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15. 幸せな2人の幸せ(?)な結婚(中)

「出来の良い孫が、唯一譲らなかったのが君だからね。

 何としてでもこっそりお会いしたかったのだ」


 先々代に伯爵は冷たい視線を送る。


「目をかけて頂いていたのですね」


 マリーがとりなすと伯爵は微妙な顔をするし、先々代は頷いた。


「息子は育てるのに失敗したんだが、孫は素材が違ってね。

 女性を見る目まであったのかと、感心しておったのだ」


「もうお疲れなのではありませんか。

 そろそろお休みになられては」


 伯爵が刺々しい声で言う。


「そういう事にしておいてやろう。

 お嬢さん、孫は昔からは貴女を想っていた。

 それだけは確かだよ」


 それ以上喋らせまいと、伯爵はメイドを呼んだ。慌ただしく先々代の屋敷を後にして、伯爵と並んで馬車で帰る。


「驚かれたでしょう。

 祖父は万事あの調子ですから、初めて会ったときから無茶苦茶で」


 途方に暮れたように、伯爵はそう言い訳した。家族の縁が薄いという評判だったが、やりとりから親しさが伺え、人間味を初めて感じられた気がしたのだった。

 そのお茶会からしばらくして、今度はアンドレアとお茶会を開かれた。会場はもちろんバロウズ邸で、変わらずお互いに好きなものばかり用意されている。


「イーストン伯爵家へ招待状を出すことになるとは思わなかったわ」


 アンドレアは拗ねたように口を尖らせる。


「色々勉強中で」


「真面目ねぇ」


 馬鹿にするではなく、ただ呆れたように言われてマリーは苦笑した。

 隣国での新生活について聞いてみたが、アンドレアは楽しくやっているらしい。出店準備が忙しいらしいが、旦那様は協力的で幸せな忙しさらしい。


「せっかくだから、マリーのウエディングドレスを受注したいの。

 もう決まってるかしら?」


「まだ準備には取りかかってないの。

 伯爵に相談してみるわ」


「良かった!

 エンフィールドの生糸で良い生地が作れるようになったから、広告塔として凄いの作らせてもらいたくって!」


 嬉しそうなアンドレアのテンションが非常に高いので、凄いのがほんとうに凄い可能性が否めない。


「大人しいデザインが良いわ」


 マリーの控えめなお願いに、アンドレアは「任せて!」と力強く答えてくれた。なんとなく不安である。


「助けが必要だったら、頼ってね。

 マリーには幸せになってもらいたいから」


 別れ際に手を握って言ってくれたアンドレアは、やはり伯爵を疑っているようだ。

 伯爵にはアンドレアからの提案を受けたいとお伝えして、了承を得た。デザインのすり合わせに

 社交シーズンが終わり、次に向けてオートクチュールのドレスの発注と、結婚式の準備かダブルでマリーに襲いかかってきた。

 全てイーストン伯爵家持ちになるので、出来る限りシンプルにとお願いする。どの担当者もニコニコと聞いてくれたが、果たしてマリーの希望はどこまで通るのか不明である。


「エンフィールドの黄金生糸で飾るよう、お嬢様から承っております」


 バロウズの担当者だけは、自信たっぷりにそう言った。エンフィールドはマリーの元同僚の実家で、アンドレアには買い付けのために紹介状を求められたことがある。バロウズが仕入れてくれたならば、きっと実家の窮状も抜け出せたものと思われる。

 その装飾だけは同意した。しばらく会っていない同僚が、どうしているか気になる。親しくしていたし、彼が苦渋の決断で実家に戻ったことも知っている。確かエンフィールドはイーストン領からそう遠く無かったはすである。

 ドレスの発注や、王都で済ます用事を全て終えて、マリーは伯爵についてイーストン伯爵領に向かう予定になっている。そのついでに向かうことはできないのだろうか。


「エンフィールド領に行ってみたいのですが」


「エンフィールドへ?」


 伯爵に提案すると、非常に驚いた様子だった。


「バロウズ家に紹介状をお渡ししたことがありまして、一度様子を自分で確認したいのです。

 一人で向かうのでも構いませんし、護衛なども別に……」


 マリーの言葉を遮るように、伯爵は「わかった」と言った。


「手配しておこう。

 長居はできないが、それでも良いかな?」


「もちろんです」


 自分に甘い伯爵に甘えるのは申し訳ないが、ここはありがたく甘えさせてもらうことにする。

 おかげで領地で過ごすオフシーズンは充実したものになった。イーストン領の城は元々砦を改築したもので、伯爵の華やかな雰囲気にはそぐわないどっしりとした外見をしていた。領地内はよく統治されており、人の多さに対して治安も随分良さそうだった。

 行程にねじ込んでもらったエンフィールド領は、活気にあふれていた。これから頑張っていくぞ、領主一家をもり立てていくぞ、という暖かい空気に包まれていた。同僚だったセドリックも、婚約の話が進んでいるようで本当に良かった。

 領地で過ごす期間中も、マリーは当主様の大切な婚約者として丁重にもてなされた。一つだけ仕事だと言われたのは、マリーに与えられる予定の夫人の部屋の内装と調度品についての打ち合わせくらいである。

 滞在は半月ほどだったろうか。伯爵の仕事の都合がつかないという理由で王都に戻った。


「名誉職だし、もうすぐ辞めるから」


 伯爵は王都に戻る馬車の中で、うんざりしたように言っていた。

 そうして王都に戻り、マリーは一つ心に決めた。


(やっぱり、疑うのはやめよう)


 王都でも、領地でも、伯爵がやっと連れてきた婚約者としてマリーは丁重に扱われている。邪険に扱われることも、そういう素振りも、予兆すら見当たらない。アンドレアはきっと、マリーを心配してくれているだけなのだ。そうでなければこの待遇は意味が分からない。

 公然の秘密だったのかもしれないが、隠居している先々代とお会いできたのも、伯爵に対する印象を変えた。人の子だった、という当然の事を再確認し、かなり遠い存在から少し遠いくらいの存在にまで位置が変わったことも大きい。

 領地から戻ってから、先々代からまたお茶会のお誘いがあった。一応行き先を伯爵に告げて、郊外のお屋敷に伺う。


「あいつは小生意気な子どもでね」


 先々代は楽しそうに伯爵の小さい頃の話を聞かせてくれる。その話の中で、幼い頃の伯爵は真面目で、与えられた課題に真剣に取り組み、そして、ほぼ全ての内容で先々代の予想を越えたらしい。単純に孫自慢である。

 伯爵は先々代とマリーが仲良くするのを、あまり良く思っていない様子である。


「祖父は何か失礼なことをしなかった?」


「いいえ、何も。

 昔話を少しだけ」


 マリーがそう言うと、大体の中身を察したのか恥ずかしそうに頭を抱えていた。その様子が今までの完璧な近衛隊隊長、イーストン伯爵のイメージから大きくかけはなれていたので、少しだけ笑ってしまった。


(たぶん、大丈夫。

 たぶん)


 自分に言い聞かせるように。

 もうすぐアンドレア肝煎りのウエディングドレスも仮縫いが終わる。デザイン画の時点で、トレーンの装飾が非常に手の込んだものだった。

 生地はエンフィールド産の生糸で、装飾はエンフィールド産の黄金生糸である。正面からは装飾の少ないドレスに見えるが、バックスタイルは華やかなものになる予定だ。ヴェールもおなじく黄金生糸で装飾されるし、ジュエリーはイーストン家で受け継がれてきた大粒のダイヤがあしらわれたものになる予定である。

 ドレスに関しては、バロウズが、と言うよりかはアンドレアはこの素材を主力商品にしたいと考えているらしく、話題になっているイーストン伯爵の結婚式で皆の注目をあつめたいらしい。

 宝石に関しては、用意できるものの中で一番大きなダイヤを、という信念により選定された。

 どちらもマリーには過ぎる品質のものである。身の丈に合わないことは重々承知だが、アンドレアも伯爵も、それが良いのであればそれで良いのだろう。

2話でまとめるつもりが伸びてしまいました。

次で完結です。

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