閑話 僕のお給料 (2)
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にこりと笑うペネロペ嬢を見つめて、思わずカルレスの胸は跳ね飛んだ。どう考えても男遊びなどしたこともないような淑女であり、見知らぬ男どもの餌食となって良いような人には見えない。
「そんな・・わざわざお礼だなんて大袈裟です」
こんな人を、三十人がかりでどうにかしようと考えたのか?
恐ろしい、本当に彼女が無事で良かった!
「とにかくあなた様が無事で良かったです」
カルレスは心の底からそう言って、可愛らしいボンネットをかぶったペネロペ嬢と笑い合ったのだが、何故だか足元が冷気で凍りつくように冷たくなってくる。
周囲はペネロペ嬢の笑顔で春の木漏れ日のように暖かかったというのに、突然、極感のブリザードのような冷気が舞い込んで来たかと思ったら、
「いやいや、本当に、オルモ君の活躍があったからこそ、悪い奴らを一網打尽に出来たのだからね」
そう声をかけられて、カルレスはその場に飛び上がりそうになるのを、何とか気合いで踏ん張った。
ペネロペ嬢の背後に突如として現れた氷の英雄は、ニコニコ笑いながらペネロペ嬢の肩に自分の右手を置いている。
「世の中には良い男と悪い男と普通の男が居るとは思うのだが、彼はきっと良い男の部類に入るのだろうな」
氷の英雄が良くわからないことを言い出すと、
「確かに・・良い男・・」
ペネロペ嬢はカルレスの顔をまじまじと見ると、うっかりりんごの中の虫を発見してしまったわ!みたいな表情を一瞬だけ浮かべた。
カルレスの顔は整っている方なのだ。美人の母親の遺伝子が強かったようで、女性といえばこの顔を見てうっとりする事が多いのに、ペネロペ嬢の反応は普通の令嬢とは明らかに違うように見える。
ペネロペは顔の良い男に碌な人間はいないという、凝り固まった思考の持ち主なので、カルレスの顔が良いことに気が付いた途端に『ウエッ』となっていたのではあるが、そんなことをカルレスが知るわけもなく、
「あの・・どうかされましたか?」
と、心配そうに問いかけてきたため、ペネロペは気を取り直すように笑みを浮かべた。
「あの、とりあえず、良い男とか普通の男とか関係なく、私はあなた様に本当に感謝をしているのです。何か差し入れでも出来たらと思ったのですけれど、見ず知らずの人間の手製の菓子なんか持って行ってどうするんだと言われてしまいまして・・」
そう言ってペネロペ嬢はしょげたような顔をしたけれど、カルレスはペネロペ嬢の手製だったら変な薬も混ぜ込んでなさそうだし、食べてみたいなと心の底から思ったのだ。
確かに心の中で思っていただけのはずなのに、ペネロペ嬢の後ろに立つ氷の英雄が睨みつけて来たため、カルレスの口元には引き攣った笑みが浮かぶ。
「ですので、王都で人気の焼き菓子を御礼がわりにお持ちしたのですけれど、お菓子とかお嫌いだったかしら?」
ペネロペの隣に控える侍女が籠いっぱいに詰め込んだ焼き菓子を差し出してきた為、それを有り難く受け取りながら、
「母や妹やおばあちゃんが甘いものが好きなので、今日はこれを持って行ってやりたいと思います。ちょうど今日は給料日だったので、実家にお金を入れに行く予定だったので」
カルレスがそう言って笑みを浮かべると、
「給料の額だけは戻っただろう?」
と、氷の英雄が言い出した。
騎士見習いが給料で天引きされながら払っている慰謝料なんてものにまで、こと細かく目を配る官吏など居るわけがない。恐らく、慰謝料の取り下げと今まで支払った分の返却の手続きなどの手配をしてくれたのは、この人なのだろうと思っていたのだ。
「はい、給料が天引きされなくなったので本当に助かります」
そう言ってカルレスがぺこりと頭を下げると、
「見習い身分が外れれば、大分給料も高くなる」
と、ぶっきらぼうに英雄は言い出した。
これは給料が近々高くなるんだから、今回の事件に対しての報奨は諦めろという意味なのかな?と考えていると、
「報奨もそのうちに支給されるだろう」
と、英雄は補足するように言い出した。
「そのうちにじゃなくて!早く支給してくださいませ!」
話を聞いていたペネロペ嬢が英雄の方を振り返って憤慨したように言い出したその瞬間、カルレスは英雄のデレ顔を一瞬だけ視界に入れて、思わず生唾を飲み込んだ。
本当に一瞬だったけれど、英雄でもデレるんだな・・
そんなことを考えていると、
「さあ、礼も済んだしさっさと帰るぞ」
と、ぶっきらぼうに言いながら、英雄は自分の婚約者を修練棟からあっという間に連れ出してしまったのだった。
「あれは、自分の婚約者を他の男には見せたくないという独占欲の塊という奴なのか・・」
「カルレス!アンドレス様が来ていたんだって?何処?何処?何処に居るんだよ?」
いつもは威厳ある上官も、氷の英雄のファンすぎて、今はかなり見苦しいことになっている。
「婚約者さんと外に移動して行ってしまいましたよ」
「何!まだ近くに居るのかな?」
「やめた方がいいですよ」
カルレスは自分の凍った足元を指差しながら言い出した。
「普通に婚約者さんと挨拶してこれなんで、下手したら大事な息子を凍らされますよ?」
「なっ・・・」
氷の英雄の元部下であり、カルレスの直属の上官はその場に固まったまま、挙動不審になっている。そんな上官を見ながら、
「あの婚約者さんに万が一にも手を出したら・・本当に・・本当に恐ろしい・・」
と、独り言を呟きながら、ブルブルッとカルレスは身震いをしたのだった。
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