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第四話  不屈のマカレナ

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ペドロウサ侯爵家の末娘であるマカレナは、末っ子だからと言って甘やかされて育ったのは間違いない。


 父は娘が苦労をしなくても良いようにと、堅実で有能な伯爵家の嫡男をマカレナの婚約者として選んだものの、マカレナ自身が爵位が下である婚約者を良しとせず、思う存分遊んで好き勝手に過ごした挙句、婚約破棄を突きつけられることとなったのだ。


 マカレナには学園時代から交際をしているカルレス・オルモという恋人がいる。カルレスは騎士見習いとして王宮に勤めているが、マカレナは彼と結婚しようなどとは思いもしない。二人の姉は、堅実な領地経営をしている子爵家や伯爵家に嫁いで行ったが、姉妹の中で一番美しい自分は、自分の家と同等以上の家へ嫁ぐのは当たり前のことと考えている。


「マカレナ、今日のイスベル妃の処刑処分を見てどう思った?」


 急遽、王家の招集により王宮の泉へと集められた貴族たちは、ムサ・イル派の戒律に従ったイスベル妃と愛人のロドリゴ・エトゥラの処刑処分を見守ることとなったのだが、侯爵邸に帰るなり、マカレナの父は可愛い娘を呼び出し問いかけたのだ。


「とても正視に耐えないものでしたわ・・」


 イスベル妃は愛人と共に戸板の表と裏に括り付けられて、生きたまま泉の底へと沈んで行ってしまったのだ。ムサ・イル派の戒律に従っての処刑処分ということなのだが、あまりにも残酷な処分ゆえに、儀式の最中に貴夫人たちがバタバタと失神してしまっていた。


 マカレナは、自分が結婚相手として狙いをつけていたアンドレス・マルティネスが、最近、何の前触れもなく婚約を決定した令嬢を連れていたため、そちらの方が気になって仕方がなかった為に気もそぞろとなり、肝心の処刑処分はあんまり良く見てはいなかったのだが。


「ムサ・イル派の戒律は厳しいということは十分に理解したと思うのだが」

「はい、お父様」

「お前の結婚がより難しくなったというのは理解しているな?」

「はい?お父様?」


 首を傾げながら疑問の声をあげる自分の娘の姿を見て、侯爵は大きなため息を吐き出した。


「ムサ・イル派の戒律の中では、女性はただ従順であれ、神に仕える御身を厭え、婚姻するまでは不埒なことは行わず、清廉な乙女なれと記されている。つまりは、婚姻前に純潔を失うなと言っているわけなのだが、マカレナ、お前はすでに令嬢として一番大事なものを失っているな?」


「えーっと・・」

「ムサ・イル派があれほどまでに力を付けて来ているとするのなら、お前の有責で婚約破棄をしていたという事実を突いて、我が侯爵家に無理難題をふっかけてくる可能性が出て来たわけだ」


 ムサ・イル派の戒律では、婚約も結婚も、神の前に宣誓書を提出する形となるため、一度、神の承認を得たものを破棄するということは、神に唾するのと同じ行為だと言っているのだ。


「今まで戒律については緩いままで来た我が国も、今後、どうなるのかが分からない。多くの貴族たちは今のムサ・イル派に大きな警戒心を持っているし、それは我が侯爵家も同じことなのだが」


「お父様、何が言いたいのか分かりません。つまりは、どういうことなのでしょうか?」


「簡単に分かりやすく言うとだな、お前の婚約破棄につけ込んで、ムサ・イル派が我が侯爵家に無理難題を突きつけて来るようなことがあれば、お前を家から外して平民にでも嫁がせることになるということだ」


「へ・・へ・・平民ですって?」


 妃の処刑処分を見ても失神しなかったマカレナは、その場で思わず失神しそうになってしまった。


「ペドロウサ侯爵家の娘である私が平民に嫁ぐですって?お父様?嘘ですよね?」

「最悪の場合はそうなるということだ」

「ど・・ど・・どうして?」

「お前が純潔を失ったからだ」


 父は舌打ちをしながらマカレナを睨みつけた。


「確かに昨今の風潮ではそれほど女性側の純潔を重視しないようなところがあったかもしれないが、妃の処刑処分を見ただろう?ムサ・イル派の戒律は厳しい、お前の有責で我が侯爵家が共倒れとなったら困るのだよ」


「そ・・そ・・そんな・・最近は婚約破棄や解消する人も多くって、私のようにフリーになった人だって多い状態だというのに・・」


「アドルフォ殿下の婚約者だったグロリア様、トラスタエラ小公子の婚約者だったカルネッタ様が、婚約破棄が理由でムサ・イル派から誹りを受けたら、親族たちは絶対に黙っていやしないだろう。王国でも大きな勢力を持つ二つの家が反乱を起こしたら大変なことになるだろうし、世論だって絶対にムサ・イルの横暴を許さない」


「だったら私だって・・」

「お前は自ら望んで、何処かの床上手に自分の体を差し出したのだろう?」

「な・・」

「それが理由で婚約を破棄、お前の浮気が原因で婚約を破棄、貞淑が求められるムサ・イル派から見たら誰が悪なのかは明確だろう?」

「そ・・そんな・・」


 今までは、上位身分の者がどれだけ好き勝手をやっていたとしても、下位身分の者から婚約破棄をすることなど出来やしなかったのだ。それが、グロリアとカルネッタの婚約破棄事件以降、相手が有責であれば身分に構わず関係を解消することが出来る風潮になったのだ。


 そこで婚約破棄や解消が立て続けに起こるようになったが為に、戒律を重んじるムサ・イル派が立ち上がり、結果、イスベル妃が戒律に従って泉に沈むこととなったのだった。


 とういうことは戒律に従って、婚約者がいるというのに散々遊びまくったマカレナがどんな罰を受けることになるかも分からないし、もしも罰を受けることになったら父は娘を切り捨てると断言したわけで・・


「お父様!では私はどうすれば宜しいのかしら?」

 悲壮感たっぷりとなっているマカレナを見つめた父は、ため息まじりに言い出した。


「貴族籍を持つ男を見つけて、今すぐ結婚するしかない。結婚して籍を移動してしまえば今までの行いはチャラになる。ただ、純潔を重視する貴族男性が多いのもまた事実であるため、相手を探すのは難航するのに違いない」


「結婚相手を見つければ宜しいのね?」

「かなりの年上だとか、妻を失ったやもめだとか、未婚でも愛人が沢山いるとか、そんな奴らから探して行ったほうが手っ取り早いと思うのだが・・」


「冗談じゃありませんわ!そんな殿方と私が結婚するわけがないでしょう!」

「だがな、侯爵家からそれなりに持参金は付けてやれると思うが、時勢が変わっているのだ。お前が思うよりも相手を見つけるのは難しい」


「大丈夫です!当てがありますから!」

「まさか、学生時代からの恋人だとかいうんじゃ」

「違います!もっと上物で私にぴったりの相手がいますから!」


 マカレナはそう言って眩しいような笑顔を父親に向けたのだった。



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