26.返り討ちにします
「おい!ギルドマスターをもっかい出せ!この俺が冒険者資格剥奪なんて有り得ねぇ!」
先程殴り飛ばされていた男が受付嬢に向かって騒ぎ立てている。周りにも冒険者はいるがチラチラとみているが助けるような様子は無い。
「前も思ったんですけどどうして誰も仲裁に入ったりしないんですか?」
「あいつはあれでも腕っ節は強くてな、性格や口調があんなんだからパーティが組めずDランクにいるが本当ならBランクも夢じゃないくらいなんだがな」
あんなんでも実力は高いのか、たしかに前回おれの攻撃をいなしていたな
「それじゃあ私は次はアップルのジュースでも飲んでようかな」
「おい、ほんとにいいのか?前回あいつが簡単にやられたのは油断もあったと思うぞ?」
「大丈夫です、多分また暴れるでしょうが物は壊さないようにするので心配しないでください」
早々に別の受付嬢に飲み物を頼み椅子に座る師匠とは対照的にハラハラとしながら俺の心配をするギルドマスターとカリンさん。
騒ぐ冒険者の元に歩いていくとこちらに気づいたのかイラつきの矛先をこちらに変える。
「おいガキ!てめぇのせいで冒険者資格が剥奪されちまったじゃねぇか!あの時は油断していたがもう泣いても許さねぇぞ、ボコボコにして実力を証明する」
そう言いながら拳をポキポキと鳴らす
どうやらこいつ俺に負けて実力を疑われて冒険者の資格を剥奪されたと思っているのか。
「お前が冒険者の資格を剥奪されたのはその性格のせいだ、俺がギルドマスターに許してやってくれと頼んどいたからもう暴れるなよ」
「頼んだだぁ?クソガキが上から目線で話してんじゃねぇぞ!許しを乞うのは俺じゃなくててめぇなんだよ!」
「また暴れる気か?それこそ冒険者資格の剥奪程度じゃすまないぞ?」
「てめぇみてえなガキに舐められっぱなしの方が俺にとっては問題なんだよ!てめぇをボコボコにした後なら詰所にでも入ってやるよ!」
話し合う余地すらない感じだな、先程までの様子を見たら予想どうりだけど。
周りの冒険者からもヒソヒソと声が聞こえてくる
「話は終わりだ、恨むんならてめぇを恨むんだな」
男が俺を捕まえようと手を伸ばしてくるので思いっきりその手をはたく。
「やってやる、ハンデだ魔法は使わないでやるよ。お前の相手くらい拳だけで十分だ」
「ハンデだ?舐めやがって!くたばりやがれ!」
男が俺目掛けて大ぶりで拳を振りかぶってくる。
軽くそれを避け男の顔の位置までジャンプし男が吹き飛ばないよう意識も無くさないよう加減をしながら殴る。
男は殴られた衝撃でふらつくがすぐに殴りかかってくるのでそれを避けまた殴る。
それからはそのやり取りの繰り返しだ、男が殴り掛かり俺がそれを避け男を殴る。
どれほど続けたか分からないが男の顔に腫れてない部分がなくなってきた頃男の勢いが弱くなってくる。
「くそ、なんなんだよ。なんで当たらねぇ…なんなんだよてめぇは!」
いちいち答える義理はないため無視して殴り続ける。
そのうち男の腰が折れ後ろに倒れる。
「や、もうやめてくれ」
男は完全に背中を地面につけ倒れた姿勢になる。
しかし、逆の立場でこいつは殴るのを辞めただろうか?
当然辞めないだろうな。だから俺も殴るのを辞めない
倒れた男の胸の部分にしゃがみこみ殴り続ける。
いつの間にか周りからのひそひそ話も聞こえない、男は完全に戦意を喪失しボソボソとなにか呟いているが俺の殴る音の方が大きくて聞こえない。
「その辺にしておきな、もう十分だよ」
どれくらいの間男を殴っていたか分からないが師匠が俺の肩をたたき声をかけてきたので拳を止める。
俺の下で倒れている男を見るとギリギリ意識はあるようで「ごめんなさい、ごめんなさい」としきりに呟いている。
周りを見ると全員唖然とした顔でこちらを見ている。
ギルドマスターとカリンさんも衝撃の光景だったようで周りと似たような表情だ。
「すいません、ちょっとやりすぎました」
「気にしなくていいさ、私の若い頃よりは幾分優しいさ」
「ちなみに師匠の若い頃で相手の怪我がいちばん酷い時はどのくらいなんですか?」
「五体満足ではなかったね」
やっぱり怒らせちゃいけない人っているんだな……
今回のことに俺は少し怒っていたため反省は元々してないが師匠に気にしなくていいと言われると少し心が軽くなる。
そんな感じで軽く師匠と話していると周りの冒険者が騒ぎ出した。
「いくらなんでもこれはやりすぎなんじゃ……」
「そ、そうだ。ここまでやるなんて……」
「冒険者同士の喧嘩とはいえ無抵抗の相手を殴り続けるなんて酷いことを……」
誰かが声をあげるとチラホラと周りにいた冒険者たちも声を上げ始める。
なんだコイツら?
さっきの男が騒いでた時は何も言わなかったくせに相手が子供となったら騒ぐのか……
「だったら次は男が騒ぎだした時点で止めるんだね、今回は私の弟子だったから何ともなかったが普通の子供ならただの怪我じゃ済まなかっただろうね」
師匠が騒ぎ出した冒険者に向かい冷たい声色で話しかける。
そうなのだ、俺もその点に関して俺はイラついていたのだ。
もし絡まれたのが俺じゃなく普通の子供だったら、それでもこいつらは何もせず転がっているあいつも自己満のために子供をいためつけていただろう。
しかし騒ぎ出し他冒険者たちは師匠にもひるまず反論をしだす。
「元はと言えばお宅の弟子の言葉遣いなんかが問題だったんだろ!それをあんな…今のを許してたらここは無法地帯だ!」
「騒ぐじゃないか?次はあんたが私に喧嘩を売ろうっていうのかい?」
冒険者ギルド内の温度が上がる。
師匠は鋭い目つきで騒ぐ冒険者を見る。怒っている。
しかし周りの冒険者はそれに気づかずなおたてつき続ける。
「なんだよ、この人数を相手にしようってのか?俺たちは間違ってねぇ!なぁ皆!?」
前に出て騒ぐ男は周りに同意を求めるように叫ぶ。そこにいた冒険者のうち半数ほどは便乗して返事をしている。
意外ともう半数ほどは我関せずといった感じで離れている、よく見ると冒険者の人数が増えている。
騒いでる間にギルドに来た冒険者なんかもいるんだろう。
確かに、何が起きてるのかわかってなさそうな人もちらほらいる。
「ひとつ教えてあげるよ、お前たちは力に負けて何も言わなかったんだ。だったら最後まで弱者として声はあげるべきじゃなかったね」
「なにをっ!」
冒険者ギルドの中に大量の炎の槍が出現し騒いでいた冒険者達の体の隙間を突き刺すように取り囲む。
きっとあの槍に刺さればなんの抵抗もなく体を貫通し炎は全てを燃やし尽くすんだろうなと思えるほどの魔力密度だ。
冒険者たちは何が起きたか分かっていないが命の危機に陥ってることだけは分かるようで声も動くことも出来ずカタカタと震え出す。
「お前らみたいな下を見て攻撃するしかできないバカは冒険者をやめて畑でも耕すんだな。あぁでも野菜を育てるなんて粗野なお前らには無理か」
師匠が指をパチリと鳴らすと炎の槍も跡形もなく消え去る。不思議と建物のどこにも焼けたような跡はない。
騒いでいた冒険者十人弱ほどが急いで冒険者ギルドから逃げていく。
凄いな…
しかしどこも焼けてなさそうなのはどういうことなんだ?
気になったので師匠に聞いてみることにする。
「あんな炎を出したのにどうしてどこも焼けてないんですか?」
「簡単なことよ、ギルド内を薄い氷で覆い続けただけよ」
言うのは簡単だがやるのは大変そうだな
「ほんとに重ねてすまねぇ、あんな馬鹿どもの世話させちまって」
唖然とした表情から正気に戻ったギルドマスターが申し訳なさそうな顔で話しかけてくる。
「今回のはいいんだよ、いい見せしめになった。これでもう私やコハクに絡む馬鹿はぐっと減るからね」
「俺も腹が立ってたのでスッキリしました」
俺らが気にしてないと伝えるとギルドマスターは乾いた笑いをする。
「いや、しかし二人とも信じられねぇくらい強いな。ツクヨさんの強さは聞いちゃいたが想像以上だし、えー、ラガン相手に一方的にボコボコにするなんてな」
ギルドマスターは俺の方を見ると少し口ごもる。
何かと思ったがそういうことか。
「コハクです。これからよろしくお願いします、ギルドマスター」
そう言えばギルドマスターには直接名乗ってなかったな、何度も呼ばれているから知ってはいたんだろうけど挨拶もなしに呼びづらかったんだろうか?
「ダグマでいい。こちらこそよろしく頼むぜ」
握手をするがなにぶんギルドマスターの背が高いため中腰になってもらい手を握り交わす。
「でもほんとに強すぎですよ!これならコハクくんだってA…いやいやSランクだって夢じゃないです!」
後ろから興奮したようにカリンさんが話し出した。
「ギルマス!ようやくウチから念願のSランクが出てくれそうですね!」
「ん?おぉそうだな。今日は依頼を受けていくか?」
「いや、領主邸にも行かなきゃならんし家にも帰りたいからまた今度にするよ」
「そうか、いつでも歓迎するぜ。街は何時出るんだ?出来ればエリが目覚めるまでいて欲しいんだが」
「明日の昼にはでるよ、街にはまた来るんだ。エリならもう大丈夫なんだからまた会えるさ」
エリも無事とはいえしばらくは絶対安静だろうから会えるのは次に街におりてきた時になるだろうな。
俺たちはそのままギルドマスターとカリンさんと別れ冒険者ギルドを後にする。
「この後は領主邸に行くんですか?」
「そうだね、面倒くさいことは早めにやっておいた方がいいのよ」
そういえばさっきのギルマス達の会話出来になったことがある。
「そういえば師匠は冒険者ランクはSなんですよね?さっきカリンさん達はこの街でSランクは初めてみたいなこと言ってましたけど」
「私が冒険者ギルドに登録したのは別の街だからね。この街では初めてなんだろう」
そういうことか、いつも忘れそうになるが師匠がこの街に来たのは三、四十年前って言ってたもんな。
「領主様とは知り合いなんですよね」
「あぁ、真面目なやつだよ。」
「あのゲビタを見たらとてもそうは思えないんですけど」
「兄が優秀だからね、劣等感で歪んだんだろうね」
そう考えればたしかによくある話なのかもしれない。
前世でもそういう奴は沢山居た。
「領主邸では何も起きないといいですね」
なんだか行く先々で何科に巻き込まれてる気がする。
師匠もそれは同意見らしく少し疲れた顔を見せ
「そうね、大丈夫だとは思うけどコハクはじっとしてて」
「ちょっと!巻き込まれてるのは俺のせいじゃないですから!」
俺のせいで面倒事が起きてると遠回しに言われるは心外だ。
「ははは、冗談だよ。用が終わったら今日はどこかの店で食べて帰ろう。久々に肉が食べたい」
「あ、それいいですね!」
そんなたわいもない会話をしながら歩いて向かっていると大きな屋敷が見えてきた。
「師匠もしかしてあれが領主邸ですか?」
「そうだよ、大きいだろ?」
いや、デカすぎだ……
教会やゲビタのいた屋敷の2倍以上ありそうだ。
屋敷の前の門には門番が二人立っている。
ほんとに何も起きないよな?
そんな不安感を少し抱えながら門番の元へと向かった。
今回も読んで頂きありがとうございます。
どんな評価、感想でも励みになりますので良ければお願いします。
次回も是非よろしくお願いします( ´ ▽ ` )




