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第十九話  自信を持ったらいかが?

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 アストゥリアス王国や周辺諸国では、一年の最終月となる十二月に卒業式が行われるし、新年一月の中頃から新しい学期が始まることになる。


 最終学年であるペネロペは、一ヶ月後に迫る卒業パーティーの為にドレスを用意するのに大忙しとなる時期を迎えているはずなのだが、

「ペネロペのドレスはマルティネス卿が用意すると言っているから、ペネロペは何も気にせずに自分の仕事を頑張りなさい」

 と、父から言われることになったのだ。


 グロリアの研究室に居ることが多いエルはサラマンカからの留学生で、

「グロリア様に認めて頂ければ嬉しいです!用意したお茶菓子はカルミラ王国では良く食べる焼き菓子なのですが、ペネロペ嬢も良かったら食べてくださいね」

 などと言って、笑顔でお茶やらお菓子やらを用意してくれるワンコ属性のもしゃもしゃ(髪の男)だったはずなのに、

「もう〜、福音書一冊復元するだけで、どれだけ時間が掛かっているわけ〜?僕を護衛にするだなんて相当なことなんだからね?タイムイズマネー、早く全てを終わらせちゃってくれよ〜」

 と言って、自分用に用意したソファにゴロリと寝転がった。


 古書の山で囲まれた自分の作業机に戻ろうとしたペネロペは、一瞬足を止めると、寝転がるエルを見下ろしながら言い出した。


「貴方、今までと態度が違い過ぎません?」

 尻尾ふりふり、礼儀正しいワンコ属性の留学生だったはずなのに、今、目の前にいる男は、偉そうだし不遜だし、やる気はないし怠惰だし、

「いや、ほんと、何で僕がアンドレスの婚約者の護衛なんかしなくちゃならないんだよ!」

 不機嫌さ丸出しとなっている。


 そりゃ、やる気がないのは良くわかる。

「すみませんねぇ、私がグロリア先輩だったら護衛任務もウキウキ気分で出来たのでしょうが、相手が私ではテンションだだ下がりになるのも良く分かりますし」


 何しろ留学生エルは高嶺の花であるグロリアが好きらしいのだ。ラブだラブ、やっぱり王子に婚約破棄を突きつけられた令嬢は、他国に移動して溺愛生活を送ることになるのだろう。


「卒業と同時に求婚ですか?そうすると後二年後?それじゃあ先輩を待たせてしまうことになるから、飛び級で卒業とか?そもそも貴方、大魔法使いの称号持ちなんですよね?大魔法使いなのに学校に通う意味ってあるんですか?やっぱりグロリア先輩目当てで学校に通っているだけってことですか?」


「な・・な・・な・・な・・」


 もじゃもじゃ髪のエルは顔が半分近く隠れているし、認識阻害魔法を自分にかけているので、彼を見下ろしているペネロペには彼の顔を詳細に判断することが出来ない。


 サラマンカは周辺諸国がムサ・イルを主派とする中で、唯一、フィリカ派に帰依している。熱心な信者から付け狙われることも多いため、自国の外に出る人間には、安全対策のために認識阻害魔法を推奨しているのだった。


 そのぼんやりとしか認識できないエルの顔がみるみる真っ赤になっていく。

「僕と・・リアちゃんは・・そんな・・結婚とか」

 吃るあたりで好意がモロバレ状態となっているというのに、

「迷惑!迷惑!そんな話をされるの本当に迷惑!それ以上、何か言ったらアンドレスに言って護衛から降りることにするからやめた方が良いと思うよ?」

 と、言いながらソファからずり落ちた。


「へー!今のは嘘じゃないですね!これ以上言ったら、死んでも護衛を辞めてやるって思っていますよね?」


 グロリアへの好意を指摘されて、好きじゃないと嘘をつく訳ではなくて、そんな話をされるのは迷惑だと主張したわけだ。面白い!と、ペネロペはもじゃもじゃを見下ろしながら言い出した。


「アドルフォ王子から婚約破棄を宣言されたグロリア様は、自分はもう結婚出来ないと諦めているし、弟を手伝って領地経営をしながら余生を過ごせば良いなどと枯れたことを今から考えているような方なんですよ」


「知っているって」

 這いつくばるように起き上がり、ソファに座り直しながら項垂れるようにしてエルは言い出した。


「僕はね、彼女が領地に引っ込むというのなら、領地で素敵な人と結婚すれば良し、素敵な人が見つかるように応援したいと思っているもの」

「はい、嘘です」


 ペネロペは呆れた様子で言い出した。


「嘘、嘘、あからさまに分かりやすい嘘。声は低くなるし、私を見つめる視線は固定されているし、瞳孔が大きくなっていますよ。私にそういうことなんだと強く言い聞かせながら、自分自身にもそう思い込ませようとしている努力が丸分かりで・・マジでラブ、ラブの極みが見えて気分が悪いです」


「なっ・・」


「人生って一度きりなんですよね。家とか、親とか、親族とか、そんなことを言い出す人が山のように居るんですけど、誰の人生なんだって言いたいんですよ。家にも自分にもウィンウィンであれば、意外に文句ってあんまり出なかったりするので、多少自分が苦労したとしても、より良い形に持っていくべきじゃありませんか?」


「はあ?」


「皆んな、家とか一族とか、爵位とか資産とか、色々なものを抱えて生きているわけですけど、自分が勝手に作り出した壁を取っ払えば、案外簡単に自分に最良な道というものが見えてきたりするんですよ。私は今まで数多くの婚約破棄、解消劇を見てきましたけど、結局、仕方ない、どうしようもない、だから我慢するしかないという思考は、一番安易な逃げ道だったりするんです。やっぱり納得出来ない、許せない、我慢出来ないという思いから、自分が何を一番望んでいるかを確かめて、周囲の全てを敵に回してでも勝ち取る努力をした後の人って、大概がすっきりした顔をしているんですよ」


「ぐうっ・・」


「やってやらない後悔より、やった上での後悔の方が、今の貴方には絶対に必要だと思うんですよね?何を我慢する必要があるんですか?グロリア様は手を伸ばそうと思えば届くところに所に居るっていうのに」


「僕のことを何も知らずに勝手なことを言いやがって」

 エルは怒りで顔を真っ赤にしながら小刻みに震え出したけれど、ペネロペは一切構わずに続けた。3歳の年齢差はあるものの、グロリアとエルはお似合いのカップルのように見えたからだ。


「魔法王国サラマンカの子爵家の出身だから身分違いを気にしているんですか?それとも、他国からの留学生だから遠慮しているんですか?私から見ると、瑣末なことを悩んでいるようにしか見えません。だって、今のグロリア様には婚約者が居ないのですし、あの方が婚約を破棄後、一番身近に置いていたのが、遠い親族である貴方じゃないですか?」


「ぼ・・僕は・・護衛の意味もあって近くに居ただけで・・」

「カサス家って武の家なので護衛が必要なら、山ほど候補となる人間が居るわけですよ。その中から選ばずに身近に置いたのが貴方なのですから、もっと自信を持ってくださいませ!」


 ペネロペは大きなため息を吐き出しながら言い出した。

「先輩は、気に入らない人間は半径一メートル以内に置かない主義なんです。それも異性となれば、かなりの距離を取るタイプの人間なのです。そんな先輩が、紅茶の淹れ方から指導した方はワンコ属性の貴方だけ。もうちょっとご自分に自信を持ったらいかが?」


 どうやらエルの怒りはおさまったようだけれど、顔が羞恥で燃えるように赤くなっている。



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