18塩屋
大学は出て企業の内定も断りバイトをする僕に対しまだサラリーマンをしていたオヤジとの口論はしばしばで世間体も悪くお袋は家を出るようススメた。
大学の近くに住むことも考えたが知らない街に移り何か新しい人との出会いが人生を変えるとも思い神戸の元町の不動産屋を訪ねた。
市内は家賃が高く僕の器では無理で、元町、三ノ宮界隈は諦めた。
そこで塩屋の駅から5分南向き海が一望できる 風呂、水洗トイレ、キッチン、和室二間の木造住宅を案内され5月の天気が良い日、眺望が素晴らしいのと近所に大きな異人館が何軒かあり異国情緒も手伝いこの場所に決めたがバイトに行くには1時間かかり、交通費もバカにならない。
バイト先のマスターは交通費は高額にもかかわらずだしてくれた。なぜ一年で塩屋から出たのは通勤が辛く健康も害しステキな地域だったが退場した。
塩屋は隣は一ノ谷、瀬戸内海、淡路島が一望で向かいにジェームス山が有り狭い平地と斜面に家が立ち並ぶ。
車が到着した頃は天気は雨は止み青空が広がり夏の雨は激しく降り立ち去る。午後2時をまわり、本日のスケジュールがくるいだした。
塩屋も様変わりし明石大橋が淡路島にかけられて海沿いに下水処理場の建屋が出来てその横のコインパーキングに車を止めて、福ちゃんリュックを背負い、ホームセンターで購入したおニューの捕虫網を持ち、以前住んでた家を目指した。JR塩谷駅を越え線路沿いを進み坂を上がると石油会社の社長宅を上がる横目で邸宅を眺めると空き家だとわかった。
全ての雨戸は閉められ、庭も雑草が生え手入がされず放置されるのは悲しかった。あと二軒の異人館は自動車会社社長宅はコミュニティショップになり地域の方々が手作りのアクセサリーとか置物が玄関先に飾られもう一軒の石油会社の独身寮はパーティ、イベント会場になっている。ここから急な坂になり、西向き地蔵が様変わりし綺麗に配列される。西向き地蔵は全国的に珍しく願い事が一つだけ叶う伝説のお地蔵さんで信仰される方も多いのだろう。ここから車が入らない急勾配の小路となり階段を上がって借りていた文化になる裏には家は無くこの季節の蝉しぐれは半端なくうるさい。
此処なら目立たず福ちゃんにセミ取りが体験出来ると考え連れてきた リュックから福ちゃんを取り出し辺りを見渡した福ちゃんは
「スゲェ〜」
感嘆の一言を漏らした。
セミ捕りに2人は熱中したが福ちゃんの取ったのは蝉の死骸。
「オジサン、生きてる蝉を捕らえるのは難しい」
僕は福ちゃんに
「福ちゃん、それでいい、成虫になった蝉は7日しか生きられないから、それでいいんだよ」
答えた後、福ちゃんは命の尊さを感じたかは判らないが蝉の死骸をじっと見つめてた。




