第二十二話 恨まれているのだから仕方ない
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アルボラン伯爵は、バルデム伯爵が鉱山大臣の職に就くという話を聞いた時に、遂に自分に運がまわって来たものと考えた。
各自に任されていた鉱山経営を国の主導の元で発展させることになる。鉱山事業を牛耳って来たシドニア公が処刑され、公爵家は爵位を剥奪。これを機に公爵が勝手気ままにやってきた鉱山の事業を正しいものに変えるため、王家が主導する形で乗り出したということになる。
「フェレ、フェレ、帰ってきたのか?」
「ああ、父上か」
王宮から帰って来た息子の部屋を訪れた父は、険しい表情を浮かべる息子の様子がいつもと違うことに気が付いた。
「フェレ、何かあったのか?」
父の問いかけに、フェレは難しい顔をしながら振り返る。
「父上、もしもペネロペがアルボラン伯爵家に嫁ぐことになったらどうする?」
それはフェレが口癖のように言っている世迷いごとだった。
「ペネロペ嬢は宰相補佐であるマルティネス卿と婚約をしたというじゃないか?」
「だけど、ペネロペが傷物となったら」
「傷って、離宮に侵入した襲撃者に大怪我をさせられたというものだろう?マルティネス卿は甲斐甲斐しく面倒をみていらっしゃって、怪我が理由でペネロペと縁を切るようには到底思えないということじゃないか」
「そうじゃないんだ・・」
フェレは自分の唇を何度も舐めながら言い出した。
「鉱山大臣となったバルデム伯爵は多くの恨みを買っている。大臣職に就いた伯爵の追求を受けて領地を去ることになった貴族も多く、身分を剥奪されることになった貴族も多い。王国の膿が出されて、ムサ・イル派の指導のもと、全てが正しき道に戻るだろうと言われているけれど、実際に鉱山関係で大鉈を振るっているのはバルデム伯爵ではないですか?」
「ああ・・まあ・・そういうことになるかもしれないが・・」
バルデム伯爵が鉱山大臣になると聞いて、仲が良かったアルボラン伯爵は自分が所有する鉱山へ融通を利かせてもらおうと考えた。
だがしかし、王国には確かな埋蔵量があるというのに、資金不足が理由で採掘がなかなか進んでいなかった鉱山も多く、そちらの方から採掘を進めていくという方針が決定されているため、アルボラン伯爵は話すら聞いて貰えないような状態だったのだ。
「バルデム伯爵に対して恨みに思っている貴族は山のように居るし、親が憎ければ娘まで憎いという一派もそれなりに居て、その恨み辛みを抱えた一派が、今度、ペネロペを慰み者にしようと企んでいるというんだ」
「なっ!」
伯爵は愕然としたまま動きを止めたが、フェレは暗い瞳となって窓の外を睨みつけるようにして見つめる。
「そもそも、ペネロペは多くの婚約中のカップルを破局に導いた悪女だし、ペネロペの所為で婚約者と泣く泣く別れることになった人間も山のように居る」
確かに、ペネロペが多くの婚約を解消や破棄に導いた悪女であるという噂が王宮内に広がり出していることをアルボラン伯爵も知っている。
「多くの人間がバルデム伯爵家に対して恨みを持っている、その恨みをペネロペにぶつけようとしているんだよ。それに、彼女自身も恨まれているのだから仕方がないだろう?」
「そ・・それは・・」
貴族の令嬢にとって純潔は命と同じ。確かに最近では性に奔放な令嬢たちが多いが、彼女たちは大概、身分が自分よりも低い者を婚約者としてキープした上で遊んでいるのだ。
政略結婚をして、その家の子供を産むのが嫁として輿入れした女たちの役割であり、子供の正当性を明らかとするためにも純潔が重視されることになる。
「そもそも、王宮で療養している間、ペネロペはマルティネス卿と夜も一緒に過ごすことが多かったというんだ。だとしたら、すでに侯爵閣下に女性としての花を散らされた後ということになるでしょう」
フェレはこれでも、ペネロペのことを愛していたのだ。自分の伴侶となるために、陰で努力をしていたことも知っているし、彼女の恥ずかしげに笑いながら愛を訴える姿を愛しく感じていた。彼女の初めては自分のものであると考えていたのに、何夜にも渡って、ペネロペは他の男と共に過ごしたのだ。
「多くの男に穢されたとあれば、さすがの侯爵閣下もペネロペを娶ろうとは考えないでしょう?」
フェレは暗く濁った瞳になりながら言い出した。
「誰もが穢されたペネロペに蔑むような視線を送るでしょう、社交界にはもう二度と復帰することは出来ないでしょう。そんな女を僕が娶ったとしたら、きっとバルデム伯爵も感謝するのではないでしょうか?」
「お・・お前は・・それでも構わないのか?」
「ええ、問題ありません」
「親族は、お前とペネロペ嬢の間に生まれた子供を後継として認めないかもしれないが」
「そうしたら、他の女に僕の子供を産ませますよ」
鉱山大臣の職に就くバルデム伯爵に恩を売った上で結婚をすれば、鉱山開発に光が見えてくることになるだろう。家業が上手く行きさえすれば、フェレも金が自由に使える。金が自由に使えるようになれば、ペネロペをきっちりと囲い込んだ状態で、新しい花を楽しむことも出来るのだ。
「ペネロペ嬢が他の男に蹂躙されても、お前はそれで良いのか?私だったら到底食指が動かぬし、側に置くのも嫌になると思うのだが」
潔癖症の父としては、多くの男の手垢で汚れた女を伴侶として迎えることに抵抗を感じるかもしれないが、
「ペネロペは一度、僕を捨てているのです。それなりの天罰がくだらなければおかしいでしょう?」
フェレはにこりと笑って父を見た。
「これで鉱山の方も一息つけると思うのですが?」
「そうだな・・そういうことになるんだものな」
納得したように父と息子は頷きあうと、何とも言えない笑みを互いに浮かべたのだった。
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