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第十一話  ブランカの決意

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 宝石のような瞳を持っているブランカは、人の心を操作する力を持っている。通常、褐色の瞳の色の下に隠して目立たないようにしているのだが、テーブルの上に金を放り投げながらキリアンは立ち上がる。


「無駄、無駄、無駄だと分かっているのに僕を思い通りにしようとする。ムサ・イル派の強欲さは天井知らずのところがあるよね」


 彼は外套のフードを深く被りながら、

「それでも出来ないものは出来ないんだ。司教にはそう伝えておいて」

 と言って、店から出て行ってしまったのだった。


 アストゥリアス王国には二人の王子がいた。一人は正妃イスベルから生まれたアドルフォ王子であり、もう一人は側妃ジブリールから生まれたハビエル王子。


 ムサ・イル派の熱心な信者であるウガルテ伯爵家は、宗教の力を盾にして先王の時代には王宮に深く食い込んでいたのだが、ラミレス王の時代となってからは遠くに追いやられるようになっていた。


 ラミレス王が重用するのは軍人上がりのガスパール・べドゥルナで、今まで先王が庇護してきた勢力には見向きもしない。ラミレス王に期待が出来ないとなると次の王となるアドルフォ王子に期待をするしかないとして、王子の婚約者候補としてブランカも王宮に上がることが多くなったのだ。


「アドルフォ様」

「今日もブランカは可愛いね」


 ブランカはウガルテ伯爵の本当の娘ではなく、ムサ・イルの総本山から伯爵の養女となるべくして送られてきた駒にすぎない。宝石眼を持つブランカを密かに使って、王国の中枢をムサ・イル派のために乗っ取るのがブランカに与えられた使命でもある。


 ペドロウサ家のマカレナは早々に婚約者候補から外されたものの、ブランカは最後まで残ることになったのだ。最終的には爵位が上であるグロリア・カサスがアドルフォ王子の婚約者となったものの、ブランカは幼馴染として重用されることになったのだ。


 大きな魔力を持つアドルフォはアリカンテ魔法学校に通うことになり、ブランカも同じ魔法学校に通うこととなるはずだったのだが、

「ブランカ、お前は王立学園の方へ通うことになるだろう」

 と、養父であるウガルテ伯爵が言い出した。


「魔法学校でお前の宝石眼が見破られるようなことがあっては困ると司教が判断されたのだ。アリカンテ魔法学校には光魔法を持つ子爵家の令嬢を送り込むことにする」


 光魔法を持つ令嬢は、僅かながらでも魅了の魔法を使うことが出来るという。


「マナーも疎かで天真爛漫な方が、今まで見てきた婚約者候補とは違って興味を引くことになるだろう」


「そんなに上手く行くでしょうか?」

「幸いにも、アドルフォ王子とグロリア譲との仲は冷え込んでいるような状態なのでな。王子が女に目覚めるきっかけとなればそれで良い」


 アドルフォ王子が早々に子爵令嬢の体の虜となったという話を聞いた時に、何故、自分が王子に差し出されなかったのだろうと恨むような思いを抱くことになった。


 ブランカはアドルフォ王子が好きだった。

 彼には幸せになって欲しかった。


 司教たちはグロリア嬢との結婚を良く思わないようで、冤罪をかけてグロリア嬢を排除しようと考えていたようだったけれど、結局排除されたのは王子であり、彼は到底治ることのない病に侵された状態で追放処分を受けることになったのだ。


「殿下・・」

 王都の外れにある神殿の一室で、アドルフォ王子はその身を横たえていた。移動するにもこの距離が限界であり、今の彼は死を迎えるのを待つばかりの身。


 性に奔放だった子爵令嬢は、グロリアが差し向けた病気持ちの男との逢瀬を繰り返した。顔立ちが際立って良く、会話も楽しいその男は、子爵令嬢を楽しませるだけ楽しませた。


 病はやがて子爵令嬢の体を蝕み、その病は子爵令嬢の体を介して王子とその側近たちの間に広がっていく。早期に薬を飲めば治る病気も、アドルフォ王子の排除を決定したシドニア公の指針によって病が進む薬を飲む形となり、今では末端の皮膚の先から腐り始めているような状態なのだ。


 ラミレス王がアドルフォ王子を廃嫡にしたのは、グロリア嬢に冤罪をかけて婚約破棄を突きつけたから。そんな理由ではなく、実際に後継者として使い物にならなくなってしまったからこそ、彼を追放処分としたのだ。


 正妃であるイスベル妃の父であるシドニア公は、ロザリア姫を女王にすることもなく、今まで積み重ねてきた汚職と賄賂、人身売買などの罪が明らかとなって死刑処分となってる。今のアストゥリアでは死刑に処せられる人間がやけに多い。


 ムサ・イルの戒律は厳しい。

 人を正しき道に導くために、すべての人が光の神の御名の元、楽園へと行けるようにするために、厳しく戒める教義は多くの為政者によって捻じ曲げられている。そんなことは、総本山から送られて来たブランカも知っているし、司教たちも十分に理解している。


「殿下、それでも私は進むのを止めることは出来ないのです」


 ブランカは冷え切ったアドルフォの手を包み込むように握りしめながら言い出した。

「ムサ・イル派が大陸を制覇したなら、異教徒を迎え撃つために聖騎士団を結成出来たなら、教皇様は私に聖水を御与えくださると言っているのです」


 大魔法使いキリアンでも治せない病でも、聖水を使えば治るかもしれない。その僅かな希望を胸に、ブランカは立ち上がるしかないのだから。


「ペネロペを追い込んだらミシェル嬢を捕まえて、クレルモン王国に連れて行かなくてはならないわ。ムサ・イル派の所為でミシェル嬢が自殺をしたと糾弾されたけれど、事実は全く異なるのだもの。真実を明らかにして、ムサ・イル派が正しいのだと全ての人に知らしめなければならない」


 ブランカはアドルフォ王子の手に頬ずりをすると、意を決した様子で立ち上がる。司教たちに話に行かなければならない。愛する人に残された時間は少ないのだから、急がなければならないのだから。



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