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「――おまえさん、ま~た派手にやったなぁ」
裏通りにある、古書店。
古びた本の匂いが漂う店内に客の姿はなかった。
エプロン姿のキノコヘアの男が、カウンター越しに新聞を見せる。
「こんな端の小さな記事に派手もなにもあるか」
昨日葬った男の事件についての記載に、レオンはため息を吐いた。
「いくら華族の味方、軍警さんがおかざり無能組織だっていっても、狙撃されて殺されたって程度の当たりは付いてるみたいだぜ?」
「ほう、ボンクラ組織と思いきや、それくらいの捜査は出来るんだな」
「床に血だまりが出来てりゃ、そりゃな……」
呆れたように嘆息すると、キノコ頭は新聞を畳んでカウンターに置いた。
「で? 今日はなんの用だ、レオン」
一応、店内を見回すようにしたキノコ頭の店主が訊いた。
「ジョセフ……ひとつ、情報を買いたい」
少しばかりためらいがちにレオンが言う。
ジョセフと呼ばれた情報屋を営む古書店の店主でもある彼は、鼻を鳴らした。
「ま、オレに要件っていやあ、それしかないわけだけど、今回のターゲットは? ゴーツク社長か? 悪徳華族か? それとも……マフィアの――」
「令嬢だ」
「……令嬢ってことは華族がらみか。まさかと思うけど、その婚約者とかそれ絡みの差し金ってわけじゃないよな? あんまり後味よくないぞ、そういうの」
「いや。そういうことではなくて……」
「令嬢ってことは――まさかマフィアの情婦やってたり、美人局やったりしてるとか、そういう……? あ~、最近多いっていうよな、没落華族の娘がウリやってるとかで……一族の恥だから、消してくれって親族もなくはな――」
言いかけたところで、銃口がこめかみに当てられ、ジョセフは息を呑み、両手を挙げた。
「なんの冗談だ?」
「下品なことを言うな」
「じゃ、じゃあ、なんのために令嬢を調査するんだよ? 品行方正な善人なんて……探る意味……」
「……こんな気持ちは初めてだったんだ」
「……は?」
銃口をジョセフに向けたまま、レオンは微かに頬を紅潮させていた。
「仕事じゃない……あくまで個人的な興味だ。彼女を調べて欲しい」
こんな様子のレオンを見たことがないジョセフは、怪訝そうに眉根を寄せた。
「調べる? どこぞかの令嬢か? 身元がハッキリしてるんだったら別に――」
しかし、レオンはかぶりを振った。
「身元は分からない」
「でも、令嬢なんだよな。何家の何さんくらいのことは……」
「令嬢らしい雰囲気というだけで、華族なのかどうかも分からない」
銃を下ろし、切なげな表情でゆっくりとかぶりを振るレオンに、何かを感じ取ったジョセフはため息を吐いた。
「……どんな女性なんだ?」
「優雅で美麗で上品で……目が合ったときに微笑んだんだ。それが……輝いて見えた」
「えらく抽象的だな。――そのあとは?」
「……ん?」
「目が合ったあと、どうした? 尾行することくらいできただろ?」
「……実はそれから……俺は長いこと惚けていたらしく、記憶がないんだ。気が付いたら数時間、経過していた……」
少々照れたように頭を掻くと、レオンは俯いた。
しばらく考え込むようにしていたジョセフが、「仕方ないな。特別価格で請け負ってやるよ」と情にほだされた様子だった。