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第二十八話  出世をしたいと思ったのに

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「ねえ!助けて!ジョゼップ!助けてったら!」

「なんだよ、お前のことなんか知らないって」

「嘘でしょう!知らないなんて言わないでよ!」


 体に合わないブカブカの派手なワンピースを着た幼馴染のマリアは、下町でジョゼップを見つけるなり縋り付くようにして泣き出したのだった。


「こんなの嘘でしょう!嘘よ!嘘よ!何で私がこんな目に遭わなくてはいけないのよ!」

 ジョゼップの足にしがみつくようにしてマリアが泣くと、

「見つけたぞ!」

 人相の悪い男たちが四人、マリアの両腕を掴み上げるようにして引き上げる。


「お嬢ちゃん、まだ金の返済が終わっていないと言うのに、逃げ出されたら堪ったもんじゃあないんだよ」

「お嬢ちゃんが出られるのは、年季が明けるか、誰かがお嬢ちゃんの借金を払って身請けするかのどちらかなんだからよ」


 一番背が高い男が、荷物を担ぐようにしてマリアの体を抱え上げると、一際目付きの悪い男がジョゼップを一瞥するようにして、

「おや旦那、マリアとは知り合いか何かかい?」

 と、尋ねてきたのだった。


「ジョゼップ!お金よ!お金を払って私を身請けして!お願い!もう耐えられないの!」

「うるせえなあぁ!その女の口に何でもいいから詰め込んでおけ!」


 怒鳴り声を上げた男は、ニヤニヤ顔でジョゼップを見ると、

「あの女と遊びたいと思ったらうちの娼館に遊びに来な。サービスするように言っておいてやるからな」

 そう言って笑うと、男たちはマリアを担いだまま娼館が軒を連ねる裏道の方へと姿を消す。


「本当に、うんざりだ」

 ジョゼップは唾を吐き捨てながらそう言うと、くるりと踵を返して歩き出す。


 男爵家の三男だったジョゼップ・マルケスは王立学園の騎士科に通い、剣術大会でも良い成績を残せたことから、将来を嘱望された騎士見習いだった。


 将来は騎士になろうと考える貴族の次男三男は、王立学園の騎士科で騎士見習いとして多くを学び、王家に雇用される形となっても最低二年間は見習いとして働くことになる。


 教師からの評判も良く周りからの信頼も厚いジョゼップは、確かに学生の間に悪い遊びというものをしていただろう。かといって、先輩たちだって同じようなことをやっているし、相手は平民身分の女子生徒たちである。彼女たちは大概、泣き寝入りをするし、親や教師に告げ口をするようなこともないため、楽しい刺激を与えてくれるおもちゃ程度に考えていたのだった。


 ジョゼップの家は商売で成功して爵位を買ったような家だったけれど、その商売で失敗をして家が傾き始めてしまったのだ。ジョゼップの学費も馬鹿にならないため、次の試験で優秀な成績を収めて特待生となって学費を無料とするか、学園を退学するか、どちらにするかを親から選ぶように言われることになったのだ。


「ジョゼップの家はお金が無くて困っているんだよね?」

 実家の窮状を聞きつけたらしい幼馴染のマリアが、ジョゼップとベッドを共にする中ではしゃいだように言い出した。

「うちのお嬢様、最近婚約を解消されて落ち込みまくっているんだけど、ジョゼップが声をかけたらコロッと転がると思うんだよね?」


 マリアが奉公している子爵家は商売で成功しており、そんじょそこらの伯爵位を持つ貴族などよりも金があることで有名だった。その子爵家の娘のカミラがとにかく自分に自信がない。この令嬢とジョゼップが結婚をしたら、子爵家から大きな金額を引っ張れるだろうし、ジョゼップの実家の商売についても助けてくれるだろう。


「お嬢様は夢見るお姫様みたいなところがあるから、暴漢に襲われそうになったところを助けてあげたらイチコロだと思うのよ」


 暴漢役はジョゼップの悪友に頼むことにして、マリアはお嬢様の護衛に賄賂を渡して、ジョゼップがお嬢様を助けるまで手出しはしないように手配する。


 そうして暴漢から救われたカミラお嬢様はジョゼップに夢中となり、

「お嬢様が正妻、私は愛人でお金に一切困らずに、左団扇でウハウハ生活を送れるようにしてくれないと、私の方から旦那様に密告することにするからね?」

 と、マリアがにたりと笑いながら言い出した。


 マリアは男爵家の娘で、金持ちの子爵家の家へ侍女として働きに出ているのだが、世話をするカミラお嬢様に激しい嫉妬心を抱いていた。カミラが婚約者と別れるように仕向けたのもマリアだし、婚約解消後は、カミラの自尊心を粉々に打ち砕くように仕向けたのもマリアなのだ。


 何処までも自分の下にカミラを置きたいマリアは、自分はジョゼップの愛人となって、自分の方が愛されていると主張し、何処までもお嬢様を見下してやろうと考えている。


 マリアを愛人とするのなら、ジョゼップにはマリア以外にも多くの愛人候補が存在する。金持ち娘のカミラは正妻としてキープして、多くの愛人を抱えて過ごす。実家の商売もうまくいって、結婚を焦っているカミラも結婚出来てハッピー。


「俺の人生、薔薇色じゃねえかよ!」

 ジョゼップが心から喜んでいたそんな時に、ジョゼップの目の前に現れたのが、カールした亜麻色の髪に新緑の瞳を持つ令嬢で、

「はい、嘘です」

 令嬢のその一言から、ジョゼップは真っ逆さまに転落していくことになったのだ。


 悪臭漂う下町の路地を進んで小さな飲み屋の軒下を潜ると、

「おう!ジョゼップ!こっち!こっち!」

 平民のような格好をした貴族や元貴族の男たちが、エールを片手にこちらの方に向かって手を振っている。


 寂れた飲み屋の古びたテーブルに集まったのは八人の男で、男たちの共通点と言えば、一年以内に婚約破棄または解消をしているということ。


「俺が一番最後か、待たせたな」

 ジョゼップがどかりと座ると、一番年嵩の男が口火を切るようにして言い出した。

「やっぱりお前の言うとおり、近々、北方二十カ国の使節団を招いた歓迎の宴を、花の離宮で行うことになるらしい」


「何でもその歓迎の宴の場で、バルデム伯爵の陞爵を発表するらしい」


「親が憎ければ娘も憎いとして、われらに賛同する人間は十五人ほどとなる。当日は三十人近くが集まることになるが」

「三十人の男に陵辱されれば、さすがにあの娘も壊れるだろうな」


 くつくつと笑い合う男たちは、皆、ペネロペ・バルデムの所為で、婚約者を失っているのだ。


「当日は警備に加わる人間に、令嬢を部屋まで案内するように手配している。令嬢は男たちに陵辱されることになるが、その手配は、案内した男が全てやったのだという風に喧伝する。そうして、壊れた令嬢を元婚約者が引き取ることで美談とする」


 ジョゼップは昔から、同期のカルレス・オルモが大嫌いだった。


 ジョゼップは出世をしようと思っていたのに、変な女に邪魔をされて、下町で燻り続けることになったのだ。だというのに、あいつは将来、騎士となることを約束されている。そんなこと、到底、納得が出来るわけがない。


「男たちに陵辱された後の状態で令嬢が発見される。そして、令嬢を連れて来るように手引きをした男は即座に捕まるように手配をしている」


 ペネロペ嬢が辱めを受ける部屋はマカレナ・ペドロウサが用意する。これから楽しいお遊びの始まり、始まりということになるわけだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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[一言] みんなまとめて地獄に落としてやってくださいまし
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