28.危機は唐突に訪れるものです
俺にとっては少しばかり居づらい時間が流れる。
「お見苦しいとこを見せた、申し訳ない」
「すいません、取り乱しました」
本当はまだ感情の整理が落ち着いてないはずなのに二人はソファに座り直し軽く謝罪する。
「気にしなくていい、それより頼みがあるんだが」
「はい?頼みですか?私に出来ることなら協力しますが」
頼み?領主に何を頼むんだろう?
「こいつがしばらくは冒険者として夜にも街の出入りを一人でするだろうからいちいち捕まらないようにして欲しいんだ。」
「冒険者に登録していれば……いや、その容姿なら誤解もされますね。分かりました、私から衛兵と門番には伝えておきます。」
なるほど、たしかに今の俺の見た目は完全に子供だ、夜に街をうろつけば門番に捕まって面倒になるのが目に見えている。
その手間が無くなるのは素直にありがたい。
「その歳でもう冒険者に……いや、見た目以上の年齢なのか?」
俺が冒険者ということにヨゼフさんは驚き考え込む。
その時部屋の扉が開きヨナさんが入ってくる
「お待たせいたしました、お茶をお持ちしました。遅くなって申し訳ないです」
確かにもうそろそろ話も終わりそうな頃合だ、何かあったのだろうか?
こころなしか目元がさっきより少し赤くなっている?
「!!またお前は……」
「……!!」
しかしヨナさんを見たヨゼフさんは絶句し領主も頭を抱えている
え?なにごと?
訳が分からず師匠の方を見ると師匠もなんのことか分かっていなさそうな顔をしている
「普段はいいが客人が来る時くらいやめろといつも言っているだろう」
「だってあなた、私に二人が来ること秘密にしてたでしょ?」
「秘密にしてた訳では無い、いつ来るか分からなかったから伝えてなかっただけだ、大体礼をするだけなのだから俺と時期領主のヨゼフで十分だ」
「またそんな面白くないこと言って。こんな容姿のいい……ゴホン、この街の恩人達が来るなら私もお礼をするのは当然です」
なんだなんだ?
ヨナさんはただの使用人じゃないのか?
「お母様!客人の前では恥ずかしいからやめてくださいよ!」
絶句し遠のいていた意識から帰ってきたヨゼフさんが大きな声で叫ぶ
お母様!!
ヨゼフさんのお母さんということはつまり…
「領主の奥さん?」
「ゲルドの奥さん?」
師匠と声がハモる
「はい、そうなんです。でも普段からこの格好でお仕事しているから決して騙そうと思ったわけじゃないんですよ?」
通りで気品がある訳だ、でもなんでメイドの格好で?
ていうか……
「師匠は知らなかったんですか?何回かここには来てるんですよね?」
「いや、奥さんとは会ったことがなかったから……」
師匠も驚いてみるみたいだ。
「えぇそうですよね、前回来てくれた時も私には秘密にされてましたからね。ね?」
ヨナさんが領主をじろりと睨みつける
「別に前回もその前も秘密にした訳じゃない、さっきも言ったがわざわざお前に話すことでは無いからだ」
「あらそう?ならもう話は終わってるはずよね?それじゃあツクヨさんにコハクくんこれからちょっと私に付き合って貰えないですか?」
ヨナさんはこちらに振り向き俺たちにそう尋ねる、しかし領主はそれに対して少し焦る。
「ちょっと待て!ツクヨさんたちだって忙しいだろう。今日も知らせを受けわざわざ来てくれたのだぞ。ていうかお前外で話を聞いてたろ?!」
「だからちゃんと本人たちに聞いてるじゃないですか、話はたまたま聞こえただけです。」
問い詰める領主にシラーっと受け流すヨナさん。
なんとなくこの家族の立場が分かってきたな。
「それでえっとこの場合はツクヨさんに聞いた方がいいかしら?これからお時間はありますか?」
「え、えぇ。少しなら」
「ありがとうございます!それじゃあ行きましょう!」
「え、行くってどこに?」
「隣の棟に私の仕事場があるのでそちらに行きましょう!だれか!店長を呼んできて!」
俺と師匠はそのままあれよあれよと隣の棟まで連れてこられた。
部屋から出る際に聞こえた領主の「すまない二人とも」と聞こえたけどあれはなんだったのか……
今この場には俺と師匠とヨナさんそれからヨゼフさんもいる。
「あら、ヨゼフも来たの?やっぱりあなたも興味あったのね?」
「違います、俺はあくまでお母様が客人相手に暴走しすぎないよう見張り兼止め役としてきたんです」
「母に向かって暴走なんてまったく、そこに突っ立ていられても邪魔だからあなたも例のものを運ぶのを手伝ってきなさい」
「事実ですから、まぁそうですね。彼女たちの方も見張らないと行けないですから少し行ってきます。」
例の物?一体何の話だ?
ヨナさんの登場から分からないことが多すぎて混乱する。
師匠なんて訳が分からなすぎて覚めたお茶の代わりにもう一度出されたジュースをボーッと飲んでいる。
あれ?いつも通りか?
ヨゼフさんがヨナさんと話しながら部屋から出ていくとヨナさんは真面目な顔をして俺達に話しかける
「すみません、バタバタして、こうでもしないと落ち着いて礼も言えませんからね。あらためて、息子の愚行を止め街を救ってくれてありがとうございます。」
そう言って頭を下げる姿は今まで見たどのヨナさんとも違って見えた。
「どこで教育を間違えてしまったのか、どんな気持ちでゲビタのことを考えればいいのか分かりませんでした。それでもツクヨさんの言葉で私もきっと主人も気づくことが出来ました」
あぁ、そういうことか。
ヨナさんは俺たちの話を扉越しに聞いていたんだ。
お茶が冷めていたことも目元がほんのりと赤く見えたこともそういうことだったんだ。
「だから私は一人の母として礼を言いたいのです。ありがとうございました。」
ヨナさんはメイドでもなく領主夫人としてでもなく一人の母として俺たちと話していたんだ。
「いえ、お礼ならもう充分頂きましたから気にしないでください」
師匠も現実に戻ってきヨナさんにそう返す。
これを言うために俺たちをここに連れてきたということか。
師匠やギルマスの言う通りこの街の領主達はいいひとというのがよく分かった。
「それじゃあ私たちはここら辺でお暇しますね」
師匠のその言葉を合図に俺も部屋から出ようと扉に向かおうとした時
「何言ってるんですか?お楽しみはこれからですよ?」
俺はその言葉に何故か背筋に冷たいものが吹いた気がする。
後ろを振り向くと楽しそうな顔をしたヨナさん
「えっとお礼を言うために来たんじゃ……」
師匠も困惑した声でそう聞くと
「それはついでです」
ついで!?
この人自分の息子のことのお礼をついでと言った?!
「あ、来ましたね」
何がと思った瞬間ノックもなしに勢いよく扉が開かれる。
ビクリと俺と師匠の肩があがる。
「お待たせいたしました奥様!ご希望の品をお持ちしました!」
「待ってたわ!店長はもう来てるの!?」
「申し訳ありません!店長はインスピレーションが湧いたため来れないとの事です!」
「そんな!インスピレーションの塊がここにもいるのに……来れないものはしょうがないわね」
勢いよく十人ほどの女性が大量の荷物を持って部屋に入ってくる。
ヨナさんと何かを話しているが荷物の量が多すぎてそちらに目がいってしまう。
例のものってこれか?
な、何が入っているんだ?
布に包まれたそれは全く中身を想像もできない。
「分かったわ、それじゃあ私たちで先に始めちゃいましょうか」
「あの御二方ですね、なるほど。あんな逸材が同時に二人も見つかるなんて奇跡としか言いようがないですね」
ヨナさんと入ってきた女性達のリーダー格のような人がコソコソと話したいる。
何故か不穏な空気を感じる、しかしどこかで感じたことがある気がする……
どこだっけ?と考えているとボロボロの姿になったヨゼフさんが続いて部屋に入ってくる。
「お、おかしい。僕はここの時期領主なのに言うことを聞かないどころか反撃された……?」
「ふふふ、この子達は私の直属ですからね。たとえ王族が来たって私以外の言うことは聞きませんよ。なんならたまに私の言うことだって聞きません!」
それは部下としてどうなんだ?
なんともおかしなことを胸を張って主張するヨナさんにヨゼフさんはげんなりとした顔になる。
そりゃそんな顔にもなる
俺と師匠がヨゼフさんに同情しているとこちらを向いて話す。
「僕に同情してる場合じゃないですよ。今から大変な目に合うのはあなた方なんですから、頑張ってください…」
そう言って部屋にあったソファに倒れ込み動かなくなる。
気絶した!いや、疲れが限界突破して眠ったのか?
ほんとに今から何が起きるんだ?
「安心して気に入ったものがあればプレゼントすらか!」
そう言ってヨナさんは荷物にくるまっている布を思いっきり剥がす。
そこに現れたのは大量の服だった。
ッ!!
嫌な記憶が蘇る。
師匠とエリと店主のおばあちゃんにもみくちゃにされたあの地獄が……
思わず後ろに下がると誰かにおもいっきり肩を掴まれる
「おや、どうしたんですか?大丈夫ですよ、私たちが手伝いますから!」
先程のリーダー格の女性が笑顔で俺に話しかける
つ、捕まった!
ここのメイドは伊達じゃないらしく俺の行動を先読みしてきた。
でも今回は俺だけじゃない、以前とは違って師匠もこっち側だ!
「いやー、良かったなコハク!じゃあ私は先に宿に戻ってるからな!」
師匠はさすがの身のこなしでメイドたちの間を縫うように動き部屋から逃げ出そうとする
逃げる師匠を捕まえるなんて難題をこなせるのはこの世にいるのかすら分からない。
しかし俺の心に絶望は湧かなかった、なぜなら見えているからだ。
師匠の逃げる通路の先に先回りし気配を消しているヨナさんの姿が……
その後は見えた未来の通り師匠はヨナさんに捕まり逃げ出すことも出来ず再び俺の隣に連れてこられている。
「師匠、俺を置いて逃げようとしましたね?」
「ゆ、夢でも見ていたんじゃないか?」
「確かに夢みたいでしたよ、ヨナさんに捕まる師匠は」
「あれは人間の動きじゃなかった……まさか魔人!」
「なわけないじゃないですか、認めましょう。人間は俺たちの想像を超えると」
「そうだね……認めねなきゃ行けない時が来たようだね」
そんなくだらない話をしながら俺たちは目の前で着々と着替え室が作られ着る服の用意がされるのを見守った。
そうしなければこれから来る地獄に耐えられる気がしなかったからだ。
その後、俺と師匠は想像と寸分違わず盛大にもみくちゃにされることになった。
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