第三十九話 親族への根回し
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一度、ペネロペの家族全員が集められることになったのだが、
「ペネロペを穢そうと考えた殿方が・・三十人ですって!」
ふうっと意識を飛ばしそうになったペネロペの母ジョージナは、倒れそうになった瞬間、踏ん張るようにして足に力を入れると、大きく息を吐き出しながら、
「その方達はどうなったのでしょうか?」
と、豪胆にもアンドレスに対して問いかけた。
「悪辣な策に乗った者どもは全て私が氷漬けにしています」
氷漬けとは本当に氷漬けで、鼻の部分にしか小さな穴が空いていないような状態なのだ。
「後ほど、ご希望があれば現場にお連れいたしますが、関わった全ての者に対して厳しい処罰が王命によって下ることとなるでしょう」
「厳しい処罰を望みます」
後継ぎ息子でもあるペネロペの兄ミゲルはそう言うと、集まったバルデム一家(嫁いだペネロペの姉の家族も含む)を見回しながら言い出した。
「それで、閣下が私たち家族だけを集めたからには、何かお話があるのではないのですか?」
陞爵してバルデム家は侯爵となる。ここでマルティネス侯爵とペネロペの縁組を発表するとなると、今まで派閥云々に関わりを持たなかったバルデム家は嫌でも権力争いに巻き込まれていくことになるだろう。
その事について、事前に根回しをしたいのだろうかとミゲルは考えたのだが、
「実は今日の宴には使徒ルーサー様を招いているのです」
と、アンドレス・マルティネスは予想外のことを言い出した。
使徒ルーサーとはフィリカ派を率いる使徒の中でもトップに位置する人だ。最近では隣国クレルモン王国がムサ・イルからフィリカに宗派を変えたのは有名な話でもある。
「もしかして、我が国も隣国同様、フィリカ派を選ぶという事になるのでしょうか?」
ペネロペの父セブリアンの疑問の声にアンドレスは笑顔で答えた。
「父上も知っての通り、アストゥリアス王国はムサ・イル派に搾取され続けました。奴らは信者を利用して無料みたいな値段で鉱石を受け取り、自分の派閥に与する他国の貴族たちの元へ流していたのです。しかも彼らは毒を使って我が国の王の暗殺も企てた」
「「「「暗殺!」」」」
集まった親族が驚き慌てる中で、
「父上と呼ぶな!まだ結婚すると決まったわけでもないのだろうに!」
と、父が怒りの声を上げている。
「マルティネス卿、私は娘のペネロペから、どういった経緯で婚約の話が進んだのかを聞いているのだがね?」
「私は誠意ある対応を心がける、至って真面目な婚約者なのです。ペネロペ嬢とはもちろん結婚しますよ」
どうだか!みたいな視線を父とペネロペは向けたけれど、
「まあああ!氷の英雄の氷がペネロペの愛で溶けてしまったのね!」
「永久凍土を氷解させるだなんて!ペネロペ凄すぎるわ!」
と、ペネロペの二人の姉が寝ぼけたことを言っている。
「本日、我が国だけでなく、北方二十カ国が揃って宗旨替えをすることを発表することになるのですが、そのことを父上のご家族にも了承いただきたいのです。これから私の家族ともなる方々がこのような重要なことを知らずに、発表の場に臨むのも良くないことだと思い、あえて、事前にお知らせさせて頂きました」
アストゥリアスの王家には二人の王子が居たのだが、一人は病を悪化させて再起不能の状態に陥り、もう一人は血筋が理由で王位継承権すら持っていないような状態なのだ。
ラミレス王は宰相ガスパールをことのほか重用しているのだが、ガスパールは元軍人。その宰相の懐刀とも言われるアンドレスも元軍人ということになる。今回、鉱山大臣に抜擢されたセブリアン・バルデムはその働きを評価されて陞爵することとなったのだが、侯爵となったバルデム家は、軍人で形成された派閥に自動的に参入することが決定したのかもしれない。
そこの所は十分に理解しておけよ、と、そんなことを知らしめる意味もあって、一室に招き入れられたのだろうか?
父と同じく鉱山の専門家である兄ミゲルにとって、軍部は遠い世界の怪物みたいな存在だった。その怪物たちに仲間入りするのか、ちょっと考えるだけで胃がキリキリ痛くなってくるのは何故だろう。
「き・・き・・君は!ペネロペを愛してなんかいないんだろう!」
いつの間にか父がヒートアップしていたようで、マルティネス卿に自分の指を突きつけながら詰問をすると、
「私はペネロペを愛していますよ!」
と、アンドレスがペネロペの肩を抱き寄せながら言い出した。
そもそもペネロペの着ているドレスの色はマルティネス・ブルーと言われる侯爵夫人しか着ることが出来ないものであり、すでに侯爵位を継承しているアンドレスがこのドレスをペネロペに送ったというのなら、つまりは自分の妻として心の底から望んでいるという意思表示でもある。
「卒業とともに結婚しようとも思っておりますし!」
「「「キャーーーーーーッ!」」」
二人の嫁いだ妹だけでなく、集まった親族の女性たちまでもが歓喜の悲鳴を上げている。
「そ・・卒業式は二十日後なのに、卒業と同時に結婚は無理なのでは?」
そう問いかける母ジョージナに朗らかな笑みを浮かべながら、
「籍だけ先に入れるというのも良いかと思っているのです」
と、氷の英雄が答えている。
どうしてこうなったんだと、ミゲルが自分の妹に視線を送ると、さっきから妹の表情は無になっている。おそらく、彼女の脳みそは星空の間を飛んでいるのに違いない。
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