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第三十話  試験が終わったのに

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 アリカンテ魔法学校を卒業する予定のペネロペは、今の時期は試験と卒業パーティーの準備で大忙しのはずだったのだが、

「え?北方二十カ国を招いての歓迎の宴がある?しかもそれに出席しなくちゃいけない?嘘ですよね?」

 侯爵邸にあるサロンの一室で、真っ青な顔となって父と母の顔を見つめたのだった。


「私、ようやっと昨日、最終試験を終えることが出来たんですよ?だと言うのにパーティー?嘘ですよね?」


 アンドレスがパチェコ理事長から預かって来た卒業試験は、テスト形式の物が数枚と、テーマに沿った論文の提出が三本もあった為、傷がまだ治り切らない状態だというのに、目の下に隈を作りながら論文作成に挑むことになったのだ。


 氷魔法の遣い手を多く輩出するマルティネス侯爵邸の図書室の蔵書が充実していたから何とかなったものの、伯爵邸に戻っていたら論文作成は失敗していたかもしれない。何せ、溢れるほどの蔵書を誇る魔法学校の図書室や、王室が管理する中央図書館に泊まり込みで論文作成をすることなど出来ないからだ。


 夜も寝ずに滞在が可能な侯爵邸の図書室については、ただ、ただ、

「ありがとう!本当にありがとう!」

 と、ペネロペはお礼が言いたかった。


「それで、朝早く侯爵邸まで来て何を言い出すのかと思ったら、今日、パーティー?」

「そうなのよペネロペ、お父様が出世して我が家は陞爵して侯爵位を頂くことになったから、そのことを今日のパーティーで発表することになっているのよ」


 ペネロペの母は危機迫る様子で、テーブルの上に積み上げた箱を開けながら言い出した。

「家族は全員参加は必須、貴女のお姉様たちだってパーティーには参加するのだから、ペネロペも早く準備して頂戴!」


「な・・な・・パーティーに参加するならするで、なんで当日に言われなきゃならないの?」


「だって貴女、卒業のための試験やら論文作成やらが終わっていないって言うじゃない、気を散らした所為で卒業出来ないなんてことになったらどうするの!」


「じゃ・・じゃあ!怪我を理由で欠席で!」

「そんなことできる訳ないでしょ!お父様が!侯爵位に陞爵なのよ!」


 母は興奮で顔を真っ赤にしている。確かに爵位というものは滅多に上がることはない、百年経っても爵位はそのままな状態が当たり前なのだ。母が興奮する理由はペネロペにもよくわかる。


「ペネロペ・・大変言い辛いことではあるのだが・・」


 興奮して箱を開けまくる母親の隣で、至って落ち着いた様子で佇んでいるずんぐりむっくり体型のペネロペの父が、もっさりとした口髭の下の口を何度もぱくぱく開け閉めした末に、苦々しげに言い出した。


「今日のパーティーでは我が家の陞爵の発表もされるのだが、ペネロペとマルティネス卿の婚約の発表も行うことになる」

「はあ?」


「宰相閣下にのせられて、鉱山業界に大鉈を奮ってしまったのが間違いだったのだ。我が家も宰相閣下の家も恨みつらみが物凄いことになっている為、二つの家は揃って家格が上がることになる。そうしてペネロペについてだが、肩に傷が残るのは自分の所為だと言い出して、マルティネス卿がペネロペと結婚をすると言い出した」

「はあああ?」


 ペネロペの脳みそは宇宙まで飛んでいったが、即座に頭の中に戻って来た。


「私、傷が理由で結婚するなどと言われたことはありません」

「そうか」

「実は、冗談みたいな賭け事が原因で、冗談みたいに始まった婚約関係なんです。それも期限はきっかり一年」

「そうか」


「宰相補佐様が碌でもない奴だと証明出来れば、私は金貨を百枚貰った上で、結婚相手も紹介して貰う約束でいたんです」

「そうか・・」


 途中から箱を開けるのをやめた母が恐ろしい形相でペネロペの方を振り返ったけれど、父は悩ましげな表情を浮かべながら胸の前で腕を組む。


「どういった理由で婚約の話が進んでいったかどうかはこの際、置いておくとして、公の場で婚約を発表をするのは国王も認めた決定事項なのだよ」

「国王も認めた決定事項ですか?」


 ペネロペは、ラミレス王の為に結構頑張っていると自分でも思っている。ロザリア姫の窮状に気が付いたペネロペはすぐさま悪い奴らを排除したし、国の為に文書の偽造にも手を出した。


 そのおかげもあって、スムーズにムサ・イル派からフィリカ派への宗旨替えも出来るはずなのに、何故、今ここに来て嫌がらせじみたことを行うのだろうか?


「お前の安全を第一に考えてのことだと言うのだが」


 サラマンカ出身の大魔法使いキリアンのアキレス腱の水分を吸い取ってカピカピにして、血管内に無数の血の塊を作って飛ばしたペネロペは、大魔法使いから物凄い恨みを買っている。安全を第一に考えたら、氷の英雄とも呼ばれるアンドレスの近くが安全地帯なのは間違いない。


 これからエルとグロリアが恋を育んでいくというターンがやって来たのに、自分の身の安全のために二人の邪魔はしたくない。だからこそ、アンドレスに守ってもらう一択になるのは仕方がないのだけれども・・


「お父様、お母様、私、もう結婚はできないと思うんですのよ」


 何しろ、水分補給のために唇は奪われるし、ほぼ裸見たいな状態で傷の処置は受けるし、何も無かったと断言出来るけれど、幾晩も共にした(同じ部屋に居た)仲なのだ。王国内で宰相補佐以外で結婚相手を見つけるということは絶望的だと言えるだろう。


「宰相補佐様と婚約発表をしたとしても、しなかったとしても、結果は同じですわ。私は賭け事に勝利をした上で、金貨百枚を持って一人で帝国に逃亡します」


「大魔法使いが追いかけてくるかもしれないではないか?」

「それなのです、エルが退治してくれたら良いのですけど」


 問題は大魔法使いキリアンだった、キリアン以外だったら何とかなるとペネロペは安易に考えているのだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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