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第四十話  嘘をつかない男

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 王都の井戸にムサ・イル派の司教が毒を投げ込み、市中が大騒ぎなっているという情報がパーティー会場にまで流れてきた頃、ようやく登場することになったラミレス王が、使節団を引き連れながら、

「静粛に!」

 と、凛とした声を張り上げた。


 40歳となるアストゥリアス王国の王は今なお若々しく、金色の瞳を輝かせる美丈夫でもある。ワイルドなイケメンという風貌のラミレス王は人気が高く、正妃イスベルが処刑になって以降も、新たなる妃の座を巡って淑女の間で暗闘が繰り広げられているらしい。


 国王には側妃ジブリールがいるし、ジブリールの間に王子が一人生まれてもいるのだが、司教たちに認められていない彼女たちが公の場に顔を出すことはない。


 そう、公の場に顔を出す事がないはずのジブリール妃が、ラミレス王のエスコートを受けて現れたのだから、会場が驚きに震えることになったのだ。


 ジブリール妃も40に近い年齢であるはずなのに、髪の毛は黒々と美しく、長いまつ毛が大きな影を落として、翡翠色の瞳を彩っている。スッとした形の良い鼻の下の唇はぼってりと紅い。女の色香が滲むような側妃の登場は、それこそ十五年ぶりということになるだろう。


「本日はべドゥルナ伯爵家、バルデム伯爵家、両家が侯爵に陞爵するめでたい日であったというのに、市中で謀反が起こった。というのも、ムサ・イル派の司教が私に対して毒殺を企んでいたことが明るみとなり、逃げ切れぬと判断したが故に自暴自棄の行動に出たのだ!」


「はい、嘘です」

 アンドレスは小さな声で呟くペネロペを見下ろすと、

「黙っていないとキスで口を塞ぐことになるぞ」

 と、言い出した。


 ペネロペが知る限り、アンドレスは嘘を吐かない。色々と行動や言動に問題がある男なのだが、嘘はつかないし、やると言ったらやる男でもある。即座にペネロペが黙り込むと、ラミレス王は聴衆に向かって言葉を続けた。


「そもそも、この度二つの伯爵家が陞爵するきっかけとなったのは、長年、シドニア公爵麾下の貴族たちが領地から産出される鉱石を王国に無断でムサ・イル派の司教たちに横流しをし、その横流しされた鉱石を、司教たちが他国の貴族へ賄賂として流していた証拠を明るみにしたからである」


 ムサ・イル派はアラゴン大陸中で布教しているのだが、国の主派として甘い汁を吸い続けるためには、多額の賄賂が必要になってくる。その賄賂としてアストゥリアス王国の鉱石を活用していたが為に、司教たちは躍起となってアストゥリアス王家を手中に納めようと考えていたわけだ。


「鉱石欲しさに王家にまで手を伸ばそうとする。その行いは、神をも恐れぬ悪しき行いなのは間違いない。それだけでなく、奴らは自分たちの犯罪を明るみにしたバルデム卿憎しで、彼の娘であるペネロペ嬢に目を付けた。本日、彼女は宰相の腹心の部下であるマルティネス卿と婚約を発表する予定で居るのだか、その発表を邪魔するために、司教たちは三十人の男たちを用意した。つまりは、この宮殿で、ペネロペ嬢を三十人の男たちで穢そうと考えたのだ!」


 一斉に視線が向けられて、ペネロペはその場で卒倒しそうになってしまった。三十人という数に驚かない者は居ない。


「もちろん司教の手先となった三十人の男どもは捕まえた。その者だけでなく、親族に至るまで私は罰を下そうと考えている。なにしろこの宮殿で、神をも恐れぬ卑劣な行為を行おうと考えたのだからな。我が王家に後ろ足で砂をかけるどころの騒ぎではない!」


 先ほどから扉の方をチラチラ見ている貴族が出てきているのだが、会場のすべての扉は封鎖されて、護衛の騎士たちに守られているような状態だ。


「光の神は、全ての民を照らしている。悪事は全て明るみとなり、神は正しく裁かれることを求めるだろう」


 ラミレス王は胸の前で光の神を示す三重の円を指先で描くと、神への祈りを捧げながら言い出した。


「我がアストゥリアス王国ならびに、北方二十カ国はムサ・イル派を主派から外し、フィリカ派へ帰依することをここに宣言する。我がアストゥリアス王国、隣国クレルモン王国、北方二十各国は同盟を結び、帝国との友好を結ぶ」


 王家が使用する奥の扉が開かれて、使徒ルーサと共にクレルモン王国の国王パスカルが現れた。パスカル王の後ろには王弟パトリスがおり、アストゥリアス王国バシュタール公爵家の令嬢カルネッタをエスコートしている。


 そこで前に出たジブリール妃は、鈴が鳴るような素晴らしい声で言い出したのだった。


「アブデルカデル帝国の皇帝ラファは私の兄でもある。我が帝国の長年の望みは北大陸への侵攻ではあるが、何も広大な領土を望んでいるわけではない。交易を閉鎖しているアラゴンに対しての拠点となれば良いのであって、それはボルゴーニャ一国程度でも何の問題もない」


「ちなみに、我が娘ロザリアの住む離宮に襲撃があったことは記憶に新しいことと思うが、その襲撃者とはボルゴーニャ人である。彼らはロザリアを攫って傀儡の女王として、我が国を併合しようと企んでいたのだ。ペネロペ嬢、君はロザリアの教育係として離宮に滞在し、襲撃を受けたと思うのだが、その場で隣国の王子を見たのだろう?」


 何の相談もなく、急にラミレス王はペネロペに話を振ってきたのだ。

 これはどんな罰ゲームだろうか?今日は厄日なのか?なんなんだ?


「私が離宮の二階におりましたところ、二十名ほどのボルゴーニャ人が姫様は何処に居るのだと問いかけて来たのです。その中には隣国の第一王子であるアルフォンソ殿下が確かにおりました」


 すると、あとを引き継ぐような形で隣に寄り添うように立っていたアンドレスが口をひらく。


「私も愛する婚約者を救うために離宮へと向かいましたが、その時にアルフォンソ殿下の姿を見ております。アルフォンソ殿下は、大魔法使いキリアンと共に逃げ延びてしまいましたが・・」


「「「大魔法使いキリアンだって」」」

「「「嘘だろう!生きていただなんて!」」」

「「だったら、何で出会したはずの令嬢が生き残っているんだ?」」


 大魔法使いキリアンは殺戮者として有名であり、その膨大な魔力を使った戦い方は多くの死を招くことになる。彼と顔を合わせたら死を覚悟しろという言葉は有名で、自国の殺人者を刈り取るために、魔法王国サラマンカが多くの魔法使いを失ったのは有名な話でもある。


「我が婚約者が大怪我をしたのを知る人も多いでしょう。ちなみに、大魔法使いキリアンはムサ・イル派と手を組んでいる」


 アンドレスの言葉に会場が大騒ぎとなった頃、ラミレス王は床に王杖を突いて人々を黙らせた。


「故に、我が国はムサ・イル派とは手を切ることとする。光の神に背く行いをすれば、我が民は皆、楽園へと行けなくなってしまうのだからな」


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