1.どうやら転生したようです
何がどうなっている?
体が動かない
一体ここはどこだ、道端に見えるこの場所で周りには何も無く波の音なんかもしないし海辺の近くではないだろう。
となるとここは……
まさか、あの後あいつに捕まったのか
その考えに全身ににゾッと寒気が走る。
いや、実際全身がものすごく寒い。
そこで気がついた、雨が降っている。
まずい……このままだと死んでしまう
しかし、どうにかしようにも体が全く動かない
それになんだか身体中から何かの流れ出る感覚がする。
きっと胸の傷から血が出て力が抜けているんだろう。
また意識を失いそうだ
「こんなところで生まれるとは珍しいのぅ」
目の前から女性特有の高くしかしそれでいて上品さを感じさせる声が落ちてくる。
驚いた、いつからそこにいたのか全く気づけなかった
「なっ……」
そうして声のした方を見ると再び驚いた。
そこには真っ白な長い髪を靡かせ赤い目が爛々と輝き夜闇に溶け込みそうな黒いドレスを着た長身の女が立っていた。
その容姿にも驚いたがそれよりもその女の背から生えている大きな蝙蝠のような黒い翼にはキラキラと宝石のような輝きがちりばめられておりそれはまるでいつも見ていた星空のようだった。
「綺麗……」
つい口から出た言葉を聞きその女は口元に笑を零し
「決まりだな、お前は今日から私の弟子だ!」
そう言い、こちらに向かって指を指して来ていた
しかし、正直こっちは意識を保つのもギリギリでそれに何か言おうにも口が回らなくなってきている
それにもう誰かの弟子やら部下になって言いなりになるなんてごめんだ、そう思いかろうじて
「こ、こと……断る」
それだけを言うと俺はプツリと意識を落とした。
「ふふ、これから忙しくなりそうだ」
誰に言うでもなく笑いながら少年を抱き上げ女は雨の降る夜空に向かって羽ばたいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目を開けると目の前には木目の天井が見えた。
ここは……
ふと記憶を失う前のことを考えるとあの女の顔が思い浮かび勢いよく上半身を起こすと体から何かが落ちた
どうやら寝かされていたみたいで、ふかふかの布が被せられていたみたいだ。
見渡すとそこには自分の寝ているベット以外は何も置いていない部屋だった。
そうして部屋や自分の手をみているとおかしな点に気がついた
まずひとつ胸に傷がない、あんなにしっかり刺したのに傷跡ひとつないのはおかしいだろう。
そしてもうひとつこれが最もおかしいのだが体が小さい
もう一度言おう、身体が小さいのだ。
まるで十二歳程の年齢の体型だ
何があったのかとベットから降り立ち上がろうとすると部屋の扉が開いた
「物音がしたと思えばもう目を覚ましたのか」
そう言い部屋に入ってきたのは意識を失う前に見た女だ、あの時見えた気がした大きい羽はどこにもないが
意識も混濁していたし見間違えたか……
「体の調子はどうだ?手足はちゃんと思い通り動くか?」
俺は何が何だか分からずベットに座ったまま言われるがまま手足の確認をしコクリと頷いた。
「そうか、ならよかった。まぁ色々とわからんことだらけだろうからなんでも聞くといい、ちゃんと教えてやる。言葉は話せるのだろう?」
そう言ってどこから取りだしたか分からない椅子を置きそこに座ってこちらを見ていた。
まぁ、気を失う前に弟子入りを断ったような気もするので話せることはわかっているのだろう
知りたいことは山ほどあるがまずこれを聞かないことには始まらないことがある。
「ここはどこであなたは一体誰で俺をどうする気なんだ」
最初に発してきていた言語が日本語であることから日本のどこかであるんだろうが目の前の女が何者か知らなければ安心はできない
「何でもとは言ったがいきなり質問が多いいねぇ、まずここがどこかって話だね。ここはタンディー領にある山の麓だよ」
いきなり聞いたことも無い地名がきた
「次が私が誰か、私の名前はツクヨ。
ツクヨ・ジャンフォレストだいたい八百年ほど生きた魔人さ」
そうなんでもないことかのように告げるが、こっちははいそうですか。とはいかない
なんせ八百歳の魔人だ、正直何言ってるか分からない
人が八百年も生きられないことは当然だし魔人とはなにか。
自己紹介されたのに名前しか分からなかった。
「ちょっと待って、魔人?八百?何言ってるんだ?そもそもここは日本じゃないのか?」
ふざけているのか?
混乱した俺がそう聞くと
「ふーむ、薄々そうかとは思っていたがいきなり言葉が通じたことと言いニホン?とかいう謎の地名を出してくるあたりお前、転生者だな?」
転生者?なんだそれは?
「転生?自分は日本に住んでいた普通の人間だ」
暗殺を生業としていた俺を普通と言っていいか分からないがとりあえず目の前の女性のように頭がおかしかったりはしてない
彼女はコホンと一つ咳をする
「お前そのニホンとか言うところに住んでいた時死んだだろ?」
そう言われればそうだ、自分はあの時間違いなく死んだはずだ。
胸にナイフを突き刺しそのまま海に沈んだのだ
あれで死んでなければ暗殺者よりも傭兵に育てられていただろう。
ともすれば今のこと状態はいったい……
胸の傷が治っているのもそれと関係あるのか?
「転生者とはなにで?貴方は俺をどうするつもりなんだ?」
そう聞くとツクヨは呆れた顔をしながら人差し指をたて
「ほんとに質問が多いねぇ。まず、転生者ってのはなどこかの世界で死んだ人間が全く別の世界に生まれ変わったものだ。生まれ変わった際前回の人生の記憶を持っているかはそれぞれだがな」
「まれに、スキルや魔力なんかもそのままなんてことも聞いたことはあるが」
なるほど、つまり俺はあそこで死にここに生まれ変わったのか。
信じ難い話だが俺の体が小さくなっていたり理解不能なことが起こりすぎては居るがおおまかな筋は通っているので一旦信じてみる。
「そしてお前をどうするつもりかと聞いたな?それは前にも言った通りお前は私の弟子になるのだ!」
そう大きい胸を張りあまりに満足そうに言うので呆気にとられてしまったがそんな場合じゃない
「弟子の件なら前に断ったはずです、命を救ってくれたことは感謝している。ここの恩は必ず返す、だけど弟子の件は話が別です……」
ここはしっかり言っておかなければ
もう俺は誰かの言いなりになって生きるつもりは無い
そう言うとツクヨは伸ばした指をこっちに真っ直ぐ向けてきて
「そうはいうがお前、私の弟子にならんと死んでしまうぞ」
そう神妙な顔で言い放ってきた。
弟子入りしないと死ぬ?
「それは、脅しですか?」
「いやいやそういう意味ではなく、お前は以前は人間だったのかもしれんが今は別の世界に生まれ変わっていると教えたろう」
にわかには信じ難いがこくりと頷くと
「お前は今私と同じ魔人となって生まれ変わっている。魔人はその性質上、体を安定させるために魔力の運用を学ばねばならん」
何となくわかるようで分からないが
「お前は前世で魔力の使い方を学んでいたか?
学んでいないなら、ここで学んでいけ。無理にずっとここにいる必要は無いが最低限死なない程度にはしておけ」
このまま外に出すと寝覚めが悪いと、手を振りながら彼女は言う
とても真っ当なことを言われた。
それはそうだ。わざわざ産まれたての子供が死にに行くのを黙って見てるものはいないだろう。
つまりこの人は俺を助け、かつこれから多少の面倒を見ると言ってくれているのか
彼女の話がどこまで本当か分からないがどちらにせよここがどこか、俺の体のこと色々聞かなければいけないことだらけでどういう企みを持っていようと俺はこの人に今は従うしかないということか。
ただ、この人に助けられたのは間違いない事実なのでその事はお礼をしなければいけないな。
「助けてくれてありがとう。これからよろしくお願いします」
そう言い頭を下げると、彼女いやツクヨさんは手を出してくる
「これから長いか短いかわからんがしばらくよろしくな」
そう言って手を差し伸べてきたのその手を握り
「こちらこそよろしくお願いします」
この女性がいい人であることを祈りながらこれからの人生に不安も感じつつ、ここから名も無き少年の異世界生活が始まることとなった。
見切り発車で始めましたが、コツコツとやっていこうと思うのでよろしくお願いします。誤字脱字は多いと思いますがこれから少しづつ減らせるよう頑張ります
( ´ ▽ ` )