第四十二話 破滅の足音
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王家主催となる北方二十カ国の使節団を招いた歓迎の宴ということで、会場は王家が別荘としても利用する花の宮殿となり、王都から訪れた貴族たちは名前を呼ばれながら会場入りをすることになる。国王の挨拶後、使節団、急遽訪問を決めたクレルモン王国のパスカル王の挨拶が続いた後は、和やかに宴が続けられる事となったのだ。
早々にパーティーから退出しようと考える貴族はそれなりの数に登ることとなったのだが、
「アルボラン伯爵、貴方様は帰ることが出来ません」
と、出口に控える官吏に止められることになったのだ。
宴に参加した王国の貴族たちはチェックを受けなければ帰宅が許されないようで、出入り口には物々しい数の警備兵が立ち並んでいる。
「市中の井戸に毒を盛られて大変なのであろう!お前らは安全極まる会場なんかを警備していないで、さっさと王都に戻った方が良いんじゃないのか!」
出口の前で苛立ちの声を上げた一人の貴族が、早々に拘束されて連れて行かれてしまった。その姿を眺めていた隣の男が、ポツリとこぼすように言い出した。
「この宴を花の宮殿で開くことにしたのは、王国の不穏分子を王都から追い払う為だったのかもしれませんね」
不穏分子とは、ムサ・イル派の教えに従う熱狂的な信者となる貴族たちのことを指すのだろう。ムサ・イル派が毒まで使ったというのなら、これを擁護する言葉を探すことは出来ない。
「父上、やはり外には出られませんでしたか?」
出口で拒否された伯爵に、真っ青な顔をしたフェレが声をかけてきた。
「お前、本当に大丈夫なんだろうな?」
金髪の女をパートナーとして連れていたフェレだったが、今はそのパートナーの女は何処かに行ってしまったようで居ない。他に話を聞かれては困るため、会場の隅の方へ親子は移動した。
アルボラン親子はペネロペが男たちに穢されるという計画があることを知っていた。陵辱されて壊されたペネロペをアルボラン伯爵家に輿入れさせるところまで計画していたというのに、全ては未然に防がれることになってしまったのだ。
「だ・・大丈夫ですよ・・僕はペネロペを誘い出す手紙を確かに書きましたが、何処の場所に行くようになどと詳しく記載もしていないですし、日時なども明確に書き入れてはいませんし、いくらでも言い逃れが出来るように配慮はしておりますから」
「お前、本当に、本当に、大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫ですよ!大丈夫!」
呼び出されたペネロペは多くの男たちに穢された末に、パーティーの後半になってから発見される予定となっていた。陞爵の発表を国王陛下がされる前にペネロペの痴態が発見されることになり、手紙を使って誘き出した騎士見習いの悪巧みが明るみとなって、糾弾する予定となっていた。
ペネロペに恨みを持っていた騎士見習いは、フェレが書いていた手紙を悪用したことになる。顔立ちの良い騎士見習いは伯爵家に勤めるメイドと結託して、フェレの手紙を持ち出したということにする偽装もできていた。
呼び出しの手紙は証拠を残さず燃やす予定でいたのだが、仮令見つかったとしても言い逃れが出来るようにはしていた。
だというのに、かなり手前で計画が発覚したというのなら、今後どうなるのかが予想も付かない。
会場の隅にいる二人の元まで、騎士が向かってくる足音が聞こえてくる。その足音が破滅に導く足音だったのか、それとも救済へと導く足音だったのか。
息子と共に簡素な設えの個室へと招かれた伯爵は、騎士と官吏に囲まれながら事情を説明されることとなったのだ。どうやら詳しい取り調べがすでに進んでいるようで、息子が首謀者の一人であるということが決め付けられているようだった。
「フェレ!お前は長年婚約者として付き合いがあったペネロペ嬢に対して、なんて無体なことを企んでいたんだ!」
伯爵は自分は関わってはいないと主張するために、隣に座る息子の胸倉を掴んで殴りつけた。フェレは殴られて床に転がったが、その様子を見守っていた目の前の官吏は呆れた様子で言い出した。
「伯爵、そんなパフォーマンスは我々には通用しませんよ」
官吏は目の前に書類の束を広げながら説明を始める。
「所有する鉱山はあらかた掘り尽くしたような状態で、これ以上の無理な採掘は投入資金と採掘量が見合わない。そう、王家から派遣された専門家にも言われていたというのに、採掘にこだわっていたのは貴方も同じだ。ペネロペ嬢は鉱山大臣であるバルデム侯の娘だから、哀れな娘を引き取って恩を売るつもりだったのでしょう?バルデム侯の力を使ってかつての栄華を取り戻そうとしたのでしょう?」
「いや、私はそんなことは!」
「いいです、いいです、今回のことに貴方のご子息が関わっているのは間違いのない事実なのですから」
官吏はフェレが書いた封筒の手紙を伯爵の目の前に置きながら言い出した。
「最後に一目会って君と話したい、彼の後について来て欲しい。これ、貴方の息子の直筆のメッセージですよね?」
カルレス・オルモはこの手紙をジョゼップ・マルケスから受け取ったのだが、ペネロペに渡したのは国王直筆のメッセージと入れ替えたものになる。封筒も手紙も証拠の品として厳重に管理しているのだ。
「それは・・我が家のメイドが・・騎士見習いに渡した・・」
「言い逃れは出来ないのはわかるでしょう?」
「わ・・私は知りません・・息子が勝手にやったことで・・」
「貴方も息子さんも全てを知った上でやっていたんでしょう?知っていますよ、貴方がバルデム侯と再び縁が出来るからと言って借金をしているのをね」
アルボラン伯爵はテーブルの上に突っ伏した、伯爵にとって全てが終わった瞬間だった。
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