31.別れの挨拶は大事です
ギルマスの家にはすんなりと向かうことが出来た。
ちなみにボックさんもそのままついてきている。
数日ぶりに来たその場所に少し懐かしくなる。
元々は師匠のおすすめの宿が無くなっていたところをエリに出会い助けてもらったところから始まったことだ。
あの出会いがなければ俺たちは事件に関わることもなかったし、事件のことを知ったところで動きはしなかっただろう。
そうかんがえれば宿が無くなっていたのも良かったのかもしれないな。
「ここが俺の家だ、女房礼を言いたがっているからぜひ会ってくれ」
ボックサンがそう言いながら玄関を開けると茶色い紙を長く伸ばした女性が出迎えてくれる。
この人がギルマスの奥さんなのかな?
「いらっしゃい、お待ちしてました。中へどうぞ」
家の中に案内されるとリビングに案内される
「すぐお茶を出しますので待っててください」
「いや、先にエリちゃんの所に案内してくれ。大丈夫だとは思うが一応様子を見ておきたいからね」
「あぁ、そうだな。俺が案内するからお前はお茶の用意をしといてくれ」
そのまま家の中の階段をのぼり二階にある部屋に入るとベットに横になっているエリの姿があった。
頭には人間とは違った犬のような耳が生えている。
「うん、魔力の流れも正常だし問題は無いね」
「エリはちゃんと起きるんだよな?」
師匠は問題ないと言うがギルマスはそれでもまだ不安が抜けないみたいだ。
あれから目が覚めてないということはえりは一日半位は寝たきりということだから親としては当然といえば当然だ。
「どれ位で起きるかは分からないけど大丈夫だよ、このあとすぐ目覚めるかもしれないし一週間以上かかるかもしれないけどね」
「一週間以上って食事も取れないのに大丈夫なんですか?」
「獣人になってるからね、水分と魔力を注いでやれば大丈夫だよ」
なるほど、獣人になったのが幸いしたのか?
いやいや、そもそも獣人になったからこんなことになってるのか?
「目覚めるってんならそれまでいくらでも待つさ」
「そうですね、エルフの得意分野ですよ」
エルフは異種族の中でも寿命は長い方だ。
そういえばボックさんって何歳くらいなんだろう?
師匠ほどはないんだろうけどそこそこ長生きしてるのかな?
「それじゃあ下に降りよう、お茶が冷めちまう」
先程のリビングに戻ってくるとテーブルには人数分のお茶が既に用意されていた。
ちなみに椅子がひとつ足りずに俺は何故か師匠の膝の上に座らされている。
最初は抵抗したが師匠に捕まってしまえばもう逃げ出すすべがないことはよく知っているのでもう諦めた。
改めてそれぞれ椅子に座るとギルマスの奥さんが頭を下げると続いてギルマスも頭を下げる
「私たちの娘を助けてくれてありがとうございます。」
この数日でもう何度お礼を言われたか数え切れないな、それだけ大事だったという事なんだろうけど。
「俺も改めて父親として言わせてもらう。三人とも本当にありがとう」
こうまっすぐ言われると何度言われても少し恥ずかしいものがあるな。
「しかしエリちゃんから両親の名前を聞いた時は驚いたね。まさか二人の子とは」
そう言われれば師匠は名前からエリの両親の事は知っている感じだったな
「俺だってボックに教えてもらった二人があんたらだとは思わなかったぜ」
「そういえばダグマさんはどうして二人のことを知っていたんです?ギルマスとはいえ冒険者全員覚えてる訳では無いでしょう?」
冒険者ギルドであった出来事をボックさんは知らないので当然の質問だがその件に関しては俺は少しバツが悪い
いや、俺は何も悪いことはしてないんだがな
どっちかと言うと被害者だ
「あぁ、ツクヨさんの方は元々冒険者ギルドでは有名だからな。コハクの方は冒険者に登録した日に絡んできた冒険者をぶっ飛ばしたから流石に覚えた」
「俺は悪くないですよ、悪いのは絡んできたあいつとわかってて放りだした師匠です」
「なんで私に来るのよ、それを言うならコハクも若干煽ってたし元はと言えば冒険者をちゃんとしつけれてなかったダグマが悪いね」
「俺に来るのかよ…」
ギルマスは俺と師匠の責任の押し付け合いの飛び火がかかり呆れた顔をする。
「ツクヨさんたちの言う通りよ、あなたってば最近書類仕事ばっかりで表に出てこないから舐められてるのよ」
「うっ」
そういえば奥さんも冒険者ギルドで働いてるって言ってたな。
奥さんにも文句を言われギルマスは机に突っ伏した。
どうやらギルマスは尻に敷かれてるらしい。
こんなに身体はでかいのに……
「それにボックも娘のためにそんな腕になって……」
「エリちゃんの命に比べれば安いもんですよ、それにそう困ることも今のところないですしね」
「ありがとう、でもたしかにあなた元々家事しないし不便はなさそうね」
「うっ」
もう一体机に倒れる死体ができた。
たしかラビッテさんだったか、この人見た目と違って火力高いな!
「ほら二人とも!恩人の前でなんて姿勢で話してるの?ちゃんと背筋を伸ばしなさい」
いや、こうなったのはあなたのせいだろ!
多分この場にいるラビッテさん以外の全員が同じことを心の中で叫んだだろう。
「ごめんなさいねツクヨさんに、コハクくんだったかしら?」
そういえば自己紹介はしてないな
「はい、コハクです。」
「私はラビッテ、私も冒険者ギルドで働いてるからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「ま、まぁラビッテは部所的にも俺より会うことは多くなるかもしれんな」
のそのそと起き上がりながらラビッテさんにK・Oされたギルマスは話し出すが、部所的?
「私、冒険者ギルドの解体所のリーダーをしてるのよ」
なるほど、確かにそれはギルマスより多そうだ。
ていうかそんな所があったのか、俺には獣の解体なんて出来ないから助かるな。
「私も何回か持って行ったことがあるが何故かいっつも怒られるんだよな」
師匠がコソリと耳打ちして教えてくれるがどういうことだ?
どうして持って行ったら怒られるんだ?
「ツクヨさんは毎回珍しい魔獣とか獣を持ってきてくれるんだけど量が多すぎるんですよ、あれ一日分じゃないですよね?」
師匠の耳打ちが聞こえたらしくラビッテさんから不穏な空気が流れてくる。
「だって毎回街に降りるのは面倒じゃないか」
「だったらせめてギルドに卸す量を考えてくださいよ!毎度毎度あんなに持ってこられて腐らせないよう早くしなきゃいけないのに……」
「ごめんて……」
ラビッテさんがぶつぶつと念仏のように愚痴を言い始めたので師匠も流石に罪悪感を感じたのかすぐに謝る。
師匠が大量の魔獣を出す姿が目に浮かぶな……
師匠は自分で作ったアイテム袋がとんでもなく高性能ということもあってまとめて持ってきてるんだろうな。
「まぁまぁ、ツクヨさんも悪気があるわけじゃねぇらかいいじゃねぇか」
「あなたは私の報告書を貰うだけだからいいですよね!」
「俺も気をつけます」
まだ何もしていないが何となく流れでついそう言うとラビッテさんはこちらに大きく身を乗り出し俺の方を掴む。
「本当にお願いしますね!そこだけは絶対に似ないでください」
めちゃくちゃ懇願された
師匠普段どれだけの量持っていってるんだ……
「ふつう本人の前で言うかね?」
「ツクヨさんにはどれだけ言っても効果がないので」
師匠相手にここまで引かない人は初めて見たかもしれない
まぁ、それだけ不満が溜まっていたんだろうな
「とりあえずその話は置いといて」
あ、逃げたな
「ダグマにはもう聞いたがラビッテは娘が獣人になっても育てられるのかい?」
唐突な師匠の真面目な話題にラビッテさんは一瞬キョトンとするがすぐに「はい」と返事をする。
「お前たちがどのくらい認識してるのかは分からないが昔より良くなったとはいえ異種族の壁はある」
師匠のその発言にボックさんは少し俯く。
きっと昔にあまり良くない思い出でもあるんだろう。
「自分たちとは違うところも出てくるし理解できないことだってある。周りの人間たちにも邪険にされるかもしれないよ」
それは師匠の体験談なのだろうか、一つ一つの言葉に重みを感じる。しかしそれに対してもギルマスもラビッテさんも真摯に受け止める
「それでも私たちの娘ですから、もしこの街から嫌われてでも私は家族を守ります。」
揺らぎなくそう言うラビッテさんに満足したのか師匠も背もたれに体を預ける。
「そうかい、なら頑張ることだね。私から言えることはもうないからね」
「それに元々子供なんて親からすれば既に異種族並に分からないことだらけですから。ツクヨさんも分かるんじゃないんですか?」
そう言いながらラビッテさんは俺の方を見てくるがそれは心外だ。
「俺は真面目ですからね、師匠も困ったことは無いんじゃないですか?」
「お前、それ本気で言ってるのか?」
師匠からありえないものを見るような視線が飛んでくる。
ちょっと待って欲しい
「なんですかその目は!いっつも師匠の言うこと聞いてるじゃないですか!?」
「どこの世界にここまで師匠を敬わない弟子がいるっていうんだ!」
「それは師匠が変なこと言ったりするからですよ!?」
もはや俺と師匠のいつものやり取りとかした言い合いをしていると周りの三人が笑いだし俺達も釣られて笑ってしまった。
「さて、それじゃあそろそろ帰ろうかね。」
「もうそんな時間か」
既に昼は過ぎているのでそろそろ帰らないと家に着くのが遅くなってしまう。
「僕が門まで送りますよ」
ギルマスたちとはそのまま家で別れることにしボックさんがもんまで見送ってくれるらしい。
「本当に娘のことはありがとうございました」
「冒険者ギルドでいつでも待ってるからな!次は元気なエリとまた遊んでやってくれ!」
そう言いながら大きく手を振って見送られながら俺と師匠とボックさんは門へと歩いて向かった。
おかしいな、今回で街は出ようと思ってたのに……
なかなか上手くはいかないですね。
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