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可動域  作者: noriduke
8/8

余韻 未名

文化祭が終わって三日ほどすると、学校は何事もなかったみたいな顔に戻った。


廊下の装飾が外され、体育館の仮設照明もなくなり、白線の上から日常の埃が少しずつ積もっていく。教室では中間考査の範囲表が回り始め、部活の予定表には引退の文字が近づいていた。


放課後、第二体育館。いつもの練習。

ハルカはストレッチの列に入りながら、鏡越しに星莉の位置を見た。


体育館の中央より少し端。

いまも完全に真ん中には来ない。来ないけれど、端に寄りすぎもしない。

その位置が、前より自然に見えた。


曲の合間に部員たちがばらけたとき、ロッカー前の狭い通路で歩いた先が重なった。


目が合う。どちらもすぐには逸らさない。


ハルカが半歩引いて道を空けると、星莉は小さく頷いて、小さい歩幅でハルカの横を抜けた。

すれ違いざま、タオルを握る細い手首が見えた。


ハルカの視線だけが、少し遅れてそこを離れた。


---


練習が終わり、着替えを済ませて昇降口を出た。


十月の夕方、空にまだ色が残っていた。校門を抜けて、駅までの道をひとりで歩く。イヤホンはつけなかった。靴の音と、遠くの踏切と、どこかの窓から漏れるテレビの音。


ポケットの中で、スマホが震えた。


母からだった。ロシア語の短いメッセージ。今日は何が食べたいか。


返信画面を開く。


Что угодно. お腹すいた。


整っていない。整っていないまま、指が先に送信を押した。


少しして、母から返事が来た。短いロシア語。語尾が跳ねている。


ハルカはスマホをポケットに戻して歩く。

ほどいた髪が夕空に流れる。もうすぐ十一月だ。


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