第十四話 ロクデナシとは認めない
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ペネロペの熱が下がり、肩の傷の膿も出なくなって来たというのに、傷の処置を誰にも任せないアンドレスにはこだわりみたいなものがあるのかもしれない。
実際に肩の傷は20針も縫うほどの大きな傷で、斬りつけてきたナイフの汚染によって皮膚の感染が酷く、傷のくっつきが非常に悪い状態だったのだ。それが、氷魔法による冷却により感染状態を抑えたため、膨れ上がるように腫れていた傷口も徐々に赤みを失い、日に何度も替えなくてはいけなかったガーゼの汚染も、日に一度の交換で良くなってはきていたのだ。
「明日には抜糸が出来るかもしれないな」
鼻歌交じりでそう背後から告げられても、胸を隠した状態で、背中や肩を丸出しにしている状態のペネロペの喜びには繋がらない。
「何で私は宰相補佐様に傷の手当てをされなければならないのでしょうか?治癒師に任せるのでは駄目なのですか?」
「王宮に勤める治癒師は男しかいない状況なのだから、毎度、毎度、君の治療を任せるわけにはいかない」
「それじゃあ、侍女の方にお願いしたらどうでしょうかね?」
「これほどの大きな傷を手当てしたことがあるような侍女が王宮に居ると思うのか?」
「むぐぐぐ」
「このような大きな傷口を見せてみろ、即座に失神してしまうかもしれないではないか」
「むぐぐぐぐぐ」
アンドレスはペネロペの腕を持ち上げて、器用な手つきで包帯を巻きながら言い出した。
「私は戦場で何度も負傷兵の面倒を見てきているのだ、君自身、傷の回復速度が早いことには気が付いているのだろう?」
「むぐぐぐぐぐぐぐ」
「傷の処置のプロを自認する私に任せておけば良い」
傷の手当てのプロかもしれないが、とにかく、ペネロペは恥ずかしくて仕方がない。傷が大きすぎるが故に、上半身がほぼ裸の状態で処置を受けなければいけないのだ。胸元は大ぶりのタオルで隠しているものの、とにかく本当に恥ずかしい。
貴族身分でなければ王宮に勤める侍女にはなれない。そして、貴族身分の令嬢にとって、ペネロペの肩の傷というものは正視に耐えないものであるらしい。だから、傷の処置をする時にはアンドレスと二人きりという状態になるのだが、一応、書面上では婚約者同士という間柄となっているため問題にはならないらしい。
「今日はロザリア姫が見舞いに来たと聞いたのだが」
「ええ、そうなのです!姫様がカサスでも健やかにお過ごしのようで安心致しました」
なにしろ人間不信が酷い姫様なので、未だにマリー以外の大人とは打ち解けられていないらしい。グロリアの弟のジョルディがロザリアと年齢が近く仲良く遊んでいるという話を聞いて安心したが、出来ることなら姫が居る場所にペネロペも移動したい。
「姫は君の帝国行きを反対されていたと聞いたが」
「そうなのです、大反対されました。鉱山大臣となった父が一緒に行けないのなら一人で帝国へ行こうと思ったのですけれど、私が行くなら姫様も行くと言い出して・・」
妃と愛人の子供ではないかと囁かれるロザリア姫だが、鼻の形など完全にラミレス王と同じ姫様なのだ。正統なるアストゥリアス王家の血を引く姫を帝国に連れて行ったところで災いの種にしからないのは間違いない。
「帝国行きは兄も母も反対しておりますし、姫様のことを考えると、やっぱり難しいのかなと」
ペネロペは当初、金貨百枚をアンドレスから貰って、ペネロペに相応しい男性をアンドレスから紹介してもらう予定でいたのだが、襲撃者から受けた傷の処置が必要となり、現在、アンドレスに面倒を見てもらっているような状況なのだ。
傷の処置を受けているとはいえ、寝室に二人きりの状態となっているのは間違いなく、二人が深い仲ではないかと勘ぐる輩がほとんどの状態となっている。そんな中でペネロペが自分の結婚相手をアンドレス以外で見つけられる訳もなく、ペネロペの結婚は、ほぼ絶望的と言っても良いような状態なのだ。
であるのなら、心機一転、帝国へ移住をして、アストゥリアスとは何の関係もない人と結婚しようと考えていたというのに、
「ペネロペが帝国に行くなら私も行く!」
と、ロザリア姫が泣きながら言うのだ。
流石にロザリア姫を帝国には連れて行けない、泣いている姫を置いても行けない。それじゃあ、姫が現在匿われているカサス領へと移動出来るかどうかでいえば、色々と迷惑をかけそうなので無理そうだ。
「ペネロペ、私は誠意ある対応を心がける、至って真面目な婚約者だろう?」
傷の処置を終えたアンドレスは必ずこの言葉を言うのだが、
『分かったっていうの!自分は碌でもないわけではないと主張しているんでしょう!誠実な男だと主張したいんでしょう!分かった!分かった!』
と、ペネロペは心の中で返事をしている。
「君の面倒を見るのは私の責任だからな、君は何の心配もしないで良い」
そう言ってポンポンと頭を叩いてペネロペの着るものを整えるために侍女を呼ぶのだが、本当にこの侯爵は、自分がロクデナシであるということを認めたくないらしい。
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