4.街に行くことになりました
魔法を初めて習った日あれからもう1ヶ月ほど立とうとしていた。
毎日魔法の練習をして家事を当番で回しながらといったのんびりとした生活が続いていた。
そして分かってしまった。
自分には才能があると!
急な人格の代わりに驚いた人もいるかもしれない
しかし才能に気づいてしまえばこうなるのも無理は無いと思う。うん。
謙遜の日本生まれの者としてこの発言はどうかと思われる人もいるだろう。
だがしかし!
これに関しては己の才能をいかんなく発揮できていると自負している。確かにまだまだ奥は深いがその分私は高みに登ることが出来るだろう!
この才能さえあれば!!
そう!料理の才能が!
何を隠そうあれから毎日魔法の練習をして、その後料理を習ったりしていたのだ。
そうしたらもうこれだ、物の見事にハマってしまった。
前世ではただ味のしない料理を受け取り口に運ぶ作業で食事に関心を持ったことは無かったが、師匠の作る料理は美味しく密かに習うのは楽しみではあったのだ。
それをいざ始めるとやめられず、師匠から料理の本をいくつか貸してもらい既に独学に入っている(味見は師匠に頼んでいるが)
かく言う今も湖で取ってきた魚と貝をトマトで煮込んでいると
「弟子よ、最近魔法より料理している時間の方が長くないか?」
と呆れた顔をしている師匠がいた。
「師匠、味はどうですか?」
小皿にスープを掬い渡すとそのまま一口飲む
「うん、うまい!じゃなくて!魔法の練習はしっかりやれているのか!?最近魔法の練習時間終わりに魚を取ってきているがちゃんとやっているんだろうな!?」
「大丈夫ですよ。しっかり魔法の練習もやってます。この前だって師匠から出された試練にはちゃんとクリアしたじゃないですか。」
そう別に魔法の練習はサボっていない。ただ練習時間の最後の方に湖に向かって魔法を使うと不思議と魚が浮かんでくるのでもったいないから拾ってるだけだ。
けっして魚欲しさにそうしている訳では無い、たまたまなのである。
胸を張ってそう主張すると、師匠は大きくため息を吐き残念なものを見る目でこちらを見てきた。
そんな目で見るのはやめて欲しい
「明日、朝食を済ませたら街に降りるからそのつもりで用意しておけ」
突然の知らせだったとはいえ
「用意って生まれて一ヶ月程度の俺に持ってくものなんでないですよ。お金とかも持ってませんし」
そう服すらも最初に着せてもらっていた服しかないのだ魔法を使えば一瞬で洗濯乾燥まで行けるので困っては無いが
「明日は魔法の練習ができんからその分今日しておけということだ」
というやいなや俺の手からおたまを取上げ
「ここからは私が仕上げといてやるから、早く行ってこい」
「はいー」
とぼとぼと数時間前にいた練習場に戻ってくることとなった。
しかし街か、きっと教会に行ったり街でしか手に入らない食材を買い込んだりするのだろうそう思うと楽しみに思いいつもより魔法の練習は頑張ることが出来た。
ちなみに帰って出来上がっていた料理は練習に行く前より数段美味しくなっており悔し涙を流したのは誰も知らない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
街は半日ほど歩いたところにあるようで、朝イチから出発することとなった。
この世界に来て師匠以外の人に会うのは初めてなので楽しみだ。
「そうだ街に入る前にこれを羽織っておけ」
朝食もすませ身支度をして待っていると師匠から白いローブを渡された
意図が分からず首を傾げると
「そのローブには認識阻害魔法が組み込まれている、お前の身体から制御しきれず溢れる魔力とその瞳は見るものが見れば一瞬で魔人とばれるからな」
これさえ着ておけばなんだか小さい子がいる程度の認識になるそうだ
「ありがとうございます」
とりあえず礼を言い羽織ってみる、何も変わったようには感じないが師匠が言うので間違いは無いのだろう
「ところで街には何をしに行くんですか?」
何となく聞いてみる、街はそれなりに遠いと聞いているため何か用があるんだろう
「まずは食料の補充と教会に行くことと冒険者ギルドに行こうかね」
この世界には冒険者ギルドというものがあり世界の様々なところにあるダンジョンを攻略したり街の外にいるという魔獣を狩ることを生業としてるそうだ。
しかしなんのために行くんだろう?
「冒険者ギルドですか?なにか依頼するんですか?」
「いやいや、お前を冒険者として登録するんだよ。」
え?なんで?
「え?なんで?」
しまった思ってたことがつい口に出てしまった
「冒険者になれば魔獣の買取に持って行けるし依頼も受けれるからな、そろそろ実戦に参加し金を稼いでこい」
まぁ、いつまでも引きこもってる訳には行かないからな、その提案はありがたい
「あと純粋にそこで発行してもらえるカードが個人証明書みたいなものになる」
なるほど、免許証みたいなものか。
そういうのはどこにでもでもあるんだな。
話もそこそこに師匠の準備もできたようで外に出て街までの道のりを聞こうと振り返った瞬間抱き抱えられ体が宙を浮いた。
するとそのまま師匠は大きな羽を広げ空を飛んだ。最初の方は落ちそうで気が気じゃなかったがそのうち慣れてしまい
すごい、この異世界の景色には何度も感動させられる
それにしても
「飛んでいくなら教えて欲しかったです。心の準備とかしたかったのに」
師匠の顔を見上げながら言うと
「サプライズだよ、それにこうして飛ぶのは二度目だよ」
どうやら最初に出会い気を失ったあとこうやって運んだらしいが当然そんなの知るわけが無い。
しばらくそのまま飛んでいると大きな町が見えてきた、とても高い城壁に囲まれている。
「大きな町ですね」
「ここの領主がまともだからな、住民もイキイキしてる分発展も早いんだ」
口ぶりからして領主と面識があるのだろうか?
まぁ、八百年も生きていれば人脈もすごいんだろう
そうして街を眺めながら飛んでいるとなんだか薄い膜のようなものを通り過ぎた感触がした。
「師匠今のは……?」
「結界だよ、街に魔獣が入り込まないよう大きな町はああして結界を張っているのさ」
すごいな、結界は自分も作れるがこの大きさはさすがに無理だ
「それ専用の魔道具があってねそこに毎日数人がかりで魔力を補っているんだよ」
なるほどと感心していると高度がみるみる落ちてきた
「そろそろ街に着くからね、この辺りからは歩いていくよ」
ある程度の高さまで降りると師匠は翼をたたみ地面に着地した
半日かかると聞かされていたが1時間程度でここまで来れてしまった。
師匠はすごいな
そこから歩いてまちへ向かうと城壁の入口のところには甲冑を着た男が二人左右にそれぞれ立っておりこちらに気づくと頭を下げ挨拶してきた。
「ツクヨ様、お久しぶりです。おやそちらの子は?」
「久しぶりだな、こいつは私の弟子だ。ギルドカードも何も持っていないのだがいくら払えばよかったかな?」
「それでしたら銀貨一枚払ってもらってそれと魔力の登録をしてもらいます」
指紋を取っておくようなものだろうか
そう思いながら男に連れられ小さな部屋に入ると土台に置かれた水晶の前に連れてこられた
「この水晶に魔力を少し流してください」
言われるがまま手を置き魔力を流すと淡く水晶が光る
「はい、登録ありがとうございます。ツクヨ様は既に街に入っておられるのであちらの出口から出てください」
と入ってきたところとは別の扉をさしながら言う
「ありがとうございます」
と軽く返事をし、扉から出るとそこには建物や様々な姿をした人々が目に飛び込んできた。驚いていると後ろから「ようこそ、タンディー領へ」と門番から歓迎の言葉をもらった。
街に入るとすぐ横に師匠がおり
「どうだ?倒れていた時ぶりの街の景色は、お前の生まれた街だぞ」
あの時は静かなものだったが昼間はこんなに人がいたのか、それも明らかに人間じゃない種族もチラホラと見える
「凄いです。師匠連れてきてくれてありがとうございます」
と感謝も述べると、師匠は笑い
「まだまだ感動するには早いぞ、早速街を歩いて回るぞ」
そう言い手を引いて歩く師匠について行きながらキョロキョロと街を見回すと市場のようなところもあり旗目から見ても色々な食材が並んでいた
「師匠、師匠!ちょっとあそこ見てみたいです!」
そう言って市場の方に指を指すと
「買い物は後でしっかり回るからそんなに急ぐな
、まずは冒険者ギルドでギルドカードを作ってもらって教会に行ったあとはのんびり市場でもどこでも見廻るとしよう」
そう優しく言われ、少しはしゃぎすぎていたことに気がつきひとつ息を吐き
「分かりました、そういえば師匠門番の人から知られてましたけど有名なんですか?」
門番から様付けで呼ばれるなんてどういう立場なんだろう?
「この街からの依頼をこなしていたり何回か疫病を防いだりしていたらいつの間にかそう呼ばれとった」
なるほど、それは様付けで呼ばれるわけだ
「そういえばあの家にはどれくらい住んでいるんですか?街の人には魔人とバレていないんですよね?」
「かれこれ、三十年くらいかな最近引っ越してきたからな割と気に入ってる」
いや、三十年は最近では無い
師匠に時間のことで突っ込むのはもうとうに諦めている
そうこうしてるうち冒険者ギルドに着いた。ガタイのいい男や普通の背丈の女性など色々な人が出入りしている場所だ。思っていたよりも綺麗な外見をしてる
「着いたな、それじゃ金を渡すからお前一人で行ってこい」
そう言いながらお金の入った巾着を渡してきたら
「え、なんで一人ですか?師匠も着いてきてくれればいいじゃないですか?」
「これも試練だ、試練」
背中を押されるので渋々と中に入ると想像してたよりも人がいた、ドリンクや料理も中で提供してるようでテーブルで酒らしきものを飲んでいる男もちらほらいる
とりあえず受付だなと思い1番手前にあるカウンターに行くと茶色い髪の女性がたっていた
「すいません、ここで冒険者登録をして貰えると聞いたんですけど」
顔を上げ女性の方を見ながらそう伝えると女性は困ったような顔をして
「あのねぼく、冒険者になったら魔獣のいる森に行ったり戦ったりしないといけないのよ?僕にはちょっとまだ早いかなーと思うの」
まぁ、予想通りの返答が帰ってきた。
見た目は完全に十歳の子供だもんな、はいどーぞとは行かないだろう。
「大丈夫です、魔法が使えるので魔獣とも戦えます。それに住民カードとしても欲しいのでお金ならあります」
そう言い巾着袋をテーブルの上に置くと受付嬢はどうしたものかと乾いた笑いをしていると後ろから
「おい、ガキンチョ!あんまなめたこと言ってんじゃねぇぞ!」
とだいぶガタイのでかい男が腰に提げた剣をチャキチャキと鳴らしながら歩いてくる
「てめえみてえなガキが冒険者なんざ十年早いんだよ!住民カードなら商業ギルドで作ってもらえるからそっちに行きな!」
声でかでかと言われる。
だがしかしこちらも師匠から試練と言われているのだ、おいそれとは下がれない
そこで妙案を閃いたので受付嬢の方を向き
「ねぇ、お姉さんこの人って強いの?」
ガタイのいい男の方を指さしながらそう訪ねると
「この人はラガンさんと言ってCランクの冒険者でとっても強いのよ、だからほら謝って」
ヒヤヒヤとした顔を受付嬢はしているが、こちらとしてはそれは好都合だ
「ならさ、俺と勝負してこの人に勝ったら冒険者登録してくれる?」
と言うと、男は眉間に血管が浮き出した顔で
「おいおい、あんまり調子に乗ってると痛い目に合わせるぞ」
「ぼ、ぼく!?そんなこと言っちゃダメよ!ほら今ならまだ間に合うわ、あやまって!ね?」
師匠が外で待っているんだ。あまり時間はかけられない。
「怖いなら逃げなよ、この木偶の坊が」
その言葉で決闘が始まった。男は思いっきり拳を叩き込んできた。流石にこんなと子供に剣は抜かないか
ひとまずサッと後ろに飛んで拳を回避すると
「クソガキが!お灸を据えてやる」
そう言いながら手首を回す男、正直実力差がどれくらいあるか分からないので油断してるうちに不意打ちでやらせてもらう!
少年は足元に風の魔法を使い一気に男の目前まで飛び出すとさすがに男はめんくらい後ろに下がるが少年は足に魔力を集中させ足の筋力を増強し重い蹴りを男の顔面に向かって繰り出す。
それをくらい男は横に倒れるもすぐに起き上がる
出来れば今ので終わらせたかったが流石にそこまで上手くは行かないようだ
「なるほど、でかい口を叩くだけはあるんだな。」
頬をさすりながら大したダメージもなさそうに構えを取っている
さてどうしたものか……
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