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あらしをよぶ転校生(予感の登校編)

作者: 聖なぐむ

 ぼくの名前は生馬(きば)はじめ。


 この度、遺跡調査のために年単位で中国大陸の奥地へ旅立つ考古学者の父の都合で、預けられる祖母の家の近くにある中学へ転校することになった。


 転校は初めての経験だ。



 転校先の学校は、地元ではとってもやんちゃな生徒ばかりだと有名なんだと心配そうに祖母が言う。元気な人が多いんだな。


 ぼくはどちらかというとインドア趣味で暗い方だと思うので、陽キャが多いかもしれない学校に馴染めるか不安だな。


 転校初日。ぼくはドキドキしながら、前の学校の学ランに袖を通した。二年生後半のこの時期に、新しい制服を買うのはもったいないからだ。



 説明されていた道順を思い描きながら曲がった塀の先で、男性とぶつかってしまった。


「いてぇ!!いってーなテメェ」


「あっ、ごめんなさい」


 貧弱なぼくと違い、よろめきもしなかった男性が振り返る。


「あー、骨折したかもな。これは骨折したわ」


「えっ、骨が脆い!」


「あぁ?!」


「大丈夫ですか?!とりあえず救急車呼びますね?!」


 父から預かっていたスマホを取り出すと、男性は「いいから!」とぼくの手からスマホを取り上げた。


「金で解決してやるからさ」


「骨折は変な風にくっついちゃうと大変なことになります!特に骨が脆い人は別の病気が隠れてるかもしれません!ちゃんと病院に行かないと!」


「うるせーな!ごちゃごちゃ言ってねーで金出せっつってんの」


「大丈夫、もちろん治療費は払います。父が個人賠償責任保険に加入しているので、安心してください!」


「保険とかじゃなくて!今この場で!」


「えっ無理しない方がいいです!」


 ぼくが説得しようとしていると、背後から「なんの騒ぎぃ?」と声をかけられた。


 振り返ると毛先だけ金髪にしてる派手な男性だった。


 病院に行くのを渋っていた男性は、「げ、ソネザキのキョウケン!」と呻く。


 曽根崎?曽根崎中学校はぼくの転校先だ。


「曽根崎の強肩」と呼ばれてるということは、野球部のエースとかなのだろうか。


「こんにちは」


 ぼくは挨拶した。


「曽根崎の強肩」さんはキョトンとしたあと、ぶは、と吹き出す。


「こちらのお兄さんが骨折してしまったというので、病院に行くべきだと説得していたところです!」


「はぁぁ?」


「なぁにオニーサン、骨折してんの?どこどこぉ?」


 ニコニコと強肩さんが近寄ると、骨折しているお兄さんはぼくにスマホを放り投げて「もういいから!」と立ち去ろうとする。


「ダメですって!病院に行かないと!」


「だからもういいって!」


 追いすがろうとしたけれど、振りほどかれて走っていなくなってしまった。


 痛くないんだろうか。心配だ。



「見ない制服だねぇ」


 ハラハラしながらお兄さんのいなくなった方向を見つめるぼくの学ランをつまんで、強肩さんが言う。


「ぼくは今日から曽根崎中学校に転校してきたんです。あ!遅刻しちゃう」


「へぇ。おれも曽根崎だからぁ、一緒に行こうぜ?」


「いいんですか?道順うろ覚えだったのでとても助かります!」


 強肩さんに肩を組まれ、ぼくは学校に向けて歩き出した。




「おれは橋木佑哉。おまえは?」


「生馬はじめです。二年生です」


「タメじゃん」


「タメっていうのは同い年ってことですよね!じゃあ橋木くんも二年生なんですね」


「そぉ」


「二年生でエースなんて凄いですね!」


「は?なに、エース??」


「違うんですか?……さっきのお兄さんが曽根崎の強肩って呼んでたから、てっきり野球部のエースなんだと……」


「ウケる!キョーケン……なんでキョーケンでエースになんの?!」


「肩が強いって意味ですよね?肩が自慢の部活って他に何があったかな、えぇと」


「強肩て意味で言ってんの?ウケんだけど!はじめちゃん、変な子だねぇ」


「変ですか?」


「前のガッコで言われなかった?」


「前の学校では、ぼくはキマジメってあだ名をつけられてました。あ、全然真面目な性格ではないです!生馬って名字と、はじめって名前をギュッとされてただけで」


「生真面目ちゃんかぁ。あんねー、キョーケンてのは狂った犬って書く方の狂犬なんだぁ。昔っからそういうあだ名なのおれ」


「狂犬!……あ、わかった!水が苦手とか?!」


「は?」


「えっ、狂犬病って水を怖がる……」


「あははは!!ウケんだけど!そう言われれば特に狂犬要素ねぇじゃんおれ!やべぇ」


 どうやら、橋木くんは相当な笑い上戸らしい。狂犬要素はないので、橋木くんと呼んで欲しいらしい。


「生真面目ちゃん、うちのガッコの話聞いてるぅ?ろくでもねーやつばっかよ?」


「祖母から、元気な男の子が多いから怪我しないように気をつけてねって言われてます」


「そだねぇ。怪我しないよぉにね」


「はい!」


「特に金とかねぇ、持ってかない方がいいよ?カツアゲやるバカいるから」


「屋台ですか?!」


「は???」


「確かに、買い食いってお金遣っちゃいますよね!気を付けなきゃ」


「………?……??………………あ!あーーーーー、カツ??カぁツぅ揚げ~みたいな?ぎゃはははは!!!あーーー苦しぃーーー!」


 橋木くんは自分で言っておいて大声で笑う。本当に笑い上戸なんだな。


 カツ揚げ……カツって揚げてるものだと思ってたけど、最近は焼くカツもあるって聞いたことがある。であればこそ、揚げタイプにこだわる感じだろうか。


 学校にコロッケとかメンチカツとか買える屋台あったら絶対に毎日買っちゃう。休み時間ごとに買っちゃうかも。お財布すっからかんになっちゃうなぁ。


「はぁ、なんて危険な学校だろう」


「危険の意味がちげぇ!あははは!!生真面目ちゃん!!生真面目ちゃんキミさぁ!あははは!!」


 橋木くんに組まれた肩をぐぉんぐぉん揺らされてちょっとふらふらしつつも、ぼくは転校初日から友達ができたことが嬉しくて、ニコニコ顔で橋木くんと一緒に校門をくぐった。



乙女ゲームやシミュレーションゲームにありがちな、空気と文脈が読めないタイプの天然主人公。ゲームではよくいるけれど、文章で書くとヤバさが際立ちますね。

橋木くんは語彙力が死んでるタイプです。

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