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『現役僧侶が見た令和の地獄――怪談は今も生きている』  作者: 蒼龍 堅明


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第二夜:『虚飾の骸(むくろ)』

【三夜連続 二日目投稿】

私たちは今、かつてないほど「顔」に縛られた時代を生きています。

指先一つで肌を陶器のように変え、瞳を輝かせ、理想の自分を画面の中に作り出す。しかし、その虚像が完璧になればなるほど、鏡に映る「生の自分」との乖離に、言いようのない不安を覚えたことはないでしょうか。


仏教では、目に見える姿形に囚われることを「我執がしゅう」と呼びます。

今夜お話しするのは、死してなお、その虚像を守り抜こうとしたある女性の、哀しくも恐ろしい執着の物語です。


あなたが今、無意識に触れているそのスマートフォン。

そのレンズは、果たして「本当のあなた」を映しているのでしょうか。

その女性の遺影は、通夜の会場で異様な輝きを放っていた。

三十代半ばで急逝した彼女は、生前、SNSで数万人のフォロワーを持つ「美の象徴」だった。遺影は最新の技術で加工され、毛穴一つない肌、潤んだ瞳、完璧な骨格を備えている。


しかし、祭壇の下に安置された棺の中の現実は、それとは程遠かった。


「……先生、どうしても顔が戻ってしまうんです」

納棺師が青ざめた顔で私に囁いた。

何度表情を整え、死に化粧を施しても、少し目を離すと口角が不自然に吊り上がり、目がわずかに開くのだという。まるで、レンズの向こう側のフォロワーに向けて「最高の自分」を見せようと、死体が自ら筋肉を動かしているかのように。


深夜、私は一人で安置室の横を通りかかった。

静寂を切り裂いたのは、あの聞き慣れた音だった。


――パシャリ。


スマホのシャッター音だ。

慌てて中を確認したが、そこには誰もいない。ただ、彼女の死体の傍らに置かれたスマホの画面が、パスワードもかかっていないのに明るく光っていた。


画面に映し出されていたのは、自撮りモードのプレビュー画面。

そこには、棺の中で横たわる彼女自身の顔が映っていた。だが、画面の中の顔には、生前彼女が愛用していた「目を大きくし、輪郭を削る」フィルターが自動で適用されている。


ふと、棺の中の遺体に目をやると、彼女の指先が微かに動いた。

画面の中の「美しい自分」を維持するために、死してなお、彼女は自分の顔を必死に指でなぞり、歪ませていた。


「まだ……足りない……」


フィルターが外れ、画面に「無加工の死顔」が映った瞬間、安置室の鏡がすべて一斉にひび割れた。

【住職解説】


江戸の『沙石集』にも、死後も美貌や地位に執着し、醜い姿を晒す者の話があります。現代の「SNS映え」や「ルッキズム」は、まさにこの古典的な執着の現れです。


僧侶が行う「剃髪」は、虚栄心を根本から絶つ自戒の象徴です。死の瞬間、すべての装飾は剥ぎ取られます。彼女が見せた執着も、死という無加工の現実に直面したとき、逃れられない鎖となったのでしょう。


あなたは、フィルターや加工なしの自分の顔を、最後にいつ直視しましたか。


物語の結末を決めたのは怪物ではなく、自分自身の「無加工の姿」を受け入れられない心です。


※本稿は、著者が住職として経験してきた数多くの事象を背景に、仏教的教訓を伝えるために再構成した「フィクション」です。

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