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14.冒険者ギルド出張所

 大衆食堂でランチを食べているときに小耳に挟んだが、どうやら冒険者ギルドという施設があるらしい。クリスラビットを買い取ってくれた狩猟組合とは別の組織のようだけど、きっと僕ら向けに違いない。食堂を出ると、早速〈エリア・マップ〉で検索して向かうことにした。


「ねえカケル。冒険者ってなに? 山に登るの?」

「日本で冒険家っていうとそういうイメージだよな。でもゲームだと魔物を退治したりダンジョンに潜ったりする荒くれ者を冒険者って呼んでたから、そういうのじゃないかな」

「へえー」

「そういえば、白亜ってゲームとかやってた? この世界、なんかゲームっぽいから知ってるのと知らないのとじゃ、大違いだろ」

「ううん、私はそんなにやらなかったかな。スマホでちょっとやるくらい」


 そのちょっとが人によって違うんだよな。


「ちなみに、なんていうのをやったんだ?」

「ドラスト4とEE3から6かな」


 名作コンシューマーゲームの移植版か。国民的RPGだからかなりライトだなあ。


「……って地味に5つもクリアしてるのか」

「暇つぶしに、だけどね。なんかガッツリやるような最近のゲームは知らないよ?」


 でも経験値稼ぎなしでクリアするのは無理なタイトルだろうし、魔物を倒してレベルアップって概念はしっかり理解しているはずだ。この分だと取得経験値を上昇させる自分のギフトの有用性もしっかり理解していそうだなあ。


 ……僕は飽きっぽいからクリアしないで放置することも多いんだよな、コンシューマー系RPG。もしかしなくてもクリアした本数では負けている。


「じゃこの世界も余裕っぽいな。白亜、意外とゲーマーだし」

「ゲーマーじゃないし」

「そうか? 5本もクリアしといて?」

「なんかオタクっぽいみたいな言い方はやめて」


 確かに同年代、見渡してもそのくらいのゲームはやった内に入らないかもしれない。


「そういうカケルはどうなの。いっぱいやってるんでしょ?」

「いやー。アプリゲーが多いし、やらずに放置してるのも多いよ。僕もガッツリしたオンラインゲームはやったことないや」

「ふーん……」


 そんな話をしながら、僕らは冒険者ギルドに到着した。


     ◇


 小さい一軒家の一階が冒険者ギルドの受け付けになっていた。受け付けといっても、30~40代くらいのおばさんが暇そうにお茶を飲んでいるだけで、依頼ボードとかそういうのは一切なし。入ってきた人と対面になるように机があるが、完全におばさんのくつろぎスペースと化している。


「あの……ここ冒険者ギルドですよね?」

「そうよ、若いおふたりさん。この街じゃ見ない顔だけど、他所の街から来たの? 冒険者かしら?」

「いえ、ただの旅人です。冒険者がどういう仕事かも分からないんですけど」


 あらあら、とおばさんはコップをふたつ追加してお茶を淹れてくれた。


「そうなの。冒険者っていうのはね、魔境に入って魔物を倒したり、ダンジョンに潜ってお宝を取ってきたりする仕事をするのよ。ただこの街は小さくて、支部がないの。ウチはただの出張所で、他の街からやってきた冒険者に付近の情報を提供したり、他の街にある冒険者ギルドに依頼しなきゃならない事件を報告したりするだけなのよ」


 なるほど。ラッヘラカンプはどうやら小さい街だったらしい。この世界の標準的な街の規模が分からないからなんとも言えないが、確かに栄えている感じはない。


「最近は街道にも魔物が出るようになって物騒だけど、あなたたちどこから来たの?」


 う、そりゃ聞くよな。


「ええと。かなり遠いところから来たんですよ。日本っていうんですけど」

「ニホン……聞いたことがないわねえ」


 白亜が「いいの?」って顔してるけど。嘘ってのは事実を少し混ぜるといいって聞いたことがある。この世界のまったく知らない街をでっちあげるのは無理だろうし、ならばいっそ嘘をつかずにある程度までは本当のことを言ってもいいだろう。


「凄い田舎だったんです。この街は見たこと無い物が多いです」

「え、そうなの。随分と寂れたところから来たのね。最近は聖域を維持できなくて消える村が多いって言うし……どこも大変ねえ」


 やっぱりラッヘラカンプは発展した街じゃないようだ。トイレットペーパーに藁とか使うような文明度の低さが標準じゃなくてよかった。大きな街が藁じゃないと決まったわけじゃないけど。


 それから僕らはおばさんから冒険者ギルドの仕組みを聞いた。冒険者は『Rank E』から『Rank A』までの五段階があり、登録したての新人は『Rank E』から始まる。


 主な仕事はさっきおばさんが言った通り魔物の討伐とダンジョンの踏破だ。後者が特に重要で、ダンジョンの一番奥には強力な魔物がいることが多く、それを倒すと周囲一帯が魔境ではなくなる。街の近くなら結界魔術師を派遣して聖域にできるし、単純に魔物が湧かなくなるだけでもありがたがられる。これは天使から聞いていた話とも一致するな。


 重要なのは、冒険者になれば魔境を解放するのが仕事になるわけで、つまり報酬が貰えるってことだ。天使に依頼されている人類の生存圏拡大という目的も果たせるし、お金も手に入るしで、一石二鳥である。早めに冒険者になっておくのが良さそうだ。


 なお登録とランクアップの査定はもっと大きな街にある支部でなければできないと言われた。この街で少し実力をつけたら、もっと大きな街へ行かなければならない。


 街の周辺にいる魔物の情報を聞いてから、僕らは冒険者ギルド出張所を後にした。


     ◇


「そこの二人。冒険者か?」


 冒険者ギルドを出てすぐ、声をかけられた。見れば、声をかけてきたのは濃い灰色のフードを被った少女で、歳は小学校の高学年くらいか。フードからこぼれる赤みがかった茶色い前髪と同じ色の尻尾が、マントの裾からはみ出て揺れていた。


「え、いや。僕らはまだ冒険者じゃない。ただの旅人だ」

「違ったか」


 尻尾が所在なさげに振られた。白亜が「尻尾だ……」と呟くが、僕も非常に気になる。あれ本物みたいだぞ。


 獣人とかいる世界だったとは知らなかったが、フードで隠れている頭には耳があるのだろう。髪だけが収まっているにしてはボリューミーだ。わざわざ隠しているということは、大っぴらに街を歩ける種族じゃない可能性もある。いやでも尻尾、隠れてないしなあ。微妙なラインだ。


 僕がどうやって接しようかと考えていると、白亜がうずうずしながら前に出た。


「ねえ、あなたはこの街の子? 私たちがいたところには、あなたみたいな尻尾のある人がいなかったんだけど。尻尾のある人は多いの?」

「いや。狼人族(ワーウルフ)はこの辺りじゃ珍しい。他の獣人族も多くない」


 ワーウルフ……ってことはオオカミか。確かにどことなく尖った印象のある子だ。犬より狼って感じはする。


「あ、名乗るのを忘れていた。私はシリルの子、フェリシテ。この街の外れに住む狩人だ」

「私は一条(いちじょう)白亜(はくあ)だよ。よろしくね、フェリシテちゃん」

「僕は松田(まつだ)(かける)だ」


 軽く眉をひそめて、フェリシテは言った。


「イチジョウ・ハクアにマツダ・カケルか。変わった名だ。遠くから来たのか?」

「そうだよ、すっごく遠くから来たんだよ~」


 白亜が徐々にフェリシテとの距離を詰めていく。よほど尻尾が気になるのか。それとも単に女の子だから打ち解けるのが早いのか。

 だがフェリシテは「遠くから来た」という部分が気になったようで、一度視線を地面に落とすと、ぐっと手を握りながら言った。


「旅慣れているのか」

「え? うん」


 答えた白亜が「どうしようか」って顔で僕を見た。そんな。返事してから僕を見られても困る。まあ、どのみち旅人設定で通すしか無いんだけど。僕も頷いておく。

 するとフェリシテは僕らを眩しそうに見つめてから、言った。


「ならば、頼みたいことがある。どうか私を、メイユシュテットに連れて行ってもらえないだろうか」


 メイユシュテット? この世界の知らない地名に、僕と白亜は顔を見わせた。

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