16.二手に別れました
おかしい、途中で分けるはずだったのに……
男から発せられた言葉に俺たちは衝撃を隠すことが出来なかった
攫われた子供の中に狼族がいたのか?
意識がなく暴走状態なのは無理やり戦わされているのか?
くそ、もしそうだとするならこの狼にむやみやたらに攻撃を仕掛けられない
考えている間も狼からの攻撃は止まることなく続いている
「嘘をつくな!この街に狼族の子供なんて居なかったはずだ!くだらない嘘をついていないで子供たちを解放しろ!」
だがボックさんはそれは嘘だと言い子供たちの解放を要求する。
ボックさんは以前あの男の周辺を調べ子供たちの心配をしていた。
そんな彼が居なかったと言うならきっとそうなんだろう。
しかし何故か俺はずっと嫌な予感がしていた。
「ほほほ、それこそが私の実験の集大成なのですよ!ただの人間を亜人に、今回は獣人になってしまいましたが。しかし今回はあの狼族になれた。あの子は特に熱心でしたからね、とても喜んでいるでしょう?」
男から最悪のセリフが聞こえてきた
こいつ、子供を使って亜人を作る研究をしていたのか!それならどこかにまだ他の獣人が潜んでいるのか?
「なんて、酷いことを!」
「酷い?あなたも異種族差別ですか?やれやれ、これだから無知な方は、亜人というのはね数こそ少ないため差別や追い込まれたりしていますが素晴らしい種族です。世界中の人々が亜人となればどれだけ素晴らしいか。貴方みたいな存在が世界から平和を遠ざけるということになぜ気づかないのか」
「こんな実験の何が世界平和だ!真の平和とはお互いがお互いを尊重して生きることだ!無理やり子供たちを亜人にするようなやつに平和への一歩なんか築けやしない」
「誰にでも理解して貰えるとは思っていませんよ、理解できない愚か者には死んでいただくのみです。ほほ」
男の口から語られたのはボックさんが話していたことと同じようで全く違う話だった
要は世界中を人間より優れた亜人にすればという話か
「つまり他に攫った子達も獣人にしたのか?」
俺は気になっていることを男に聞くと
「はて?あなたは子供のくせに魔力が扱えている?亜人の素質ありですねぇ、ほほ。いえ、残念ながら他の子供たちは適性がなく変化がなかったので後でその狼の餌にでもしようかと別で寝かせてありますよ」
よかった、他の子は無事なのか。
ならこの狼を拘束し男をぶん殴れば済みそうだ。
そろそろ狼の攻撃パターンも読めてきて避けるのも難しくなくなってきている。
今ならどうにか拘束することは出来るだろう。
「いえいえ、私としてもとても残念です。もし他の種類の魔石も使っていれば別の子達も変身させてあげれたのに。しかしとくにエリという子は頑張っていたので神様に願いが届いたのかも知れませんね」
は……?
その言葉に俺とボックさんの動きが止まってしまう。狼はその隙を見逃さずしっかりと腕を振るいそのままボックさんと二人壁に吹き飛ばされた。
この狼がエリだって?
いや、その可能性は男が話し始めた時からあったはずだ、なのに無意識でその可能性を消してしまっていた。考えないようにしていた
急いで壁から脱して攻撃を受け気を失ってしまったボックさんを回収し氷魔法と土魔法を使い狼の足元を固定する。狼は暴れ足元の固定を壊そうとしているが一分ほどなら持ちこたえられそうだ。
「おまえ、この狼がエリだと言ったのか?」
「ほほほ、ええ。言いましたとも、茶色い髪の女の子でしたよ?もしかしてお探しの子でしたか?しかしあなた、ほんとに良い魔力をお持ちだ。あなたならきっとどんな亜人にだって生まれ変われますよ?いかがですか?」
「生まれ変わりならもう間に合っている、この子を戻す方法はあるのか?」
「そんなものあるわけないじゃないですか?なぜ上位の存在になった後に戻る必要が?」
何を当たり前のことをと言わんばかりにキョトンとした顔をする男に怒りが湧く
「ここまで他人に憤ったことは初めてだ、お前ただで帰れると思うなよ?」
「ほほほ、怖い怖い。では私は奥から逃げさせてもらいますよ。もう目的は達成出来たので」
そう言いながら男は奥にあった扉の向こうに消えていく。
目的?ここまで残っていたのになにか理由があったのか?
いや、今はそんなことよりボックさんを起こして狼になったエリをどうにかしなければ
急いでボックさんを叩いたり揺すったりして無理やり起こす。こういう時水魔法が使えたら便利なのにな
「ボックさん起きてください!ボックさん!」
幸い直ぐに目を覚まし周りを少しきょろきょろと見渡し状況を理解してくれる
「そうか、僕は狼の攻撃にあたって……コハクくんあの男はどこに?あと、僕の聞き間違いでなければあの男はこの狼がエリちゃんだと……」
「聞き間違いじゃありませんよ、あの狼がエリだと言っていました。男は奥に逃げていきました。」
ボックさんは違うと言ってほしそうだったがそんな嘘をついてもしょうがないのでホントのことを伝える。
「そうですか、分かりました。コハクくんはすぐに男を追ってください。この狼…いや、エリは僕がどうにかします」
「な、ボックさん一人で相手にするなんて無茶です!俺と一緒にやればすぐに拘束できます!」
「いえ、あの男を逃がしては行けません、それはコハクくんもわかるでしょう?少しでも早く追ってください!大丈夫です。僕にはまだとっておきがあるので」
正直ボックさんが言っていることは分かる、あの男は絶対に逃がしてはいけないやつだ、たださっきまでの動きを見ている以上ここにボックさんを置いていくのは自殺を見逃すのと一緒だ。
「正直あの男には何か嫌なものを感じました、きっと僕が追っても捕まえることは出来ない。先程の狼との戦いでコハクくんが強いこともわかりました。お願いします。この場は任せてください」
ボックさんが真っ直ぐとした目でこちらの目を見て頼んでくる。見た目、十歳過ぎたばかりの子供に本気で頼んでいる。ローブで俺の目は認識できてないはずなのに何故か目が合っているような気さえしてしまう。
きっとそれだけ本気なのだ
「分かりました、ただし、絶対に無茶しないでください。ボックさんが死んでしまってはエリが悲しみます、いざとなれば師匠もあとから来るので危ないと思えば逃げてください」
「わかっています、エリに僕を殺させるなんてトラウマは残させません」
それだけ確認すると、俺は足元を拘束している岩を壊そうと攻撃をしているオオカミの横をとおりすぎ男の消えた扉をくぐる。
きっとボックさんは相打ち覚悟で狼族となったエリとぶつかるつもりだ。
あの男は亜人だと言っていたが今のエリは魔獣と変わらない。理性もなく暴れ回り街に出れば大量の死者が出る。そうなればエリは囚われまた実験をされることになるだろう、だから今エリにしてあげられる最前の手は殺すこと。
しかしその後ボックさんは普通に生きていけるのか?いや、きっとその事に囚われてしまう。だから彼はここで相打ちで終わらせるつもりのはずだ。
だから俺をあの場から遠ざけたのだろう、エリにあれ以上苦しい思いをさせない為に。
だったら俺に今できることはあの男を急いで捕まえ、戻ってエリを止めたあと解決法を見つけることだ。
頼むから早まらないでくれよ、ボックさん!
そう祈りながら通路を走った
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コハクくんは無事行ってくれましたね...
なんとか、彼をあの魔法使いを追わせることが出来たことに少し安堵する
「よかった。あのような子供に危険なことを頼むなんて情けない限りですがそうも言ってられませんからね」
目の前を見ればコハクくんの魔法によって足を動かせない二メートル程ありそうな狼が足元の岩を壊そうと暴れている。
今のうちに体の至る所から流れる血を止め身体中に魔力をめぐらせる。
まさか目の前にいる狼族がエリちゃんだなんてな、これをダグマさんやラビッテさんが知ったらどんな顔をすることやら、いやあの二人は亜人差別はしないか。
それでも娘のこんな状況を見たらきっと悲しむだろう...
僕はエルフだ、街の人たちには隠しているがダグマさんとラビッテさんには当時冒険者だった頃からの知り合いなのでバレているが。
あと最近はツクヨさんにも一目でバレたな、あんなことは初めてだ
ツクヨさんとコハクくんには驚かされることばかりだ
当時里から全く出ない同族たちを嫌い人間の町へ飛び出し冒険を始めた頃
昔エルフであることを隠さず冒険者をしていた頃エルフは貧弱という偏見から誰のパーティにも入れなかったがあの二人が俺を誘ってくれた。
当時はパーティメンバーのダグマさんは物理、僕も物理、ラビッテさんは魔法で全員アタッカーというアンバランスなパーティで周りからはよくバカにされたが結果を出していけば次第にみんなが認めてくれ楽しい日々を過ごしていた。
しかし人間は歳をとるのが早くダグマさんとラビッテさんは冒険者を引退しダンディー領という当時の活動拠点から離れた場所で結婚すると言いだした、もちろん二人の幸せだ。
俺も心からお祝いした
二人の住む家の代金の三分の一程度を送ったほどだ。
二人はなかなか受け取らなかったが今までのお礼だと思えば安いものだ。
そこからはしばらくはまた元の町に戻り一人で冒険者稼業を続けていると数年経った頃二人から子供が生まれたから見に来て欲しいと手紙が来た。
手紙自体はたまに来ており冒険者をやめて同じ町で暮らさないかという提案で二人は冒険者ギルドのスタッフとして働き始めたみたいだった
しかし俺には特にやりたいことも無くエルフは寿命も長いため人間の町のギルドで働き続けるのは難しいと断り続けていた。
実際にエルフが人間社会で生活することは難しいのだがそれ以上に二人が老いていくのを見たくなかったというのが一番の理由だ。
里のエルフたちが何故里から出ないで暮らしているのかようやく分かってきた。きっと俺と同じで大切な仲間たちが死んでいくことに耐えられなくなったんだ。
二人の子供を見てあと数年ほど冒険者をしたら里に帰ろうとその時はそう考えていた
とりあえずタンディー領に向かい二人の家を訪れる、二人が結婚して無理やりお金を押し付けた以来だったのでその日は少し緊張していた。
その日に来るというのは前もって手紙で返事を返していたので二人とも仕事は休み家にいたためドアをノックすると二人がでてきた。
記憶にある2人より少し大人っぽくなったな、いや、子供が生まれたんだから実際大人になっているのだけど。
二人は俺の緊張なんかこれっぽっちも察せず前と変わらずグイグイと構い倒してくる。
軽くお互いの近況を話し遂に二人の赤子と対面することとなった。赤子は別室で専用のカゴの中で眠っていた。
「女の子でエリって言うのよ」
「かわいいだろ?」
「小さいな」
「当たり前だろ?赤子がでけぇわけねぇだろ?」
「二人とも騒がないの、起きちゃうわよ」
別に大きいと思ってたわけじゃない、ただなんとなく何を言えばいいかわからずそう言っただけだ。
「ぅ…ぁぅ」
その子は俺たちの声で起きたのか小さな声を出し瞑っていた目を薄く開ける
「あら起きちゃったわ」
「ボック、抱いてみるか?」
「いや、怖いしいいよ」
「だははは、ゴブリンの巣のど真ん中に襲撃かけるやつのセリフとは思えんな!」
「それとこれじゃ話が違うだろ!」
「ふぇっ、ぇぇぇぇぇん…ぇぇぇぇぇん」
俺とダグマの言い争う声に驚いたのかその子は泣いてしまった
「ほら二人とも!エリが驚いて泣いちゃったじゃない!」
「「ごめんなさい」」
赤子を抱き上げ泣き止ませながらラビッテに二人して怒られてしまい素直に謝る。二人で言い争って最終的にラビッテに怒られるのは冒険者時代よく見た光景だ。
なんだかそれがとても懐かしく感じそれは二人も同じだった用で三人が笑っていると聞きなれない笑い声が聞こえてきてその声の元を見ると先程まで泣いていた子が楽しそうに笑っていた。
「ほら、ボックも抱いてみなさいよ。こうやって優しく抱っこすればいいから」
ラビッテはそう言いながら軽く抱き方を見せると子供を俺に渡してくる
俺は恐る恐る子供を受け取る、泣かれるんじゃないかとビクビクしたものの子供は何が楽しいのか嬉しそうに「キャッキャっ」と笑っている
最初は胸の前で抱いていたがそのうち落としそうで俺の肩に顎が乗るような感じに抱き変えるとその子はじっとしたかと思えば俺の耳を触りだした。
俺の耳は人間のものと比べると少し長いため珍しいのだろう
「きっとこの子にはエルフとか人間とかわかんないんだろうな」
「だろうな、そう違いがあるようには見えてないだろうな」
「そのまま優しい子に育って欲しいな」
「当たり前だろ、俺たちの子だぞ?誰にでも優しい子に育つ!」
自信満々に胸を張りそう宣言するダグマに、まぁ、この二人の子ならきっとそうなるだろうと俺も思った。
ただそれでも万が一この子が大人になった時自分を見てあの侮蔑のような目をすると考えるととても嫌だった。
こんな子達がこのまま偏見を持たずに大きくなってくれたらな……
そう考えた俺はその時ひとつのことを思いついた。それから二人と食事をしその日は泊まり次の日朝食を頂いて別れることにした
あまり長くいても迷惑だからな
「もっといてくれても良かったんだがな」
「ボックにも予定があるのよ、いつでも来てね。エリも喜ぶから」
そこで俺は二人に思いつき昨日の晩寝ずに考えたこと言う
「なぁ、俺冒険者やめようと思う」
「あぁ?どうしたんだよ急に、あんだけやめてうち来いっつっても聞かなかったくせに」
「あら、ついに折れたの?大丈夫よ、うちの職場はいつでも人手を募集しているから」
「冒険者ギルドでは働かないよ」
「なんだよ?じゃあ里に帰るとでも言うのか?あんなに帰りたがらなかったのに」
「いや、俺本屋になろうと思うんだ。そして街の子供たちに人間とは違う種族も怖くないんだって教えてやりたいんだ」
そんな俺の言葉は想像してなかったのかキョトンとした顔をする二人
「難しいかもしれないけどいつか色んな種族が同じ町で仲良く住むようになったらいいなってその手助けをしたいんだ」
途中少し恥ずかしくなり早口になってしまったが言いたいことは言いきれた。
笑われるかもしれないなと思ったが二人はすぐに笑顔になる。
「良いじゃねぇか!どーせやるならこの街でやるだろ?」
「とっても素敵だと思うわ!そうねこの街なら私たちも色々手助けできるしいいじゃない!」
なんだかそんな二人の姿を見ていると大人になっていくふたりを見るのも悪くないなと思えてきた
そこからは一度拠点のある街に戻り身辺の整理をした後二人の町に行き最初は本屋を始める建物を買ったり集客をするためエルフの特徴の耳を魔術で隠し始めた
しばらくして街の住人が僕に慣れたらエルフであることは明かそうと思っている。
話し方もそれからは変え丁寧に話すよう心がけた。
口調が荒いと怖がられるからな
それからは色々大変でどんな本を置くかで悩んだり途中お客が来なすぎてお金が無くなったり色々あったがダグマや、ラビッテに助けられて何とかやってこれた。
エリちゃんも一人でハイハイで歩けるようになったある日二人の家で話していると気になったことがあったので聞いてみることにした
「そういえばエリちゃんがもっと大きくなった時僕のことなんて説明するんです?」
「普通に元冒険者仲間でいいんじゃねぇか?」
「いやいや、元冒険者仲間にいまだに飯を届ける人はなかなかいないですよ」
そう俺はいい歳をしてもと元メンバーから毎晩ご飯を貰っている、もちろんその分の食費は渡しているしなんなら最初は断っていた
「しょうがねぇだろ、お前の飯は肉と野菜を炙るだけっていうなんとも悲しい献立だし。オマケに三日に一回は食べてねぇし」
「しょうがないでしょう、料理は出来ないんですから」
「習えばいいじゃねぇか、お前の大好きな本からよ」
「何回もやろうとしましたよ、けど何故か毎回ボヤ騒ぎになるからもうやめたんです」
ダグマは可哀想なものを見るような目でこっちを見る
分かってるよ、どうせ俺は料理音痴だよ
「まぁ、それが気になるってんなら叔父さんってとこだろ」
「叔父さん」
「エリからすればお前はおじさんだしな」
「エルフ的にはまだめちゃくちゃ若いんですけど」
「知らねぇよ、でもいい具合だろ?」
まぁ正直悪くは無い、叔父さんか。
そんな話をしているといつの間にかダグマの足元にハイハイでよってきたエリがよじよじとあしをのぼろうとしていたのでそれをダグマが抱き上げる
「すっかりあなたもお父さんですね」
「そんなもん前からじゃねぇか」
「そうですね、ダグマさんって感じですよ。」
「はは、まぁ俺の歳をエルフに換算すれば俺の方が年上になるだろうからな」
その理論は全く意味がわからないが俺より大人であることは間違いないな
それからまた数年がたちそろそろ街に馴染んできたかなと考えていた頃エリちゃんが誘拐される事件が起きた。
今回も読んで頂きありがとうございます。
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