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「うまくいったみたいじゃ~ん? 千蔵(せんぞう)ちゃんよ~?」

 閉店後の古書店――

 店主のキノコ頭が千蔵ことレオン・リーの頭をハタキではたいた。

「これをうまくいったと言っていいのか? 俺は別人だと偽っているんだぞ」

 見合いの扮装のまま、レオンは面白くなさそうにかぶりを振った。

「んじゃあ、『レオン・リーです、殺し屋やってます』っつって、見合いに臨むのか? そんなの見合いどころか通報されるに決まってんじゃねえか」

「しかし……」

「レオン、勘違いするんじゃねえぞ。俺らが素の状態で華族のお嬢と見合いにこぎつけられるかっていったら、絶対的に不可能だろ? 接近するための手段だと思え」

「……名前も身分も、偽らなければならないということ……だな」

 レオンは複雑そうな表情で、俯いた。

「なんだその顔はよ。割り切ってかなきゃ、どうしようもねえじゃねえか」

「ところで、よくもあんなハッタリ思いついたものだな? 青年実業家などと……」

「ハッタリっつ~か、まあ、半分は実話が元だ。一財産を築いた元華族のホームレスの爺さんから買い取ったんだ、種子島千蔵(たねがしませんぞう)の身分と名は。末期がんだ。もう長くはないらしい」

「……用意周到というか、よく、そこまで……」

「まあな。こういう裏工作は得意中の得意だ」

 満更でもなさそうに笑うと、ジョセフは表情を引き締めた。

「前々から目を付けてたんだよ、あの老人は。で、一見イケてそうに感じるかも知れねえが、穴だらけの作戦だ。危険を伴うようなミッションなら不採用だな」

「詐欺のようなものだからな……だからこそ、気が引ける」

 やはり、どことなく納得していない様子のレオンが、嘆息した。

「現時点で隙のない栄華を誇る華族だったりすりゃ、アウトだろうさ。だけど、没落した連中には調査する余裕すらない。こんな安易な作戦でも乗ってきたわけだろ、先方は」

「ああ……」

「きっかけは何だっていいじゃねえか。あのお嬢と親しくなりさえすりゃあ、いずれ情が生まれる。そうなっちまえばこっちのモンだろ」

「………」

 レオンは複雑そうな顔で俯いた。

 よく考えてみれば、自分のような男が恋心を抱いた相手と見合いが出来るなんて奇跡のようだ。

 だが、この奇跡は意図的に起こしたもので、虚構だ――それを意識するといたたまれなくなる。

「ただまあ、正体は絶対にバラすなよ。いくら没落華族だっていっても、向こうはカタギでウチらはウラの人間なわけだ。付き合っていきたいんだったら、青年実業家・種子島千蔵で通せよ」

「……ああ」

「そんなわけで、一応、逢引(デート)の約束は取り付けたんだろう?」

「まあ……な」

「あのなあ、脈ありなんだろ? もっと明るい顔したらどうだよ……」

 ジョセフはため息を吐いた。

 と、そのとき、シャッターの降りた表を叩く音が聞こえた。

「閉店中だ。要件は?」

 ジョセフがハタキを回しながら、応じる。

「安眠屋、そこに居るか? 依頼だ」

「……眠り姫(ターゲット)は?」

 外からの掠れた声に、レオンが尋ねた。

 レオンは安眠屋と呼ばれ、こうして斡旋業の男に仕事を紹介されている。

 シャッターの隙間から、すっと、何かが差し出された。

「――鹿島柴三郎。名医と噂の高い医師だ」

「名医を……?」

 渡された封筒を破りながら、レオンが首を傾げた。

「詳細はそこに書いてある。頼んだぞ」

 足音もなく気配が消え、レオンは封書の中身を取り出した。


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