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魔の増す間に  作者: 卯月
序章
1/50

0-1

雨の降る夜、人目のつかない路地に倒れる子供が一人


ここはどこだろう……

動けない……


雨に打たれながら倒れている少年は、服すらも着てなくこのままでは今夜にでも息を引き取りそうなほどに弱っているのが傍目にも分かるほどだった。


どうしてまだ生きているんだろう………………

…………雨が降ってる…………

…………………………あの日と同じ



現状を理解出来ず少年は自分が死んだと思っていたあの日を思い返していた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「九番、準備は出来ているな?仕事の時間だ」


扉を開き、部屋に入ってきた無精髭を生やした男に言われ、十六歳ほどの少年は頷きいつものように荷物を持ちその部屋を出た


既に日は落ちきっていて、様々な店の看板照明や店からこぼれる光で町は照らされていた。

そんな中少年が向かったのは一際、高級そうな旅館であった。ただし、正門からは入らず人目のつかない横脇の塀をこえて旅館に侵入した。


少年はそのまま旅館の中で着替え目的の人物の部屋に着くとドアを3回ノックすると、中から太った四十歳ほどの男が出てき


「こんな時間になんだ」


と機嫌悪そうにいうと、少年はニコリと笑い旅館スタッフのふりをする


「本日は創立記念を祝しまして、お客様にサービスドリンクをお配りてしおります。」


と言うと太った男はそれに興味を持ったのか少年の手にある瓶などがのったお盆に目を向けてくる


「ドリンクとご一緒に少々つまめるものも用意してありますのでお部屋に失礼してもよろしいでしょうか?」


続いて少年が言うと太った男は機嫌よく扉を開け少年を部屋に入れた。

部屋の中はいかにも高級感の漂う部屋で隅のテーブルには紙束が乱雑に置かれているのが目に入ったがそちらは気にせず、そのまま部屋の中央にある大きなテーブルにドリンクと食事の用意をしながら太った男を傍目に見ると、その男は少年に背を向け、そのまま紙の束をこちらからは見えないよう片付け始めていた。


少年はそっと歩き出し、服の中に隠していた銃をとりだし男の後ろに立つと男も気配を感じ振り返るが、そのまま少年は頭目掛けて引き金を引き男の息が止まったことを確認すると部屋を出て、人目につかないよう行きとは違う道を歩き根城に帰った。


帰ると直ぐに、ある部屋に向かいノックもそこそこに扉を開けると聞きなれた声がとんでき


「ノックをしたなら返事を待ってから入れといつも言っているだろうが!!」


と、椅子に座りテーブルに肘をつきながら無精髭の男が叫ぶが、いつものことなので気にせずに仕事の報告を済ませると


「ごくろう、じゃあ続いて次の仕事の話をさせてもらう。次の標的はこの人物だ」


と言いテーブル越しに写真を渡して来たので近寄り写真を受け取るとそこには自分よりもいくつか幼そうな少女が写っていた。


「珍しいですね、こんな幼い女の子なんて」


というのも少年にいつも来る依頼の標的はオヤジか、同業者の男、女ばかりだったので女の子が標的なんてのは初めてのことで少々驚いたのもありそう聞くと無精髭を生やした男は無造作に手を振り


「そんなことお前は気にしなくていい、決行は一ヶ月後に詳細はこの紙にまとめてあるから目を通しながら部屋で待機でしていろ」


と言われたのでそれもそうかと思い少年は部屋に戻り水を浴び、体を洗ったあと先程貰った書類に目を通した。

いつもとかっての違う標的に小さい不安感があり目を通して直していた。


少年の仕事とはいわゆる暗殺だった。


親なんてものはいなく気がついた頃にはあの無精髭の男に九番と呼ばれ暗殺のいろはを叩き込まれておりそれ以外の時間は部屋で待機して運ばれてきた食事をするか、暗殺の詳細の書いた書類に目を通すか寝るくらいしかなかったので特に苦もなく過ごしていた。


ただ部屋にある人も通れないような小窓から星を眺めることはなんとなく好きだった。本など読んだこともないので星の名前はおろか星に名前があることすら知りはしないが幼い頃訓練終わりにふと見た景色が綺麗でそれ以降なんとなく夜になると眺めていた。


そうして星を眺めているといつの間にか不安感も消えていたので少年はそのまま床に寝転び目を閉じ眠りについた。


いつも通りすごし、ついに仕事の決行日になったので準備をして待っている扉が開き無精髭の男が


「九番、準備は出来ているな?仕事の時間だ」


と言いうのでいつものように少年も頷き荷物を持って部屋から出た。

いつもとは違う少年にも分からない小さな不安感を抱えながら。


今回の仕事は、とある小さい会社の少女を暗殺すること難易度自体は簡単な方だ。


それもそうだ大きい会社の社長なら、護衛やらSPなどか傍にいるのでそれをかいくぐらなきゃならないため色々と手間があるが今回は幼い少女それも小さい会社の子供だ。


詳細によれば護衛もいなければ部屋にひきこもっている訳でもない。

いわゆる普通の子供だ、普通の子供時代を過ごしていない自分が言うのも妙だが。


標的はそんな普通の少女だ、長らく暗殺をしてきた少年は目的の町に着くとそう時間もかからず少女を見つけることが出来た。



少女は町の公園の砂場で一人で遊んでいた、あまりに簡単な依頼であることと相手が幼い少女であったことと色々と理由はあるだろうがこのときの少年は油断していた。

いつもであれば殺す瞬間にならなければ近づいたりせずましてや声なんてかけないのだけれどその時は何故か近づいてしまった。


「なにしてるの?」


声をかけられた少女は驚いて少年の方を振り向いた。そしてそのまま何を言うでもなく少年の方を向いたまま口を開けて驚いた顔をしていた。

それはそうだ、自分より七、八も歳上の男に後ろから急に声をかけられたんだ。


やばい、逃げられて警戒されたら厄介だ……


そう考えこのまま人目のつかないところに連れていくかと思い気絶させようかと手を出そうとした瞬間、少女はきらきらた目を輝かせる


「あのね!トンネルを作ってるの!」


とても大きい声で嬉しそうに言ってきてそのまま話し始めてしまった。


「学校でね、同じクラスのね、男の子たちが作っててね、私も入りたかったけどね、あっち行けって言われちゃったからね、ここで作ってるの!」


なんだか求めてない悲しい説明まで楽しそうに話し始めた。


少年はそんな少女に気を抜かれてしまい、そのまま女の子の話を聞くことにした。


と言っても小さい女の子の話だ、そこまで面白い話ではなかった。と言うよりどちらかと言えばクラスメイトからは嫌われていることが分かる暗い話だった。


だったはずだが、女の子があまりにも楽しそうに話すからなんとも言えない気分になってしまいひとまず話題を変えようと話しを振ってみる。


「トンネル作らないの?」


と聞くと、女の子はまた嬉しそうにしだす


「そうだった!じゃあ私はこっちからでね、お兄ちゃんはあっちからね!」


よく分からないことを言われ「ん?」と聞き直すが、女の子はそんな少年の様子はもう見ておらずトンネル作りに熱中している、彼女の中では一緒に作ることが決定事項のようだ。


ここで断って怪しまれるよりはと思い少年はひとつ息を吐くと女の子の目の前に座り手袋を外し手で女の子の方に向かって穴を掘り進めた。


少年は砂遊びなんでしたことなかったが死体を埋めたことはあるが手で掘ったことは無かったのと掘りながら女の子がずっと話しかけてきたためトンネルが開通する頃には夕日がさしていた。


殺し以外での初めての達成感に少年は少し感動していると、女の子が初めて暗い表情で、楽しくなさそうな声色で話しかけてきた。


「もうおうちに帰らなきゃ、お兄ちゃんまた会える?」


少年としては本来今日中に始末してしまおうと考えていたのだが、なぜか銃やナイフを持つ気になれずにいた。


「そうだね」


挙句の果てにそう返してしまった。

それを聞いた女の子は、最初に見た顔のように嬉しそうな顔をする。


「じゃあまたね!約束だからね!おにいちゃん!」


手を振りながら帰っていった。

少年は今日の自分の行動に困惑していた。


どうして今日始末しなかったのだろう、そもそもなぜ話しかけてしまったのかいつもではありえない行動に困惑が隠せず近くのホテルで部屋を借り、そこで1泊することにした。

普段暗殺には1週間の期限を貰っている。今回は簡単な依頼だったため3日でいいと無精髭の男には伝えていた。

それまでに依頼をこなし帰らなければ裏切りもしくは失敗と取られてしまうため、少年としては今日には終わらせたかったのだが、まぁ明日でも間に合うかと思いその日はそのまま目を閉じた。


次の日、少年は目覚め準備をすると午前中にとある用事をすませ、昨日と同じ時間に公園に行くと女の子は一人でブランコに乗っており少年が歩いてくるのを見つけると嬉しそうに手を振って自分の存在をアピールしてきた。

それに少年は手を軽く振り返し女の子の隣のブランコに座ると女の子がいろいろと話しかけてくるが、少年はひとつ気になっていたことを聞いた。


「どうしていつもこの公園で遊んでるの?」


そう、公園は学校から女の子の家の帰り道という訳でわない。

むしろ少し遠い場所にある、遊ぶことが好きなのであれば家の近くの公園に行った方が良いはずだ。それを何故わざわざ帰り道から逸れてこんなとこに来ているのか疑問だった。


すると女の子は少し表情に影を落とし「おうちの近くはだめなの」と言う。


それに対して少年が何がダメなのか聞くと「おうちの近くはみんなが怖いの」と昨日からは考えられない

ほど小さな声で言い、それを隠すかのように女の子は声のトーンを上げ話し出す。


「それよりね、今日はね、ジャンケンとかゲームをしたいの!」


いつもの笑顔で話して横に置いてあったカバンから色々なものを取りだした。


その時の笑顔がなんだか歪に見えた気がしたが少年も気を使いそのまま女の子とゲームを始めることにした。

そうして日が沈みかけるまで話しながらゲームをした二人は昨日と同じようにまた明日と約束をし、手を振りながら別れた。


そうして女の子が振り返らなくなった頃少年はひっそりと女の子の後をつけることにした。


昨日から色々と気になったことを調べていたのだ。


あの女の子はなぜ暗殺の依頼が出されたのか、そして誰によってその依頼が出されたのか、そもそも学校で嫌われているからといって学校から遠いだけならまだしも家からも遠い公園で遊ぶ必要は無い。

とすれば理由は家の会社の方か、とあてをつけ尾行しているのだが何やら様子がおかしい。


というのも女の子の家に近づく事に道行く人の目線が厳しくヒソヒソとした話し声が聞こえてくる。


みんなが怖いと言っていたのはこれか?


そう思いながら後をつけると家に着いたのだろう、周りに比べると少々大きめの家に入っていった。

少し気になったため先程ヒソヒソと話していた女性三人組に、あの家の事を聞くとまぁある程度のことはわかった。


いわゆる商売敵というものだ。


この街は昔から個人、個人がそれぞれ八百屋や魚屋、雑貨屋などをやってる言わば商店街式で隣町からのお客なども来ておりら経営は回っていたがそこにあの家の社長が手広く経営を始めてしまいここ一帯の経営が上手くいかなくなりついには街にゴミ処理場をつくり家族ごと嫌われるようになったらしい。


つまり依頼主はこの街の誰かということだろう、少年は疑問が解けたことに気分が晴れると思っていたがモヤモヤとした気持ちは晴れなかったが、とりあえず期日が明日までとなっているので明日決行しようと、段取りを考えながらその日も昨日と同じホテルに泊まろうかと踵を返そうとした時ふとあの家から黒い車に乗った女の子とその父親であろうかと人物が横を通り過ぎて行った。


妙に嫌な予感がした少年は急いで近くのタクシーをつかまえその車をおうことにした。


タクシーに乗り黒い車を追いかけること二時間ほど経った頃こちらには気づいていないようだが山の中を走り出しこの先30分ほど走った先が行き止まりであることを運転手から聞いた少年はタクシーからおり走って追いかけることにした。


幸い山道であったためか黒い車はゆっくりと走っているため道をそれ隠れながらおうことが出来、十分ほど追っていたところで車は止まり父親と思しき人物が降りてきた。


ただ妙なのがその手に大きく黒い袋を手にしているのだ。一体こんなところでなにをするつもりなのか、遠目から見ていると父親と思しき人物はやけに興奮しているようで息も荒く後部座席から女の子を引きずり下ろすと娘を殴り始めた。


見ていた少年は驚き足元にある枝を踏んでしまいパキッとかわいた音が山の中に響き渡ると父親はこちらを振り返り「誰だ!」と大きな声で叫ぶ。


だが今は日も落ちているため夜目の効く少年とちがいこちらの方はよく見えなかったのだろうしばらくじっとしていると、父親の足元で倒れて震えている少女をまた殴りそうして首を絞め始める。


「なんでまだ生きてる!予定した日に必ず始末してくれると聞いていたからあんな大金も払ったのに、やっぱりあいつは詐欺師だったのか!」


叫びながら女の子の首を絞めていた。

その光景を見ていた少年は驚いた。

まさか自分に依頼をしていたのが女の子の父親であったことにもだが、それ以上にあの女の子が今まさに殺されようとしているのに泣くどころか声もあげていないことに。


殺される直前それを悟った今までの標的は泣いたり、叫んだり罵倒を飛ばしてきたり命乞いをしてきたりと様々だが声を荒らげていたのにあの女の子は声一つあげない。


まるでもう生きることを諦めてるような、死ぬことを望んでいるように、その姿を見ていると少年の胸に激痛が走り何故かあそこに走り出さなけれいけない気がしてならない。

だが落ち着いて考えるとあの女の子が死ぬことは自分の依頼としても喜ばしいことだ。

死んだことが確認出来ればそのまま根城に帰りそのまま報告すればいいだけなのだから。


なのにどうしてこんなに息が詰まるんだろう。


今まで何年も人を始末してきたし先を越されることも何度かあった、それでもこんなに苦しいのは一体なぜなんだ。

そうしてもう見て居られず目を逸らした時にふとサーッと風の音にのり聞こえた気がした。


「い、いや……」




そこからのことはあまり記憶にない。


記憶には無いが目の前には首から大量の血を流しながら息絶えている男と少年の足に泣きながらしがみついている女の子そして、手ごと血まみれになったナイフを握っている自分の姿が………………




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