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第二十一話  ひっくり返す

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 アストゥリアス王国の北方には、小国がひしめき合うようにして存在している。これを北方二十カ国と呼んで、彼らは同盟を組むことで大国との折衝に当たりながら生き残って来たという歴史が存在する。


 この地域もまたルス教が信奉されているのだが、このルス教の中にも複数の派閥、複数の宗派が存在することになる。光の神は、ルカ、ムサ、イルの三人の預言者に予言を与えた。これを預言者たちは福音書として後世に残したのだが、他宗教をも受け入れる懐の深さを示すルカの福音書を教義とするフィリカ派と、神には絶対に服従、異なる存在を否定し、法律と見做される領域にまで教義を定義するムサ・イル派に大きく分かれる事になる。


 その後、為政者たちに非常に都合が良いということでムサ・イル派を主派として取り込まれることになったのだが、今、ここで、大きな歪みが生じて来ているのだった。


「司教たちが計画している『聖騎士団』の結成には、多くの国々が兵を供出することになり、多額の寄付をすることになる。しかも奴らが望むのは異民族の排除だけに留まらず、南大陸へのルス教の布教だというぞ?」


 アストゥリアス王国の国王ラミレスは、至急、訪問をしたいという北方二十カ国の代表団から送られてきた親書をまとめながら言い出した。


「南大陸に布教をしたいというのなら、自分たちで勝手に宣教師でも送って布教すれば良いものを、奴らは武力で平定した後に、信奉する神々を強制的に変えろと命じたいわけだ。あいつらの思い上がりたるや天井知らずといったところか」


「さようですね、まあ、それほどまでに調子に乗っているからこそ、我らの付け入る隙もあるということでしょう」


 そう答えて神経質そうに自分の眼鏡を押し上げる宰相ガスパールを見上げながら、ラミレスは小さくため息を吐き出した。


 そもそものことの発端は、伯爵令嬢であるペネロペ・バルデムにある。嘘ばかりつくロザリアの教育係兼専属侍女として離宮に出仕をしたペネロペは、ロザリアの周囲を固める大人たちの嘘を見破った。ロザリアの虚言癖を利用して宝飾品を盗んでいた侍女や近衛兵は捕えることとしたのだが、これらは全て、盗みに使った利き手を切断して、鉱山送りとしている。


 主犯格の2名に至っては、ムサ・イルの戒律に従って両手を切断ということになるところだったのだが、二人は毒杯を賜ることを選んだようだった。


 正妃であったイスベルは、奥宮や離宮の人事を好きなように動かしていた。結果、ロザリアの専属侍女による盗みが明らかとなり、宰相ガスパールが離宮の人事にメスを入れることになったのだ。その為、自分の領域に手を出されたと妃は激怒し、ガスパールを呼び出した末に扇で彼の顔を殴打したのだった。


 そこからは怒涛の展開だったと言えるだろう。

 なにしろ、ガスパールは元々軍人で、敵と認めた人間には苛烈な方法で報復に出るのは有名な話でもあったのだ。


 シドニア公と隣国ボルゴーニャ、ムサ・イル派の司教たちの陰謀までもが明らかとなり、危うく暗殺されかかったラミレスは、巨悪を断ち切ることを決意した。

 ラミレスにとっての巨悪とは、イスベル妃を含むシドニア公爵の一族であり、隣国ボルゴーニャであり、ムサ・イル派の司教たちである。


 今現在、ラミレスはムサ・イル派の戒律に従って、厳し過ぎるほどの罰を貴族たちに下している。


 鉱山の採掘事業については国で一番、他に右に出る者はいないとまで言われるセブリアン・バルデム伯爵を新しく設けた鉱山大臣の職に就けたのだが、彼が就任すると同時に、ムサ・イル派のシンパと呼ばれる貴族たちが、他国に安く鉱石を流していることが明るみとなったのだ。


 鉱石が採掘できない国々の貴族に対して、司教たちはアストゥリアスの鉱石を安い値段で融通していたわけだ。ムサ・イル派の司教たちが望むのは宗教による大陸統一であり、そうするためには国の中枢の奥深くにまで食い込まなければならない。


 無理な採掘を強要されたシンパたちは、鉱山労働者を奴隷のように扱い続け、王国の財産をムサ・イルのために他国へ横流しし続けていたわけだ。


「シドニア公が所有する領地には多くの鉱山があった訳ですが、常々、その採掘量と採掘方法については疑問を持っていたのです」


 鉱山経営に悩む貴族たちの相談に乗ることが多かったバルデム伯爵は、下っ端の貴族たちから相談を受けていたのだ。自分たちの採掘した鉱石が、無料みたいな値段で他国へ運ばれる。それを指揮しているのが司教たちだということは、有名な話でもあったらしい。


「無計画な採掘は事故を引き起こし、多くの人間が亡くなることにもなり、採掘の中断にも繋がる。そうして採掘が中断すれば、鉱石を賄賂として利用することが出来なくなった司教たちは慌てることになる。とりわけ、ムサ・イル派の司教たちが我が国を狙うのは、鉱山欲しさゆえのことなのは間違いない事実ですね」


 シドニア公爵というトップが居なくなり、その代わりに鉱山大臣としてバルデム伯爵が現れた。宰相ガスパールは伯爵と手を組んで、今まで国の資産を他国へ勝手に横流ししていた貴族たちを一斉に摘発することにしたわけだ。


 搾取されるだけされていた人には保証を、搾取する側にまわっていた人にはムサ・イル派の戒律に従った罰を与える。このムサ・イル派の戒律が厳しすぎるが為に、多くの貴族が文句を言ったが、

「司教たちが戒律を重んじるのだから仕方がないことなのだ」

 の一言で刑を執行していったわけだ。


 自分たちは神のために他国へ横流しを行っていたはずなのに、その神が与えたとされる戒律に従って刑罰が下される。もちろん、戒律に従ってのことなので司教たちは異を唱えることなど出来やしない。


 ラミレス王は戒律に従って、自分の妃を厳し過ぎるほどの方法で処刑しているのだ。戒律が厳しすぎるから何とかして下さいと言って、何かが変わるわけがない。


 そんな中で、隣国クレルモンでは、ムサ・イルの戒律が原因で国王の姪が自死を選ぶという事件が起こった。浮気三昧の小公子との結婚を強要されることになった国王の姪の死は、国を大きく動かした。


 貴族や民衆が汚職や賄賂が蔓延るムサ・イル派の現状を訴え、結婚を変更する自由すら与えないムサ・イルとは決別をして、フィリカに帰依しようという運動が巻き起こったのだ。


 そうしてクレルモン王国はフィリカ派に宗旨替えを行った。もちろん、アストゥリアス王国も早晩、北方二十カ国と共に宗旨替えを宣言するつもりである。


「陛下、使徒ルーサー様がいらっしゃいました」

「そうか、では応接室の方へ移動しよう」


 ムサ・イル派では神の教えを説く人のことを司教と呼ぶが、フィリカ派では使徒と呼ぶ。使徒ルーサーはフィリカ派の実質トップの人間であり、ムサ・イル派の目を掻い潜ってアストゥリアスまでやって来てくれたのだ。


「陛下、アラゴン西方を一斉に塗り替えていきましょう」

「うむ、そうだな」


 ムサ・イル派も我が国の中枢まで狙うことがなければ、これ程までの手に出るつもりはなかったのだ。国王はアドルフォ王子に次の王位を任せようと考えていたのだ、その王子を排除したのは、ムサ・イル派の司教たちなのだから、恨みつらみが物凄いことになっているのだ。


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