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魔の増す間に  作者: 卯月
序章
2/50

0-2


やってしまった……



これは完全にやってしまっている。


依頼主と思われる男を殺し、標的だったはずの少女は生きて目の前にいる。

だが解決策は浮かんでる、簡単な事だった。今この少女を始末し男共々片付けてしまえばいい。


そう考えた少年は、思いついたがままに手にあるナイフをかまえ、足元で泣いてる女の子に振り下ろそうとしたが振り下ろすことは出来なかった。


わからなかった。


暗殺の仕事をして来てこんなことは一度もなかったのに、話して情が移ってしまった?そう考えるがないなと否定するように頭を振る。


今までも仕事の内容によっては標的と会話もすることはあった。少年の仕事以外のところに同情しうちに来ないかと優しく提案してきたやつもいた。


だけどそんな人達だって標的となった以上何も考えずに殺してきた。

なのに今回だけ手を動かすことが出来ない。いつもと今回、何が違うんだとさらに深く思考に潜ろうとしたその瞬間、少年の足を掴む感触に目線を下にやると女の子が声をあげずに泣きながら足を掴んでいる姿が目に入る。


これからどうしよう……


理由は分からないが少年には女の子を殺すことは出来ない。

かと言って、このままのこのこと殺せませんでした、なんて報告しようものなら適性を疑われ最悪の場合、殺されるだろう。


元々こんな仕事をしている身、長生きできないことは重々承知のうえにどうしても生き長らえたいという訳でもない。けれどもわざわざ進んで殺されに行くほど死にたい訳では無い。


とすれば選択肢はひとつしかない、逃亡だ。


今までの仕事上国外に逃亡しようとするものも見てきた。だから国外に逃げる方法は幾つかある、


一番理想的なのは密航船に乗って国外に行く方法だろうと思い付き泣いてる女の子を立たせ二人が乗っていた黒い車に乗り港に向かうことにした。

少女は置いてきても良かったのだがこうなってしまった以上見捨てることも出来ず連れてきた。



思いのほか目の前で父親が殺されたにしては騒ぐこともなくあっさりと着いてきたので、それに関して少年は少し安堵していたが、そうして幾つかある候補の港の中で1番近い港に向かうことにした。

1番近いとはいえ半日ほどはかかる、静かな車内の時間が続き少年はふと女の子に父親との仲はよくなかったのかを尋ねると


「前はやさしかったんだよ、知らない女の人が来るようになってから叩いたりしてくるようになって」


俯きながら小さな声で呟く。


まぁ、そんなところだろうとは思っていた。


そこからポツポツと質問をしているうちに女の子の様子も良くなって言った。


まぁ、これから一緒に逃げるのにずっと気まずいのはなと思っているとふと女の子から質問が飛んできた。


「どうして助けてくれたの?」


そう聞かれたものの少年としてはわからないとしか言いようはなかった。だけどそう答えると女の子はあまり納得してなさそうな顔はしたがそれ以上質問はして来なかった。


なのでこちらから自分と一緒に着いてくることにり、これからは誰も知らないとこに行くことになるけれどもそれでもいいのかと聞いてみる。


「学校にもお友達は居ないし、女の人が来てパパが叩いてくるようになってからは誰とも話してなかったからいい」


どれくらい前から父親が女を家に連れ込み出したか知らないが、学校と家両方から離れた公園で一人で遊んでいたくらいだから頼れる存在が居ないのは何となく察してはいた。


そしてそれは思っていた以上に孤独な時間でそんなところが自分と少し似ているなと思った。


そして、ふとこんなに仕事関係なく誰かと話したのは初めてだなと思うと少年は小さな笑みを浮かべていた。


その瞬間を見ていた女の子がいるなんて気づくことも無く少年は黙ってハンドルを握り港へ向かった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





あれから止まることなく黙って車を走らせ、港に着く頃にはもう、朝日が登ろうとしていた。


港には漁船のひとつもなかったが、おそらく漁に出ているのだろう、現に海のずっと向こうに小さな影がいくつか見える。

そして日が沈みきった頃に一週間に一度、出港する船があることは知っている。


手元にある銃の弾や獲物を少々分ければ乗せてはくれるだろう。

それまで少し時間があるため近くの店に入り食料品を買い込み車に乗った女の子のところに向かいおにぎりいくつかを渡すと「ありがとう」と受け取り、慣れた手つきでおにぎりの封を開け口に運ぶ。


きっと家でもこんな食事だったのだろう、あの父親が料理を作っていたとは思えないしな。


ひとまず、今日までは暗殺の期限日なので今日中に日本を出てしまえば見つかることは無いだろ。


そう考えると半日かかったとはいえ今日中に出航する密航船がある港にたどり着くことが出来たのは運が良かっただろう。


そうして、日も落ち始め船の持ち主とも交渉も済車の中で休んでいるとポツポツと雨が降り出してきた。


船の航海に多少は影響するだろうけど人目を避けることが出来るから、逃亡一日目にしては悪くない天気だなと思い横を見ると女の子はすやすやとまで眠っていた。


向こうに行ったらまず仕事探しを始めなきゃな……

暗殺以外したことは無いがまぁなんとかなるか


そろそろ起こすかと手を伸ばすと女の子の目が開き


「また笑ってる」


笑っている?誰が?ここには女の子と自分しかいない

手で口元を触れると確かに笑みを浮かべていた。


気が緩んでしまったのだろうか。


「よかった」


よかった?この女の子は今の自分の現状をあまり分かっていないんだろ。

わかっていたら良かったなんて言葉は出てこないはずだ


「よかったって、君は怖くないの?こんなこの前知り合ったような男と、それも君の父親を殺したんだぞ!?」


気づけば口調が荒く声も大きくなってしまった

しかしそれに対して女の子は


「大丈夫」


まっすぐとした目でこちらを見つめながらそう一言いい続けて


「他の人とは違ってお兄ちゃんだけ笑いながら遊んだりお話を聞いてくれたから、前のお父さんみたいに……」


前のお父さんみたいにって……そんな理由で自分を信じているのかと、少年は自分の耳を疑った。


そもそも最初に笑顔で近づいたのは警戒させないため

で目の前で父が殺されたのにそんな、と色々な考えが頭の中を駆け巡るも、途中で女の子に手を握られ現実に引き戻された。


「だからね、大丈夫なの!」


そうして初めて会った時のような顔をして笑う女の子を見ていると、なんだか一人で色々考えているのも馬鹿らしくなってきた。


大丈夫、か……


なんとなく女の子の頭を撫でる


「それじゃあ、行こうか」


女の子に伝え用意していた荷物を肩にかけ車からおりる。

すぐに反対側から降りてきた女の子が駆け寄り荷物を持っていない方手を握ってきた。


空を見上げるが雨が降っているため星は見えない

けれど不思議と雲におおわれた空から星が見えた気がしくらい目の前の海ですら鮮明に見えた気がした。


女の子の方を見ると今から乗る船の方に目を向け少し緊張の含んだ顔でしかし興味があるのかソワソワとしている。

あの親が海に連れてきて船に乗せたなんてことは無いだろうから初めてのことで緊張しているのだろうと思うと少しおかしくて笑ってしまうと、それに気づいた女の子は少し顔を赤くしてフィット顔を背ける。


「これから、大変なことが多いけど頑張ろうな」


心機一転の第一歩だ、と女の子の手を引き歩きながらはやる気持ちを落ち着け女の子に伝えると


「うん!…………あれ?」


元気な声のあとに不思議そうな声が聞こえてきたので


「どうした?忘れ物でもしたか?」


そう返すと首を横に振り


「お兄ちゃんのお名前ってなに?」

……

………………名前か


今まで呼ばれ方は九番だったが、それが名前じゃないことくらいはさすがにわかる。

困ったな、と答えに悩んでいると


「どうしたの?あ、恥ずかしいの?」


と見当違いなことを言いながらニヤニヤとした表情でこっちを見てくるので、なんとなく黙って目線を前に向け歩いていると


「教えて〜、教えてよ〜」


と手を振ってくるのでそのまま


「その前に君はなんて名前なんだ」


とぶっきらぼうに返す。もちろん仕事の時の書類にあったので知ってはいるがそのまま何かを言うのは尺だったのでそう返すと


「私はね〜!私の名前は……」


そうはずんだ声色が後ろから聞こえてくるがそれよりもどうしたものか、名前を考えなきゃなと歩いているとパシッと音がした。


女の子が貝殻でも踏んだのだろうか、なと考えているとふと女の子の声が聞こえず握った手から重さが増した。

なんだ、と嫌な予感がし振り返ると頭は下を向き手足からは力が抜けたのかのような様子でいる女の子に、少年は一瞬心臓が止まったかと思うほど驚き肩にかけていた荷物をほうりだし倒れそうになる女の子を抱き抱えると、そこで少女の胸から血が流れていることに気づく。


血なのか雨なのか分からない液体が女の子の体から少年の手につたってくる。


なんだ、一体何が、急いで止血をしようと荷物に手を伸ばした時よく聞き馴染んだ声が聞こえてきた。


「まさか、本当に裏切るなんてな。最初に報告を聞いた時はつまらん冗談だと思っていたが」


声のした方を向くともう何年もよく見た無精髭の男が傘をさしながら銃に握ったままこちらに歩いてきた。

ばれていた。


なんでた?期日は今日までのはずなのに


「なんでバレた!って顔だな。」


薄ら笑いながら話しかけてくる


「暗殺ってのは失敗は許されねぇ、暗殺の監視がついてる。失敗も裏切りもさせないようにな」


なんでもないことのようにそう言い放った。

その言葉通りなら初日から怪しまれていたということになる。


「情に絆されてこんなところで脱落か。腕はあっただけに残念だ」


つらつらと嘘くさい言葉を並べるので


「残念に思っているなら見逃してくれ、この子じゃなければ今まで通り仕事はこなす。」


そう、期待せず返すと


「残念だが人手はまだ足りてる、がそうだな?まだ息をしているそいつの首を跳ねられたら多少の教育で許してやってもいい」


そう言いいつの間にか持っていたナイフを少年の足元に投げる


首をはねる、か


もう息も絶え絶えで意識があるかも分からないこの子も苦しいだろう。

その方が自分にとってもこの子にとってもいい行動なのかもしれない。


そう思いそのナイフを手に取り女の子の首元に当てる


「……マ…ッ……」


その時、真白はか細い声で何かを呟いていた。


雨の中で聞き取るには小さすぎる声は誰にも届かずに雨粒と共に流れた

しかし、その女の子の手はしっかりと少年の体を握っていた。




「そっか、でもごめんな俺には名前ないんだ」


下を向いたままの少年の突然の言葉に無精髭の男は怪訝な顔をし、銃口を向けた


「何を言ってんだ?んな事言われなくても知ってる」


気づいていた。


そう最初のあの時だ、トンネルを一緒に掘って明日の約束をしたあの時からだった。


砂遊びも、ブランコに乗って喋ることすらあんなに時間があっという間にすぎたのは初めてだった、きっとあの時の気持ちが楽しいというものなんだと。


「だから次遊ぶ時までには用意しておくから」


そうここ一体に響くほど大きな声で叫ぶとナイフを振りかぶると、目の前の男は一歩後ろに下がりながら、引き金を引こうとしながら


「それでいい、あの世で仲良くやんな」


今ならわかる、あの時の君のように心から言える

だからさ……



少年の振り下ろしたナイフは女の子の首をとおりすぎ少年自身の胸を貫いた。

その勢いのままナイフを引き抜き血や引くへんの着いたナイフを男に向かって投げつけると、無精髭の男は何が起こったのか分からず大きく後ろに飛び退いた。


その瞬間を逃さず少年は女の子を抱えながら駆け出し地をおもいっきりけり海に身を投げ出した。


あぁ、今日もう晴れていたら今頃星が見えていたんだろうな


せっかくなら一回くらい一緒に見たかったな


今までは君の話を聞くばっかりだったからな、次は面白い話のひとつでも持ってくるよ。




だから…………


「だからまたな………………真白」


ちゃんと聞こえたよ……


そしてすぐに二人の体は冷たい水の中に落ちていく

その言葉が、届いたかどうか分からない

どちらのものか、きっとどちらのものでもあるのだろう。


流れてでる血が二人を運命の糸のように繋ぎながら。

二人の体は離れることなく深い海の中に沈んで言った。


















そうして命を落としたはずだったはずなのに


「ここは……どこだ……」


名も無き少年が目を覚ましたのは暗く冷たい小さな路地の端だった。





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