表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/165

第四十五話  ペネロペとカルネッタ

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 カルネッタが婚約破棄を宣言されたのは、丁度、去年の今頃に行われた、初等部の年末パーティーの席でだったはず。


 男爵令嬢に夢中になった公子に婚約破棄を突きつけられて、即座に隣国への留学を考えて行動を起こしたカルネッタは才女としても有名で、グロリア主催のサロンに最年少で参加するという強者でもある。


 婚約破棄をされた令嬢が新たな恋を掴むというのは、恋愛小説上のセオリーみたいなものかもしれないけれど、彼女が射止めたのは正真正銘の隣国の王子様。物語の主人公を地で行っているような公爵令嬢は、それは華やかさのない、元気のない様子で、マルティネス侯爵邸を訪れたのだった。


 あまりにカルネッタの元気がないため、急遽、人払いもしやすいし、美しい花々も鑑賞できて気分転換も出来る、洒落た温室にお茶の席を用意させると、

「まあ、こんなに見事な温室は初めてかもしれませんわ!」

 と、カルネッタが感動した様子で声をあげた。


 今は冬ということになるのだが、ガラス張りの温室の中にはブーゲンビリアが咲き乱れている。その鮮やかな花の色に見惚れている間に、お茶の席は整えられた。


「今日は私のお手製のシュークリームを用意いたしましたの」

 カルネッタが来ると知って、ペネロペはシュークリームを手作りした。


 暇になったうえに外にも出られないペネロペは、困惑されようが、自分はかりそめの婚約者なのだからと割り切って、好き勝手に厨房を使わせてもらっているのだった。


「まあ!ペネロペ様はこちらの方でも手作りのお菓子を作られているのね!」

「何せ暇ですから」


 ロザリア姫がいるカサス領へと移動をしたいと思っていたのだが、極悪非道の大魔法使いに狙われている身とあっては、姫様を危険なことに巻き込むことも出来ず、結果、侯爵邸に保護されたまま日々を送ることになったのだ。


「朝から晩まで、何かしらを必死にこなしていたので、急に何もやらなくても良いと言われても戸惑ってしまうみたいで」


 福音書の修復や手紙の偽造は急を要する仕事でもあったし、それが終わったら終わったで、卒業試験と論文作成に追われて、今まで休む暇がなかったのだ。


 花の宮殿から戻ってきて、さあ、思う存分休んでくれと言われましても、という状態に陥り、お菓子を作ったり、ベビー服を作成したりして時間を潰しているのだ。


「侯爵夫人としての勉強はされていませんの?」


 かりそめの婚約者にそんなものは必要ない。

 ただ、無料飯を食い続けるのも癪なので、書類の整理や帳簿の計算などは時々手伝う程度のことはやっている。


「お父様曰く、大怪我をしたのだし、何でも少しずつ、ぼちぼち始めれば良いのだと言われていて」

 そう言われているので修復の仕事もお休み中で、侯爵邸に仕事を持ち込むのもやめている。


「結婚の心配だけはしないで良いのが幸いというところでしょうか・・」


 この分では到底、結婚など出来そうにない。修復人としての腕はあるので、将来はそれで稼いでいけば良いと考えているペネロペは、卒業と同時に結婚すると言っていたアンドレスの言葉など、かけらも頭の中に入っていないのだった。


「ペネロペ様でしたらそうでしょうねえ」

 カルネッタはペネロペがアンドレスと結婚するものと思い込んでいるので、だからこそ、結婚の心配はいらないのだと思い込んでいる。


「それで、私はいつでもカルネッタ様にお会い出来ることは嬉しいのですけど、カルネッタ様から急に会いたいと言われることは稀なので、ちょっと胸がドキドキしているのですが」


 以前、カルネッタから会いたいと言われて会った時には、問題の福音書と手紙を託されているので、今回も何か問題を持ち込まれたのかとペネロペはヒヤヒヤ、ドキドキしているのだった。


「ペネロペ様・・あの・・その・・」

「どうしたのですか?」

「私・・私・・」


 カルネッタの琥珀の瞳にあっという間に涙が溜まっていったかと思うと、宝石のような涙がポロポロと頬を滑り落ち出した。


「私・・の・・所為で・・ミシェル様が・・お亡くなりになったのかと思うと・・」

「ミシェル様ですか?」


 隣国の国王の姪であるミシェルは、秘密裏に毒杯を飲んで亡くなっている。遺体はクレルモンにも運ばれずに、アストゥリアス王国に葬られたのだと話に聞いた。


「私、ミシェル様から浮気ばかりの婚約者の話を聞いて、頭に来たのです。結婚してまで平民身分の愛人に現を抜かす旦那様に対してざまあみろをして頂きたいと思い、ミシェル様にアドバイスをしましたの。結果、ミシェル様はご自分が自殺したように見せかけて、我が国に亡命されたのですけれど、私がもっとフォローをしていれば、こんな事にはならなかったのではないかと後悔しているのです」


 ペネロペはカルネッタの隣の席に移動すると、彼女の涙をハンカチで拭った。

 人の命は重い。

 自分がきっかけとなって、一人の女性が亡くなったと考えたカルネッタは、後悔に後悔を重ねているような状態なのだ。



ここまでお読み頂きありがとうございます!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ