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第十五話  カルネッタの後悔

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「ロザリア姫はもう帰ってしまわれたのですか?」


 バシュタール公爵家の娘であるカルネッタは、

「アストゥリアス王家の秘めたる姫君とせっかくお会い出来るチャンスでしたのに、本当に残念ですわ!」

 そう言って大きなため息を吐き出した。13歳のカルネッタとしては10歳のロザリア姫は年も近いということもあって、まだ見ぬ姫君に親近感のようなものを持っているのだった。


 アストゥリアスの王宮には、グロリアの家が使用を許された居室もある。高位身分の貴族達は王宮に宿泊出来るように、一つや二つは宿泊するための部屋を右翼棟に確保しているのだった。


 部屋に設らえた家具などは侯爵家が用意したものであるし、カーテンや絨毯などもグロリアの趣味で揃えられていた。右翼棟の部屋を活かすために、賃貸料を王家に支払えば借りることが出来るようにもなっている。もちろん身分が確かな者しか借りることが出来ないため、高位貴族の特権のようなところがあるのだ。


「あなたに声をかけようと思ったのだけれど、居ないようだったから」

「ミシェル様のところへ行っていたのですよ」


 紅茶を飲んでいたカルネッタは優雅にカップを戻すと、うんざりした様子で言い出した。


「私もグロリア様も、婚約者には恵まれず、彼らに踏み躙られてきた日々は忘れられないものだったと思うのです。クレルモン王国で出会ったミシェル様の境遇が境遇でしたので、私、変に同情してしまったの」


「カルネッタ、あなたは何も悪くないわ。あなたの授けた策を利用したのはクレルモンの王家に他ならないのですから、あなたが全てを背負う必要はないのですよ」


 グロリアもカルネッタも、ほぼ同じ時期に婚約者から婚約破棄を突きつけられている。しかも冤罪をかけられるような状態であり、二人とも卒なく反撃出来たから良いものの、一般的な令嬢であれば泣き寝入りをして社交界から追放されていたことだろう。


「ミシェル様はリオンヌ公爵家の嫡男と政略結婚をされたのですが、あちらは平民の恋人を学生時代から囲い続け、結婚後は愛人として別宅に招き入れ、ミシェル様は本宅で放置状態だったと言うのです」


「本当にクソね、滅びればいいわ!」

 グロリアが隣国の公爵家の嫡男に向かって悪態をついていると、

「私も、そう思ってしまったのです」

 と、カルネッタは項垂れながら言い出した。


「ペネロペ様はイケメンに碌な奴はいないと常々豪語されていましたけど、リオンヌ公爵家のご嫡男も顔だけはとても美しい方だったのです。新婚だと言うのに、夜会に愛人をエスコートして現れたのを見た時には、やっぱりイケメンに碌な奴はいない。滅ぶべしと思ってしまったのがまずかったのですわ」


 ちなみに、カルネッタが仲良くしている隣国の王弟パトリスは、先王によく似た男らしい顔立ちをしている。顎のエラが少し張っているので、中性的な美しさとは程遠い顔をしていると言えるだろう。


「ムサ・イル派の司教達が反対さえしなければ相手の有責で婚約を破棄できたものの、国王の権威を使ってもなお、ミシェル様の結婚は阻止出来ませんでした。そんな状態での結婚だというのに、相手の方はミシェル様への不満を隠そうともしませんし、その方のご両親も、その態度を見なかったことにされているのです。息子もクソなら親もクソだと思いまして・・」


 グロリアのサロンに出入りしている令嬢達は、誰の影響かはよく分からないが言葉遣いが非常に悪くなるし、十三歳のカルネッタでさえ平気でクソと言っている。公では『クソ』とか『死ね』とか言い出さない分別は持っているのだけれど、仲間同士の間では無礼講が許されると思っているらしい。


「ムサ・イル派の行き過ぎた行動が目立っていたのは間違いない事実であるし、隣国ではリオンヌ公爵家がムサ・イルの後ろ盾のような役割を果たしていたのもまた事実よ。クレルモンの王は自分の姪を公爵家に嫁がせることで、ムサ・イル派の動きを抑止しようと考えたのでしょうけれど、結果的には、ムサ・イル派を捨ててフィリカ派への帰依を成功させたのですもの。ミシェル様の自殺騒ぎは必要なことだったのよ」


 リオンヌ公爵家に嫁いだミシェルは、自分の境遇を悲嘆して自殺をしたということになっている。ムサ・イル派が婚約破棄を許さなかったが為に、王太后や国王陛下が愛する姪が自死を選ぶことになったのだと大いに嘆く騒ぎとなったのだ。


「学院でミシェル様から相談を受けた時に、まさか、あのような方だとは思いもしなくって」


 嫁ぎ先である公爵家やムサ・イル派への復讐のために動いたミシェルのことを悲劇のヒロインのようにカルネッタは考えていたのだが、悲劇のヒロインとするにはミシェル嬢の頭の中身が軽過ぎた。


「死んだことになっていると言うのに、クレルモンの王宮でも我儘放題。その我儘を王太后様もお許しになっているようなところがあったために、やりたい放題。ムサ・イル派を陥れるために利用されたミシェル様の存在は絶対に隠さなければならない状態だと言うのに、ミシェル様にはそれがお分かりになっていないのです」


「それで?バシュタールの公爵領に移動するという話は進められたの?」


 カルネッタは細い肩を小さくすくめて、首を横に振りながら答えた。


「自分はマルティネス卿と結婚するのだから、王都からは移動しない。ムサ・イル派に見つかっては困るのだから王宮からは出たくないの一点張りとなっていて」

「頭が悪いにも程があるわね」


 国王の姪として溺愛されていたミシェルは、色々と勘違いしたままで居るのだろう。隣国の王の権威を使って、アストゥリアスの王宮でも自分の好き勝手に出来ると考えているし、高貴なる身分の自分には、氷の英雄とも言われるアンドレス・マルティネスこそ相応しいと考える。


「パトリス様からは、今、クレルモンでミシェル嬢に騒ぎを起こされたら、せっかくスムーズに宗旨替えが出来たというのに要らぬ騒ぎを引き起こすことになるので、一旦、アストゥリアスで預かって欲しいと言われていますの。死んだことになっているのですから、扱いは平民以下。あまりにこちらでも騒ぐようであれば牢に入れても構わないとも言われているのですが」


「本当に、牢屋にでも入れてしまいたいわね」


 今、アストゥリアス王国内では、水面下でムサ・イル派からフィリカ派への宗旨替えを進めているところであり、隣国で自殺をしたということになっているミシェルの存在は他国から送られてきた大きな爆弾のようなものなのだ。


「宗教は難しいわ」

 そう言って、グロリアは大きなため息を吐き出した。


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