12、ごめんなさーい!バナナケーキ食っちゃいましたーっ!
ああ、そう言えば、朝飯食ってなかったな。
冷蔵庫にプリン...とか、言ってたな。
本当に食っていいのかな。
社交辞令かな。食ったら...
ああーっ、本当に食べたよ!
..とか、後で言われないだろうな。
しかし、空腹には勝てんよ。
何かあったら頂こう...
七草は冷蔵庫の扉を開けた。
こっ、これは…..
バナナ入り生クリームケーキ!
その名も「まるごとバナナ」
こっ、これは、いかん...
疲弊した脳みそにエネルギーを与えるには
格好の食い物だ。
これしかないと言えるほどの代物だ。
しっ、しかし、これは…..
プリンは雑多に数個並んでいる
「誰でも、どうぞ!」的な共同食の類いだろう。
しかし、この燦然と輝く…
私には、今、そう見えている。
この生クリームケーキは違う!
個人が購入し、所有し、その人物の味覚を堪能させ
胃袋に収まる為に存在し
ここに鎮座する尊きスイーツなのだ。
私などの、異世界から現れたものなどが
口にできるような代物ではないのだ。
ああ~、しかし、私の右手が勝ってに伸びる伸びる。
それを左手が押し留めようとするがあぁ〜
右手は利き腕だ!
左手が叶う訳もなしぃ...
ああ〜、うんめぇ〜!
最高じゃん!
異世界でも味は同じだ。
甘くとろけるバナナに、濃厚なクリーム
そして、フワフカスポンジケーキ。
一変の雲りもない。
ここから、一ミリも1グラムも
1パーセントも差し引きする必要のない。
完璧なうまさだ。
しかし、限界は超えていると言う
矛盾をはらんだ美味の世界がここにある。
私は口の回りについた生クリームも
名残り惜しげに全て舐めとった。
...と、その時、我に返った。
遅すぎるけど...
やっ、やっちまったよ。
食っちまったよ。
プリンって言われたのに...
あれは、逆の意味だったんだ。
プリンは食っていいけど
「まるごとバナナ」はダメですよ!
…と、言う遠回しな忠告だったんだ。
どっ、どうしよう。
でも、もう、食っちまった後だよ。
どうしようもならんよ...
逃げるか!
ナイ!ナイ!
どこも、行くあてなんかないよ。
それに、人として、どうなんだよ。
食い逃げなんて最低だ。
もう、謝るしかないよ。
そうだ!「...つい」でいこう!
部長の専売特許だ。
「つい」やってしまいました。
ごめんなさい!
これが一番シンプルだ。王道だ。
勇気をだして...誠心誠意で...
ガラッ!突然扉が開いた、
「わっ!」
「どうしたんだ?」
ヨッシー役?みたいな奴が入ってきた。
「何ビックリしてるんだよ。」
「そっ、それは、その...
いや、別に、何も...」
「別に…って
頬っぺたにクリームがついてるよ!」
そう言いながら私の頬っぺのクリームを
指先で、とってペロッと舐めた。
「うまっ!
アンタ!
「まるごとバナナ」食べちゃったの?」
「ワッ!ワワッ!
そっ、それが、つい....
朝飯食ってなかったから...
腹減って...つっ...つい...
大物を食らってしまいましたぁ!
申し訳ありませーーん!」
「ハハハッ!
大物って…何か、おかしい!
でも、ちょっと、ヤバいかな...
それ、部長の「まるごとバナナ」だよ。
あの人、おこらしたら怖いからなぁ...
私でも、止めらんないよ!」
「ええっ!
どうしよう!
殺されるぅ?
どうしよう?どうしよう?」
「ハハハハッ!
ごめん!ごめん!
いくらなんでも、そんな事、されんでしょ!
冗談!
部長は、そんな人じゃないよ!
それに、それ、私のだから...
おいしかった?」
「は、はい...とても...」
「なら、良かった!」
「じゃあ、行くね。
スマホ忘れてたんだ。」
「あっ、ありがとう!」
「うん!じゃ、また、昼休みに戻って来るから!」
ガラッ扉が閉まった。
何だーー!
いい奴じゃん!
ヨッシーより優しいよ!
ヨッシーはいつも、小言ばかりだもんな。
ヨッシーだったら
もう半殺しの目に合わされてたよ。
ナクサ!テメェー!
私の「まるごとバナナ」まるごと食っただろー!
お仕置きだーっ!
…てな感じだよ。
あー、どうしてるかな。
ヨッシー...
みんなも、心配してるだろうな。
母ちゃんも、父ちゃんも...
スマホの写真アプリを開いた。
園芸部員みんなとの夏合宿のスナップ写真が
突然目の前に現れた。
うっ...うう...
何でぇ...なんで、こんな事になるんだよぉ
寂しいよぉ...
ヨッシー...
助けに来てくれよぉ~」
七草は、テーブルに伏して泣いた。
涙が止めどもなく流れた。
そして、疲れ果てて
いつしか眠りについしまっていた。
続く




