異世界帰りの元おっさんは高校生に戻り、異世界から連れてきた美少女王女と青春無双する
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目が覚めると知らない天井を見上げていた。
「……なんだ?」
工場勤務歴20年。ブラック企業で社畜と化していた俺――佐伯直樹(40)は昨日まで夜勤明けで家に帰ってぶっ倒れて生きた屍と化していたはずだ。
だが今、俺の目の前にいるのは光り輝く衣装をまとった女神だった。
「あなたは我らの世界を救う勇者さまです。どうか悪しき魔王を倒していただけないでしょうか?」
そう言われると訳もわからず異世界に召喚された俺。
だけどまぁ、やるしかないだろと腹を括った俺は剣を取り、魔法を覚え、必死に戦った。
不器用だったが人一倍の努力で成り上がった。
魔王軍は1体1体が非常に強力で四天王クラスになると生命の危機に瀕したこともあった。それでも俺は戦い続けた。
――――気づけば「最強の勇者」と呼ばれるまでになっていた。
そして、全ての戦いが終わったあと。
女神は言った。
「勇者さま。お望みならば元の世界にお戻しします」
「そうか……」
「あと――――お連れしたい方がいらっしゃるのであればその方も元の世界に転移させることが可能です」
迷わなかった。
俺が異世界で1番心を通わせた存在――リリシア王女。
彼女と共に現代へ帰還することにしたのだ。
――――しかし、ここで女神がミスをやらかした。
「すみません、少し手違いで……高校生時代に戻ってしまいました!」
いや、どんなミスだよ⁉
ツッコミたかったが、女神は申し訳なさそうに頭を下げるばかり。
とうとう土下座までかましてきて今にも俺の靴を舐めようとしている。
「うう……そこまでしなくていいから」
まあ、40歳の俺に戻るよりはマシか、と自分に言い聞かせて受け入れることにした。
「戻ってきたのか」
元の世界に戻ってきて最初に目に入ったのは鏡に映る自分だった。
「まさかな……」
そこには冴えない高校生時代の俺ではない。
異世界で鍛えた精悍で引き締まった俺が映っていた。
「別人って思われても仕方がないな」
高校時代の俺はもっともっさりとした髪型のイケていない陰キャだった。
でも今の俺は対照的な見た目をしている。
本人だと証明するのが難しいな。そこらへんは女神がなんとかしてくれているのだろうか。
「あの女神なら――――やっていなさそうだな……」
神妙にそう呟く俺の横には異世界から来たリリシアがいる。
制服姿に着替えると少し不安げに微笑んだ。
「ナオキ、これがあなたの世界なのですね?」
俺たちは再び新たな世界へ足を踏み入れたのだった。
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異世界から日本に戻った俺はカバンを漁ってようやく現状を把握した。
「うわー、この高校にまた通うのかよ……」
俺は高校生時代に通っていた学校の生徒。
リリシアは『国際留学生』という扱いになっているらしい。
用意されている制服はリリシアの体にぴったり合うよう仕立てられていたし、履歴書まできちんと作り込まれている。女神さん、ミスはしたが仕事は妙に細かいね。
「それにしても……この世界の服、少しきついですね」
リリシアがシャツのボタンを引っ張りながら呟く。
異世界で王女として毎日栄養満点の食事を取ってしっかり育てられた彼女はスタイルが抜群だった。特に胸のボリュームがシャツのボタンをギリギリ悲鳴を上げさせている。
シャツが今にも死にそうだ。
「……ま、まあ、慣れだ、慣れ!」
変な汗をかきながら目を逸らす。
昨今はセクハラ関係にうるさいからな。
日本に戻ったのなら大人しくしないと。
一方、家については少し事情があった。
母親はすでに病気で他界しており、父親はブラジルへ長期赴任中。
これは前世と変わらないな。
つまり、俺とリリシア、2人きりの家暮らしになるわけだが……。
「2人だけですね、ナオキ」
「……そ、そうだな」
やたらと近い距離感にドギマギする。
異世界では毎日一緒に過ごしていたけど未だに付き合いたての恋人のようなフレッシュさがある。
「じゅ、準備をしよう」
俺はとにかく明日の登校準備を進めた。
そして迎えた翌朝。
「案内するよ」
「ふふっ。お願いしますね」
俺たちは制服に着替え、並んで登校することにした。
通学路を歩く俺とリリシア。すれ違う学生たちがチラチラこちらを見る。
――――そりゃ、そうだよな……
こうなることもわかっていたので本当は別々に行動したかったのだが初日から1人で登校させるのも酷だと思い今日は一緒に歩くことにした。
「ねぇねぇあの子すごくきれいだよね」
「隣の子もかっこいいよね」
俺は改めて自分の今の容姿を思い知った。
異世界で鍛え抜いた俺の身体はスラッと引き締まり、顔立ちも大人びている。
そのうえ、隣にいるのはモデル級の美少女――リリシアだ。
目立たないはずがない。
とはいえ、俺には前世の記憶がある。
この学校で、俺は「冴えない、いじられキャラ」として過ごしていた。
教室の隅で小さくなりながら、いじめに耐えた日々。
その記憶が脳裏にちらつき、どうしても気分は重くなる。
「……ふぅ」
ため息をつきながら、俺は校門をくぐった。
そして、運命の再会が待っていた。
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ホームルームが始まるまで教室はざわめき立っていた。
「なあ、誰あれ?」
「超イケメンじゃね?」
「隣の子も超かわいい……!」
耳をすませば、そんな声が飛び交っている。
視線を感じる。騒ぎ立てるクラスメイトたち。
俺はなるべく目立たないように机に向かい、小さく息を吐いた。
――――夏休み明けって設定がマジで助かったわ。
周囲が俺に気づくのに少し時間がかかったのも、夏休み直後だったからだ。
『ダイエットに成功したんだよ!』だの『イメチェンした。気合で!』の、自分でもむちゃくちゃと思える言い訳でゴリ押すと勝手に納得してもらえた。
前世ではぱっとしない生徒。あるいはいじめられているので近づきたくない生徒というカテゴリに分類されていた俺も今は自然とクラスに受け入れられている。
「しょせん、人は見た目か……」
容姿がいいので不快感なく受け入れられているのだろう。
なんか癪に障るけどストレスはないからいいか。
そして、ホームルーム開始。
担任が入ってきて、例の転校生紹介が始まる。
「えー、今日からこのクラスにドイツからの留学生が入ります。リリシア・フォン・リュクスさんです」
リリシアは緊張しながらも、優雅な仕草で一礼した。
さすがに異世界のお姫さまと紹介するわけにもいかないのでドイツ出身という設定になっているらしい。女神もそこらへんはしっかりしているのだなと思いつつも、彼女はドイツ要素が皆無なのでなぜわざわざドイツにしたのだろうと純粋に思う。
「初めまして、リリシアと申します。皆さんと仲良くできたら嬉しいです」
教室がどよめいた。
そりゃそうだろう。
金色の髪に宝石のような青い瞳。細い身体に存在感のあるスタイル。
まさに2次元から飛び出してきたかのような美少女だ。
「やべぇ……天使かよ」
「絶対モテるわ、あの子」
男子たちはすでにメロメロ。
女子たちもうっとりとリリシアを見つめていた。
そして、問題はここからだった。
リリシアは当然、俺の隣に座る。
あたりまえだ。家でも一緒なんだから、自然とそうなる。
【ちょっと緊張しちゃった】
そう異世界語で俺に話しかけてくる。
【初日はそんなもんだよ】
「おい。あいつなんて言ってんだ」
「わかんねぇよ。英語すらもまともに話せない俺がわかるわけないだろ」
「高野、英語得意だっただろ。なんて言ってたかわかるか?」
「いや――――彼女はドイツ人なんだから英語じゃなくてドイツ語を話していると思うんですけどそれは……」
頓珍漢な会話をするクラスの男子を見てクスっと笑うリリシア。
「楽しい人たちがたくさんですね」
その笑顔にハートを射抜かれた男子たちがその場で倒れ込む。
「お、俺……死んでもいいぜ」
「ここは天国かな?」
「先生。俺の心臓が変です!」
「心臓というよりも頭が変でしょう」
時と場合によっては問題発言になりそうなことを言い出す担任。
高学歴の数学教師だからという肩書を持っているのでやはり一般常識が欠けている。
久しぶりの学校生活に満足していた俺。
クラス内の雰囲気も悪くないし、リリシアが笑うだけで和やかになる。
でも、それを快く思わない存在がいた。
──いじめっ子、杉田涼だ。
杉田は前世でも俺にちょっかいを出してきた男だった。
でかい態度に金髪、ピアス、校則違反フルコースのクソヤンキー。
しかも、親が地元でちょっとした有力者なので教師も腫れ物扱いしていた。
「……なぁ」
休み時間、杉田が俺の席にやってきた。
その後ろには取り巻きたちもぞろぞろとついてくる。
「おい、お前。リリシアちゃんと仲良さそうじゃねぇか」
ねっとりとした目つき。
クラスの空気がピリっ、と張り詰めた。
「……たまたまだよ」
俺は無難に受け流したつもりだった。
だが、杉田は納得しなかった。
「昼休み、屋上来いよ。大事な話があんだ」
そう言い残し、杉田たちは去っていった。
リリシアが心配そうに俺を見る。
「ナオキ……?」
「大丈夫だ。心配するな」
にっこり笑いながら、俺は言った。
――――実は、内心わくわくしていた。
異世界帰りの俺ナメんなよ。
杉田涼。前世の仕返し、きっちりさせてもらうぜ。
そして、昼休み。
俺は1人で屋上に向かった。
「……来たか」
待ち構える杉田とその取り巻き数人。
そして――――なぜか、リリシアもついてきてしまった。
「ナオキ、危ないことはしないで」
リリシアは俺の袖を掴み、必死に止めようとする。
だが、もう遅い。
杉田はニヤリと笑い、俺に宣言した。
「リリシアちゃん、俺が守ってやっからさ。お前、空気読んで消えてくれよ」
取り巻きたちがドッと笑う。
あー、だめだこりゃ。
もはや話し合いの余地などない。
俺は制服のボタンを外しながら杉田を見据えた。
「……だったら、勝負するか?」
「やけに積極的だな。本当に佐伯か? 別人みたいだぞ」
やたら勘がいいよな。ま、確かにダイエットで誤魔化せないくらい見た目が変わってしまっているからそれが正常な反応だろう。むしろあんまり追及してこなかった他のヤツらの方がおかしい。
「ま、いいぜ。お望みどおりに消し炭にしてやるよ」
杉田が先に仕掛けてきた。
振りかぶる拳。
――――だが、遅い。
異世界で魔王を倒した俺の反応速度は人間離れしていた。
余裕でかわし、カウンターとしてデコピンをお見舞いする。
「――――がはっ!」
たったそれだけの攻撃で杉田の体が吹っ飛び、鉄柵に激突した。
「な、なんだコイツ⁉」
「や、やっぱ別人なんじゃ……」
「それかクスリでもやってるか……」
取り巻きたちがざわめく。
「次はお前らの番だ」
俺はニヤリと笑い、歩みを進めた。
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屋上に、取り巻きたちの悲鳴が響いた。
――――数分後。
「う、うう……こいつ化け物だ」
「息を吹きかけるだけで俺たちの身体を飛ばすとか……まさか超能力者か⁉」
「やっぱりなんかおかしいぞ」
地べたに這いつくばる杉田と取り巻きたち。
俺は制服の袖を軽くはたきながら、彼らを見下ろしていた。
「や、やめてくれ! い、いじめていたことは謝るから!」
そう命乞いをするかのようなセリフを投げかける。
「俺が同じことを言ったときお前は見逃すどころか殴り続けたよな?」
「ひ、ひいいいい!」
すると杉田は涙を流しながら土下座をする。
「お、お願いします! た、助けてください!」
「ナオキ、もうそれくらいにしてもいいと思う……」
「リリシアがそう言うなら……」
もう1度絡まれても面倒なので徹底的に叩きのめそうと思っていたが不安げな表情を見せるリリシアに言われたら仕方がない。
「これくらいにしておく。リリシアに感謝しろ」
「は、はいいいい! ありがとうございますうううう!」
プライドも身体もズタズタになった杉田を置いて、俺たちは屋上から立ち去ろうとする。
「ありがとうございます。わたしのためにあんな戦ってくれて……」
「元の世界でも同じようにやってきた。それをこっちの世界でもやっているだけだ」
「さすがはわたしの勇者さまです!」
その直後だった。
「――――杉田。お前ら、なにをしている!」
担任が駆けつけてきた。
どうやら誰かが通報していたらしい。
倒れている杉田たち、無傷の俺とリリシア。
担任の顔が見る見るうちに険しくなる。
……そして、その日のうちに事情聴取。
俺は正当防衛を主張し、リリシアも証言してくれた。
「な、なんで俺たちが退学なんて……」
「殴る蹴るの暴行に加えて佐伯に対する日頃のいじめときた。無罪放免とはならないのは当たり前だ」
「そ、そんなの親父に言いつけたらどうにでも――――」
「退学は君のお父さんたっての願いだ。もうこれ以上かばいきれないらしい」
「そ、そんな。嘘だああああ!」
結局、杉田たちは暴行の主犯と見なされ、全員退学処分。
逆に俺は無罪放免。むしろ「正義のヒーロー」みたいに扱われることになった。
次の日。学校中が俺とリリシアの噂で持ちきりだった。
「聞いた? ナオキ君、超強いんだって。意外よね」
「夏休み中に修業したってさ」
「へー、俺もなんか武道習って女の子を救うヒーローになろっかなー」
「リリシアちゃん。ナオキ君に守ってもらったんでしょ?」
「カッコよすぎる……」
ざわざわ、ざわざわ。
女子たちが俺に話しかけてくる。
男子たちも好奇の眼差しを向けてくる。
――――まるで、異世界で勇者をやっていた頃みたいだ。
「ナオキ。今日も一緒に帰りたいです」
リリシアは俺にぴったりくっつきながら、そんなことを言ってきた。
「もちろんだよ」
自然に手を取り合いながら、校門を出る。
秋の空は高く、どこまでも澄み切っていた。
帰り道。
俺とリリシアは並んで歩いていた。
「ナオキ……」
「ん?」
「わたし、ナオキと一緒にいられてすごく幸せです」
リリシアは恥ずかしそうに顔を赤らめながら言った。
「元の世界でもナオキがいたからわたしは頑張れた。こっちの世界でもナオキがそばにいてくれるならきっと大丈夫だって思えるんです」
胸が熱くなる。
こんなにまっすぐ想いを伝えてもらえるなんて、前世じゃ考えられなかった。
昔の俺ならきっとうつむいて、聞こえないふりをしていたに違いない。
でも、今の俺は――――。
「リリシア。俺も、ずっとお前と一緒にいたい」
まっすぐに言葉を返した。
リリシアの瞳が潤み、やがてぱぁっと笑顔が咲く。
手をきゅっと握られる。
……ああ――生まれ変わったんだな、俺。
異世界で手に入れた力と自信とそして大切な存在。
それを胸に抱いて、俺はもう一度人生を歩み始めた。
前世では味わえなかった、最高の青春を――――。
家に帰るとリリシアはエプロン姿で晩ごはんの支度を始めた。
「ナオキ、今日はハンバーグだよ! ナオキのために、がんばるね」
「マジか、最高!」
家に広がる、美味しそうな匂い。
食卓には温かい料理と笑顔があった。
こんな日々を俺は前世で1度も手に入れられなかった。
けれど今なら胸を張って言える。
――――これが、俺の新しい人生だ。
リリシアとそしてこれから出会う仲間たちと。
俺はもう一度人生をやり直していく。
笑って、泣いて、恋して、夢を見て。
すべてを抱きしめながら――――最高の青春を。
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