余韻 未名
文化祭が終わって三日ほどすると、学校は何事もなかったみたいな顔に戻った。
廊下の装飾が外され、体育館の仮設照明もなくなり、白線の上から日常の埃が少しずつ積もっていく。教室では中間考査の範囲表が回り始め、部活の予定表には引退の文字が近づいていた。
放課後、第二体育館。いつもの練習。
ハルカはストレッチの列に入りながら、鏡越しに星莉の位置を見た。
体育館の中央より少し端。
いまも完全に真ん中には来ない。来ないけれど、端に寄りすぎもしない。
その位置が、前より自然に見えた。
曲の合間に部員たちがばらけたとき、ロッカー前の狭い通路で歩いた先が重なった。
目が合う。どちらもすぐには逸らさない。
ハルカが半歩引いて道を空けると、星莉は小さく頷いて、小さい歩幅でハルカの横を抜けた。
すれ違いざま、タオルを握る細い手首が見えた。
ハルカの視線だけが、少し遅れてそこを離れた。
---
練習が終わり、着替えを済ませて昇降口を出た。
十月の夕方、空にまだ色が残っていた。校門を抜けて、駅までの道をひとりで歩く。イヤホンはつけなかった。靴の音と、遠くの踏切と、どこかの窓から漏れるテレビの音。
ポケットの中で、スマホが震えた。
母からだった。ロシア語の短いメッセージ。今日は何が食べたいか。
返信画面を開く。
Что угодно. お腹すいた。
整っていない。整っていないまま、指が先に送信を押した。
少しして、母から返事が来た。短いロシア語。語尾が跳ねている。
ハルカはスマホをポケットに戻して歩く。
ほどいた髪が夕空に流れる。もうすぐ十一月だ。




