勇者対談
「初めまして」
「初めまして」
その日の深夜。
東の勇者と西の勇者が初めて顔を合わせた。
顔が見えるほど明るくはなかったけれど。
「こうして話す機会を作れたことを感謝します」
「こちらこそです。お忙しい中本当にありがとうございます」
お互いに名前も活躍も知っていた。
だからこそ二人の勇者は互いに思う。
噂とは大分違うな、と。
そんな考えが顔に出たのだろう。
二人は同時に笑った。
「考えることは同じようですね」
「ええ。あなたも噂との違いに驚いたのでしょう?」
「そうですね。私は西の勇者は数え切れないほどの命を奪った恐ろしい悪魔だと聞きました」
「私も東の勇者は血も涙もなく世界を脅かす化け物と聞いています」
「同じような評価ですね」
「そうですね。事実でもあります。我々の評価は」
挑発ではない。
二人の勇者は共に自分を支えてくれる大切な民から相手のことをそう聞いていたのだ。
そして、困ったことに民の評価は真実でもある。
西の勇者は数え切れないほどの命を奪った。
東の勇者の生きる世界の民の命を。
東の勇者は世界を脅かしている。
西の勇者の生きる世界を。
西の勇者は西の世界を守るために。
東の勇者は東の世界を守るために。
「私の世界ではあなたは魔王と呼ばれています」
「私の世界でも同じです」
「……やはり、そうでしたか」
二人の勇者は寂しげに笑う。
種族の違いによる衝突。
一方を魔王などと呼んでしまうほどに切羽詰まった状況。
最早和解は叶わないことなど二人の勇者は分かっていた。
だからこそ二人は顔を合わせたのだ。
真実を知るために。
二人はもうしばらく雑談をした後にほとんど同時に手を差し出し握手をする。
「許してください。私には背負うものがあるのです」
「それは私もです」
朝の白い光が互いの顔を照らす。
生き残った方が勇者となり、殺されたほうが魔王となる。
そんな戦いが始まる直前に行われた対談。
握手はもう離れていた。
「では。参りましょう」
「ええ」
まるでダンスの合図のように二人の声は静かに響いていた。




