ライラック
この方式で描くのは、これきりかもしれません。
安穏とした空気に
陰影が深く映える
鬱屈した顔を浮かべ
鋭刃のあたる喉元に
嗚咽の音を鳴らす
架空の楽園を描くも
揮発した願いが鼻を衝き
空論をからまわりさせて
敬虔な信仰を捧げれば
恍惚は得られるのかと問いかけた
殺伐とした都会に孕まれ
針葉を尖らせた樹々のならぶ森
数奇な運命が待つでもなく
静謐な帷で覆われるでもなく
荘厳な夕陽さえも失くした地平線のむこうに沈むが
鍛造の意志を内に持て
鋳造は形骸を胸に残すけれど
追憶にまでは至るまい
点滅の空隙を徐々に大きくしては
永久は無だけと砂に還る
難問に足りない智慧をめぐらせるよりも
人間を愛してみろ
塗壁に目口を描いて
涅槃の友とするは
能面のシミュラクラ
徘徊の民へさえ
誹謗をあびせるな
分別があるのなら
偏屈を平らにして
豊穣な心であればいい
幕間もわきまえず
見境なくのばされる腕を
無惨に散らせば
面倒を起こしてくれるなと
黙禱と呼ぶにも短くてすまん
厄災を祓い
憂慮を照らし
欲望を喰らい生きていく
磊落に咲く花の名は
凛然としたライラック
流浪にその身を堕とすとも
練達へと至る道は拓けるものだと
路傍に斃れるを赦しはしない
矮小な私がそう誓えるものならば——