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11.魔境と聖域

 ――僕は人生の勝利者だ。


 改めて勝ちを確信した。


 朝早くに目覚めた僕は、布団からはみ出た白亜の白い肩を見て昨夜のことを思い出していた。いやあ、昨晩はお楽しみでしたね。ほんと。あんなことになるとは思わなかった。


 白亜の〈期待する瞳〉(ウィッシュ・スター)が発動しまくったのである。


 見つめられる度にボーナス修正が乗るわ、経験値が増加するわで、実際に数字が見えていなくても効果を実感できた。いつの間にか白亜の弱いところが分かるようになっていたのだ。白亜の自滅につぐ自滅、可愛かったなあ。一晩で随分と大人の階段を駆け上がってしまった気がする。


 自然とニヤける顔をなんとかしながら、僕は〈マイ・ステータス〉を起動した。〈ウォッシュ〉に使ったMPがちゃんと回復しているのかが気になったのだ。MPが自然回復しないようなら、天使に回復の仕方を確認しなければならない。


『名前:マツダ・カケル

 種族:人間 年齢:15 性別:男

 HP:16/16

 MP:15/15

 筋力:- 器用:- 敏捷:- 知力:- 精神:- 感知:-

 ギフト:〈永遠に変わらない愛(プロミスト・ハート)

 スキル:〈性技〉

 魔術:〈エンゼル・ホットライン〉〈ストレージ〉〈エンサイクロペディア〉〈マイ・ステータス〉〈エリア・マップ〉〈ウォッシュ〉』


 うんMPはちゃんと回復しているな。他は異常な、し…………じゃねえよ。スキルが増えてる、しかもなんだ〈性技〉って!?


 いや字面でどんなスキルかは分かるけど。ええ~……。最初に取得するのは、魔法系か剣技系かと思ってたのに。なんだこれは。


 僕は思わず天使にヒトコト言うことにした。


『おはようございます、天使です』

『おう、おはよう。スキルが増えてるんだが、どういうことだ』

『はい、どれど――ふぉあっ!?』


 相変わらずのオーバーリアクション、どうもありがとう。流石に昨晩のことはモニタリングしてなかったのかな。あんまりプライベートを覗き見されると気分悪いから、それでいいんだけど。


『…………なん、なん、なんで最初にそのスキルが増えるんですかねえっ!?』

『いやまあ。それで、スキルの増える条件ってなんだ』

『くっ……私としては非常に先行き不安なんですがっ』


 絵文字の『血管マーク』を連打された。ちょっとウザいよ君ぃ。


『ええとですね。スキルは一定の経験値が貯まった場合、ステータス欄に反映されます。〈剣技〉や〈なんとか魔術〉などが一般的ですね。スキルを取得した時点で、ただの素人ではなくコツを掴んだ状態くらいの技量になるかと思います』

『ふうん。つまりコツを掴んじゃったわけか僕は』

『せ、セクハラ反対――ぃ!!』


 あ、普通にセクハラかこれ。


 天使が可哀想だから、この話題は止めてやろう。


『悪い悪い。この話は終わりな。ええとじゃあついでに聞くけど、僕らはこの世界で何をすればいいんだ。魔物を倒して魔王を倒すんだったよな。当面の目標になるようなことがあるなら、教えてくれ』

『あ、はい。打って変わって真面目ですね』

『あァ?』

『い、いえ。失礼しました。……ええと目標ですね、はい。最初にお話した通り、お客様には人類の生存圏の拡大をお願いします。もしできるならば、魔物の勢力拡大の元凶である魔王を討滅していただければ、こちらとしてもありがたいです』

『うん? 別に無理に魔王を倒さなくてもいいってことか?』

『はい。ちなみに魔王……と便宜上は呼んでおりますが、別に魔王を名乗っているわけではありませんので、そこはご注意ください』

『……はあ? じゃあ実際にはなんなんだ? どういう奴が魔物を、その、勢いづかせているんだ?』

『それは今の段階ではお答えできません』


 ……なんだと?


『おいおい、天使。僕は地球での人生を投げ打ってまで、異世界にやって来ているんだぞ。今更、何を隠す必要がある。最終目標くらいは明確にして欲しいんだが』

『それについては、感謝の念が絶えません。ですが、今の実力で迂闊に仮称・魔王の名を口にするのは危険が伴います』


 口にするだけでも危険? どういう存在だそれは。


 仮に魔王というイメージそのものの悪人がいたとしよう。どうやら天使の言い方では、その魔王は一般的に知られた存在ではないのかもしれない。にも関わらず、そのような存在の名を口にする者が現れた場合、どうなるか。


 魔法のある世界のことだ。自分の名を口にした者がいたら、それを検出するような魔法を世界中に網羅しているようなことがあるかもしれない。慎重に慎重を重ねた小心者のようだが、むしろそういう奴が裏で糸を引いている方が事態は厄介になる。そして、


 ……魔王というのはつまり、そういう奴だということか。


 この予想がどこまで的を射ているかは不明だが。でも口にするだけで危険というからには、今は迂闊に知らないほうが良いというのは確かだろう。うっかり僕らが魔王に近づくようなことがあったら、流石に天使も警告くらいはしてくるはずだ。そのくらいするはず。……するよな?

 心配になったので聞いてみる。


『僕らがうっかり魔王とやらに近づくようなことがあれば、警告くらいはしてくれるのか?』

『そうですね……その時はこちらから〈エンゼル・ホットライン〉を起動することをお約束します』


 うん、流石に天使も非情ではなかったか。


『分かった。じゃあ魔王のことはひとまず置いておく。で、人類の生存圏の拡大ってのはどうすればいい。魔物を殺しまくればいいのか?』

『基本的にその通りですが、まず魔境と聖域について説明させてください』

『ほんと説明、好きだなあ天使。その説明は、話に関係あるんだろうな?』

『え。……どういう意味ですか?』

『ひとりで〈エンサイクロペディア〉を更新してるほどの説明スキーだろ、お前は。ただ説明したいだけじゃないだろうな』

(はなは)だ不本意な理解のされ方でしたあ――!?』


 でもなあ。実際に何度か関係ない説明しようとしてきたじゃん?


『く、確かに何度か説明を遮られてきたような気がしますけど、こちらとしては良かれと思ってですね……』

『分かった分かった。暇があるときだけは聞いてやるから』

『聞く気がなさそうですね……。ですが魔境と聖域については聞いてください』

『うん。どうぞ』

『はい。魔境というのは魔物の支配地域のことです。魔物が生まれる土地でもありますので、人類がそこで暮らすことは非常に困難になります。現在この世界の陸地の約七割が魔境となっております』

『七割……』

『そして聖域とは魔境の逆で、魔物が生まれること無く、また魔物が侵入を恐れる土地のことです。人類は結界魔術によりこの聖域を作り出すことができます』

『はあ? じゃあ魔境を片っ端から聖域に変えていけばいいんじゃないのか?』

『そうですね。ですが魔境を聖域に塗り替えるためには、魔境を支配する魔物を滅ぼす必要があります。大抵は付近に生息する魔物とは比較にならない強力な個体であり、かつ迷宮を創りだして奥深くに潜んでいることが多いです』

『メンドそうだな……でも今の人類はなぜそれをしないんだ?』


 魔境の支配者を倒して聖域を作り出せるなら、少しずつでもそれをやればいいのに。


『為政者たちは、できることなら聖域を拡大したいと思っているはずです。しかし聖域は徐々に薄まっていきますから、現在の聖域を維持するので手一杯なようですね。結界魔術師の数も限りがありますし。街だけでなく街道や河川、鉱山など人類には守らなければならない聖域が多いのです』

『ふうん。とりあえず分かった』


 礼を言って〈エンゼル・ホットライン〉を終了した。

 魔境や聖域のことは置いておいて、まず僕らがやらなければならないことは強くなることだ。ウサギ一匹に苦戦しているようじゃ、もっと強力な魔物となんて戦えない。だが幸い、白亜のギフトが強力だからすぐに強くなれるだろう。内容はともかく、たった一晩でスキルをひとつ習得できたのだ。剣や魔法の上達にそれが発揮されれば、僕はあっという間に強くなるに違いない。


 白亜の体温を感じながら、僕は今後のプランを練ることにした。

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