ログインは唐突に
社畜根性、ここに極まれりだ。
仮想現実へのフルダイブ技術が可能にしたVRMMOゲーム。
その最新作【Ranker Ranker】の開発プランナーだった俺、木田鹿之助は、ついさっき地獄に飛び込んでしまった。
……ここまで色々なことがあった、過密スケジュールに次々休職していく同僚、上司とぶつかり辞めていった仲間、発売からひと月経たずにミリオンを突破したVRMMO【Ranker Ranker】の華やかさの裏には、もうゲーム業界辞めようかな……とか週4で考えてしまう程度には色々とあった。ちなみに残り3日は忙しすぎてそんなこと考えてる暇がなかっただけ。
そんなこんなを乗り越えて、やっと発売までこぎつけた【Ranker Ranker】は発売から一か月がたったある日、突如ログアウト不能状態に陥ってしまった。
原因は未だわからない。
目下全社を上げてプログラマー陣が調査中だが、一時的なトラブルなのか、悪質なユーザーの手によってか、それとも辞めていった誰かの恨みによるものなのか……ただ一つ分かったことは、原因が分からない以上、待っているだけでは何も解決しないということだ。
そして解決しなければ、俺たちは終わりだ。
それを避けるために、技術者たちは世界を外側から元通りにしようと動いてくれている。
だったらしがない企画職の俺に出来ることは、このゲームを誰よりも知っているだけの俺に出来ることは、世界を内側から元に戻すこと……つまりこうして、PL名【シカ】となって、デスゲームと化したこのRR世界へ飛び込むことしかないだろう。
――周囲は、ところどころに石柱が見えるが明かりにとぼしい、仄暗い神殿のような空間――
そして目前には、臨戦態勢のままの【四腕のミノタウルス】が、息荒く俺の抜刀を待っていた。
……逃げたい。
今すぐにでも逃げたしたくなるこの状況で、俺がこの場を離れない理由。
俺の背後に、腿と脛に弓矢が突き立ち、痛々しく石回廊に倒れ伏すLv47の女プレイヤー。さっそく一人目の、助けるべきユーザー様がいらっしゃるのだ。
……しかし間抜けだ。
開発実機のおかげでログイン地点だけは好きな場所を選べるのだと聞かされてから、目ぼしい場所を探していたのに、モニタリングしていた最前線攻略組のディスプレイに、瀕死のこの女の姿が映った瞬間、俺はそれまでの計画性をほっぽり出して、このゲームにログインしてしまっていた。
「……適正Lv50、全九層、推奨パーティー15人の【エリア解放ダンジョン】か」
このダンジョンのデータを反芻すればするほど、Lv1、ソロ、初期装備な俺には不利な条件ばかりが出てきてしまうが……そう悲観することもないだろう。
いつの世も、子は親に勝てないモノ。
俺には開発者特権ともいえるチートコマンド「DIP」機能があり、
そもそもこのダンジョンの生みの親は、俺自身なのだ。
だから後は、ミスさえしなければ生き残れるはずだと自分に言い聞かせて、腹を括った。
――やってやるさ。ログアウト不能のデスゲームなんて、俺が終わりにしてやる。