第四十四話 ペネロペとアンドレス
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胃痛が治らないペネロペは花の宮殿から侯爵邸に戻って来ることとなったのだが、魔法学校を卒業するための試験は済んだし、論文の提出も済ませた為、ようやっと、ゆっくりのんびりと過ごすことが出来るようになったのだ。
アストゥリアス王国の卒業シーズンは年末に迎え、新年からは新しい学期が始まることとなる。その為、卒業のセレモニーが終わった後は年末を祝うパーティーが行われ、その中で卒業も祝う事となるのだ。
年末のパーティーでは学園の全ての生徒が参加することになる為、昨年はペネロペもパーティーに参加をしたし、その祝いの場で、仲の良い先輩であるグロリアが婚約破棄を突きつけられる現場にも遭遇している。
あの時は準備万端整えていたグロリアが完膚なきまでにやっつけたものの、王子と側近と、王子の恋人である子爵令嬢までもが性病に罹っているということが暴露され、会場は混乱の渦に巻き込まれることになったのだ。
結果、アドルフォ王子は王位継承権を剥奪の上、廃嫡されることになり、グロリアは結婚することがなくなったので、院に進むことが決定したのだ。
「考えてみたら、あの時からフェレ様は私とご一緒してくれなかったのよね」
窓から外を眺めながら、ペネロペは思わず、独り言を呟いてしまった。
婚約者だったフェレ・アルボランが王立学園を卒業するパーティーでは、フェレはペネロペをパートナーとしてエスコートしてくれたものの、昨年も、一昨年も、年末のパーティーにフェレは参加すらしてくれなかった。
「僕は魔法学校の卒業生ではないから、格式が高く感じてしまうんだよ。だけど、君の卒業を祝うパーティーには絶対に参加して、婚約者である君をエスコートするから安心しておくれ」
なんてことを言ってはいたが、蓋を開けてみれば、フェレは船に乗せられて何処かの国へと売られていく事になり、ペネロペは新しい婚約者と共にパーティーに参加することになるのだ。
冗談みたいな話から婚約することになったペネロペは、イケメンであるアンドレスが碌でもない奴であると立証することが出来ると考えている。一年という期間が設けられているし、まだまだ時間はある。
だがしかし、彼はペネロペがびっくりするほどの負けず嫌いだったため、ロクデナシの烙印を押されないようにするために、なりふり構わないところがあるから恐ろしい。
本来なら、ペネロペが徹夜で論文を書き上げる前に、使節団を歓迎する宴が行われることを知らせるべきであるし、パチェコ理事長から卒業試験を預かって来なくてもよかったのではないかとさえ思う。
ペネロペは胃がやられていたのだ、それもかなり重症だったと自分でも思う。そんな可哀想な状態だったら、卒業試験の内容なんか目の前に置かずにゆっくり休ませてやれよと思うのだ。
「むぐぐぐぐ・・やっぱり・・碌でもない・・」
そんなことを言いながらペネロペが窓から外を眺めていると、仕事から戻ってきた様子のアンドレスがペネロペに与えられた部屋に入って来て、疲れ果てた様子でソファに座り込んだのだ。
「降爵に値する貴族が多すぎて本当に困る。この際、全員平民に落として、全ての領地を王領にしてやろうかな」
これまた物騒なことを言い出した為、ペネロペは思わずため息を吐き出した。
「トップがバカだったとしても、案外、下には優秀な部下が大勢付いていたりするものではございませんか?無理やり王領として召し上げるよりも、頭を挿げ替えて、何かあれば領地も取り上げるくらいの脅しをかけておけば宜しいじゃないですか。何代にも渡って土地を治めてきた貴族ほど誇りがありますから、己の血の染み込んだ大地を守るために必死で働くことでしょう」
「能無しのくせに、文句ばかりを言う者もいるのだが」
「ムサ・イル派の手先ということにして放逐処分にしたらいかが?」
短い付き合いだとは思うけれど、ペネロペはアンドレスたちのやり口を良く知っている。とにかく、何を言ったって、自分たちの好きなように進めて行くのだから、どうぞお好きにやってくださいと思うしかない。
「私にも、まだまだ遠慮の心が残っていたということか・・」
「はい?」
「ペネロペが言う通り、何かあればムサ・イル派を引き合いに出せば良いのだな」
「はあい?」
ペネロペは、彼の中のスイッチはとっくの昔に押されていたものと考えていたのだが、ペネロペの考えていたスイッチはまだ押されていなかったらしい。いやいやいや、彼らが好き勝手やるのはいつものこと、いつものこと。
ペネロペが首を横に振りながら迷走しそうになる思考を元に戻そうと試みていると、アンドレスがソファに座り直しながら言い出した。
「そういえば、君の友人でもあるカルネッタ嬢が君に会いに来たいと言っている。都合が合えば明日にでも、と言うのだがどうだろう?」
「カルネッタ様ですか?予定なんて卒業パーティーまで何もないので、いつお招きしても大丈夫ですよ」
アンドレスの向かい側のソファに座り、置いてあった作りかけのベビードレスを手に取りながらそう答えたペネロペは、一瞬、眉を顰めると、
「よそ様の家に滞在しているのに、私がお招きしても大丈夫だなんて言い出すのは変ですわよね」
と、言い出した。
「君は私の婚約者なのだ、侯爵夫人として家を取り仕切るのに何の問題もないのだが?」
「書類上なだけですよ?それも、冗談みたいな理由から結ばれているだけの関係ですし?」
アンドレスはペネロペが手にする作りかけのベビードレスをまじまじと見つめながら言い出した。
「私たちの子供用なのか?あまりに気が早すぎるようにも思うのだが?」
「それ、分かっていて言っているんですよね?」
ペネロペの兄嫁がもうすぐ出産とあってお祝いのベビー服を街に買いに行こうと思っていたのだが、大魔法使いの恨みから小市民の恨みまで、色々な恨みを買い過ぎているペネロペは今のところ外に出られない状態に陥っている。
かと言って、侯爵邸に商人を呼んでベビー服など見繕っていたら、
「あらあら、お式の前に・・まあ・・御子が出来てしまいましたの?」
なんていう風に勘違いされるため、現在、手製に挑戦するしかない状態に追い込まれているのだった。
「もうすぐ兄のところに赤ちゃんが産まれるのに、お手伝いにも行けないなんて!」
「生まれたら一緒に見に行こう、その時には私も付き添うから何の問題もない」
「宰相補佐様同伴じゃなければ駄目なんですか?」
あからさまに不機嫌な表情を浮かべたアンドレスが言い出した。
「宰相補佐様じゃないだろう?」
「はい?」
「君は私のことを誠意ある対応を心がける、至って真面目な婚約者だと認めたのだろう?ならば名前で呼ぶべきじゃないのかね?」
ペネロペは線引きをきっちりと付けるタイプだった為、今までアンドレスのことを宰相補佐様と呼んできたのだが、この前はついうっかりと、彼のことを名前で呼んでしまったのだ。以降、アンドレスは名前呼びをしないと、物凄く不機嫌になるし、物凄く面倒臭いことにもなるのだ。
「はいはい、アンドレス様、アンドレス様が一緒に赤ちゃんを見に行ってくださるんですね。きっと我が家の使用人たちは、イケメン見たさにはしゃぎ回ることでしょう。容易に想像がつきます」
兄嫁もイケメンが好きだから、はしゃいで喜ぶのに違いない。
ペネロペの兄はイケメンとは程遠いのだが、兄嫁曰く、理想と現実はこんなものだということらしいのだが。
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