閑話 僕のお給料 (1)
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「光の神は全てをご覧になっているのよ」
祖母の口癖のような言葉を思い出し、密かに行われようとしていた恐ろしい悪事を明るみにした見習い騎士のカルレスは、上官から渡された給料の中身が増えていることに驚いた。
「どうしてお給料が増えているのでしょうか?」
驚いたカルレスが上官に質問をすると、質問を受けた上官は短く刈り上げた自分の髪の毛を掻きむしりながら言い出した。
「今回の騒動を解決に導いた報奨ということだったらよかったんだが、騒動が騒動だっただけに、そこまで話が進んではいないんだ。ただ、お前に慰謝料を請求していた伯爵家が訴えを取り下げることになった上に、お前が払っていた分を給料に差し戻してくれることになったんだ。だから、お前の減っていた給料は元に戻り、幾分嵩増しされることになったわけだ」
「え?慰謝料の請求が取り下げられたって本当ですか?」
「そうなんだよ」
上官は大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「お前に慰謝料を請求しているのは、悪の令嬢の元婚約者になるが、元婚約者と婚約中に悪の令嬢は散々、悪いことをやっていたってわけだ。その為、自分の娘をまともに育てられなかった侯爵家と、自分の婚約者をまともに管理出来なかった伯爵家に多額の罰金の支払いが命令されて、徴収された金は被害者への救済に回されることが決まったわけだ」
「は・・はあ・・」
「それでだな、悪の令嬢と交際をしていたお前は性的搾取をされていた被害者という扱いになる。これ以上の被害者を出すことを拒絶したお前は、悪の令嬢が捕まるように尽力したってことになったわけだ」
「じ・・自分が被害者ですか・・」
「そんな訳で、侯爵家や伯爵家が支払った罰金は多くの女性に慰謝料として払われることになった為、お前はそこから貰うことはないんだが、とりあえず慰謝料として伯爵家に払われていた分は返金することが決定した。ただ、問題の伯爵家に金が無い関係で、お前が今まで払っていた分を月々返していくという形で話がついたようなんだ」
「伯爵なのに一括で返せないほど困窮している訳ですか?」
「本当に、世知辛い世の中になったものだよ」
最近では婚約者の浮気による婚約破棄やら婚約解消やらが続け様に行われるようになり、発生する慰謝料については給料から天引きされるような形が主流となっていたし、カルレスも相当な額を天引きされていたのだが、
「はあ〜、本当に、光の神は全てご覧になっているのかもしれないな〜」
修練場の片付けに戻りながら、カルレスは思わず大きなため息を吐き出してしまった。
学園時代の友人であるジョゼップ・マルケスは、カルレスに対して悪い意味でのちょっかいをかけて来るような奴だった。そのため、飲み屋で声をかけて来た時も、碌な話では無いのだろうなと勘繰ることになったわけだ。
仮にも元見習い騎士が犯罪に手を染めていたとなると外聞的にも非常に悪いのではないかと考えたカルレスは、上官に即座に相談することになるのだが、
「そんなの、ほっとけば良いだろ〜」
と、投げやりな対応をする人ではなく、親身に相談に乗ってくれるタイプの人だったから助かったのだ。
下手をしたらカルレスだって、三十人の陵辱男たちという不名誉な名前を付けられて、国外追放の憂き目に遭うところだったのかもしれない。しかも噂によると、氷の英雄は男の大事な場所を凍らせて壊死させて、腐り落とさせて、捥ぎ落としたらしいのだ。
「はあ・・怖い・・本当に怖いったらないよ」
氷の英雄の怖いところは、凍っている最中は感覚が麻痺して良くわからないというのに、解凍後は想像を絶する激痛に見舞われるところだ。それはそうだろう、男の大事な部分が壊死を起こして腐った挙句に捥げて、落ちているのだから。
「怖い・・本当に怖い」
最近では王宮内に勤める男という男が、
「氷の英雄だけは怒らせたら駄目だ」
という見解に至っている。
「カルレス!お客さんだぞ!」
「はい!今行きます!」
事件が事件だけに、何度も事情聴取を受けることになったカルレスは、度々、内容の確認ということで官吏の人間が訪れることがある。
慌てて身の回りを整えて修練場の建物の入り口へと向かうと、亜麻色の髪の毛がカールした女性が、新緑の瞳を細めて笑みを浮かべてきたのだった。
「カルレス・オルモさんですよね?」
「は・・はい、そうですけど」
これは、悪の令嬢の餌食になっていた見習いはどういった人物なんだと、興味本位に見に来た令嬢ということになるのか?それとも、騎士の誰かを紹介してくれというお願いをしに来た誰かなのか?
とりあえず見た事がない令嬢を前にして緊張をしていると、令嬢はぺこりと頭を下げて言い出したのだった。
「カルレスさんですよね?貴方のおかげで私は無体な目に遭わずに助かることになったのです。とにかくまずはお礼を言いたいと思いまして、修練場まで押し掛けてしまいましたの。本当にごめんなさい」
「いや・・いやいやいやいや」
カルレスは慌てふためきながら言い出した。
「もしかして・・バルデム侯のご令嬢様でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうです」
そう答えると、ペネロペ嬢は花開くように笑ったのだった。
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