃあ頑張って仲良くならなきゃ」


 僕も尻尾の感触に興味はあったが、さすがに年頃の女の子にボディタッチは(はばか)られる。白亜に尻尾を生やすような獣化魔法とかないのかな。あったら経験値あげまくって極めるんだけど。


 なくても天使に頼めば用意してくれたりしないだろうか。…………いやなんか「まだエロいスキルが足りませんか――ぁ!?」みたいなオチが見えたのでやめとこう。

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