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第三十七話  平和ボケ

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 これが平和ボケというものなのかもしれない。

王国軍が動き始めれば即座に知らせが来るように手配をしていた為、使節団を招いての宴が行われるにしても、今日のうちに何かが起こるとは全く考えていなかったのだ。


「神の御心に背く司教たちを捕まえろ!」

「毒を使って民に悪事を振り撒く司教たちを捕まえろ!」


 大聖堂に押し寄せて来たのはペドロウサ侯爵家が所有する私兵団であり、王都に複数存在するムサ・イル派の聖堂や教会はあっという間に制圧をされていくことになったのだ。


 激しく抵抗をした一部の教会は火をつけられて燃え上がっているという。危険を察したルイス・サンズ司教は豪奢な祭司服を脱ぎ捨てて、平民が着るような粗末な洋服に着替えた。そうして、側近を連れながら隠し通路を使って逃げ出すことに成功したのだが・・


「なんだって?ムサ・イル派の司教たちが王都の井戸水に毒を流し込んだんですか?そんなの嘘に決まっているでしょう?」

 街の中では井戸に毒を入れられたと大騒ぎになっており、混乱の渦となっている。


「ムサ・イル派の司教様方はそんなことを良くやりなさるらしいのさ」

「北方にあるユマトラ王国では最後までムサ・イル派に帰依するのを拒んだ為に、国中の井戸に毒を入れて嫌がらせをした上で、神の怒りを買ったのだと大騒ぎをしたらしい」


「うちの国も、クレルモンと同じように宗旨替えをするものと考えた司教たちが、嫌がらせを行ったみたいなんだな」

「奴ら神の怒りを演出する為には手段を選ばないというじゃないか?」

「すでにその毒で子供が一人死んだらしいぞ!」


 ルイス司教は思わず街中で卒倒しそうになってしまった。

 ムサ・イル派では度々毒を使用する。ユマトラ王国の神の怒りは有名な話で、当時、司教たちが井戸に毒を入れて民を苦しませた末に、解毒剤を配って、神の許しを得たものだけが回復するのだと喧伝したのは界隈では有名な話だ。


「そんなことはやっておりません!我々はそんなことをやっておりません!」

 ルイスの側近が顔を真っ赤にして言い出した為、教会へ向かおうとしていた市民たちが恐ろしい顔付きとなりながらこちらを振り返る。


「ムサ・イル派の司教様たちは毒など利用されません!私たちを神の楽園へと導いてくれる救いの御子となる方々なのですよ!」


「結局、楽園に行く為には金を請求する奴らじゃないか!」

「フィリカ派に帰依したクレルモン王国じゃ金なんか請求されないらしいぞ!」

「金の量で楽園行きを決めるのは邪道で、神様に祈りさえすれば楽園には行けるんだって使徒様たちが教えてくれたって言っていたぜ!」


「使徒は異端も同じこと!我らムサ・イル派とは異なる存在です!」


 思わずルイス司教は後退りをした。神は金を払わなければ、望みを叶えることはない。神に金を払わなければ、楽園に行くことなど出来ない。


 祈るだけでも楽園への道は示される。フィリカ派の教えの方が民には受け入れられやすいということは、司教であるルイスも重々承知している。だけれども、祈るだけでは金が入らない。己の懐が膨らまないからこそ、教義が捻じ曲げられることになったのだ。


「俺は司教様よりも、使徒様を信じるよ!」

 一人の男が言い出した。

「使徒様が薬を配って歩いているのを知っている、具合が悪くなった貧乏人の家に行って治療をして回っているのを俺は知っている!」

「なあ、後ろに居る男、何処かで見たことがあるような気がするんだが・・」

「あれは司教の一人じゃないのか?町人みたいな格好をしていやがるが、指につけているあの指輪を見てみろ」

「金目になるものを身につけて逃げて来たんだな」


 周りの人間の目が獣じみたものに変貌するのを眺めながら、ルイス司教は後退りし続けると、太った背中が何かの硬いものにぶつかった。


「司教、大変みたいだね」

 後ろを振り返ると、大魔法使いのキリアンがニコニコ笑いながら言い出した。


「悪事が明るみになったっていうので、王都の民は激オコ状態だよ!ルイス司教もかなりまずいんじゃないのかな?だって、三年前に起こった飢饉で民が飢えてもムサ・イル派はなーんにもしなかった。なーんにもするなって決めたのは、ルイス司教様だものね!」


 大声をあげていた側近がすでに民衆に捕まって殴る蹴るの暴行を受けている。


「民のお金を集めるだけ集めて、自分の懐に入れているのも知っているよー!それで何を購入したんだっけ?子供をたくさん購入したんだっけ?愛人を囲うための家を買ったんだっけ?そのお金でパンを買って配っていれば、どれだけの市民が助かることになったのかな〜?」


 キリアンの声はよく通る。

 怒りの表情を浮かべた男たちが何百人とルイスの周りに集まり出したけれど、キリアンが後ろに居るせいか、直接的な暴力は止められている。


「さあ、どうする?助かりたいならマネー、お金を用意してくれないと僕は動くことができないけれど?」

 耳元でそう囁かれては、ルイス司教はこう言うより助かる方法はなかっただろう。

「何でも!お前の好きなだけ払ってやる!だから私を助けてくれ!」

「オッケー!約束だよー!」


 キリアンはルイス司教の肩を掴むと、転移魔法でアストゥリアス王国の王都オビエドから、ボルゴーニャ王国の王都トルンへと飛んだのだ。


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