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第一話  それは初恋

第三部が始まります!よろしくお願いします。

 ミシェル・ドルブリューズが十四歳の時、祖母と一緒に船旅に出かけたのだが、アルボラン海峡にさしかかったところで、海賊の襲撃を受けることになったのだ。


 船足の速い海賊船はミシェルが乗船していた船に即座に梯子をかけると、武器を持った男たちが転がるようにして船上へと移動する。

「金と女を出せ!金と女だ!」

 祖母に手を引かれながら船底へと移動していたミシェルは、女性たちの悲鳴と共に遥か頭上で発砲音が鳴り響くのを聞いていた。


 貴族であれば膨大な魔力を持っている者が多いのだが、平民となると途端に保有魔力が少なくなる。海賊にまでなるような男たちが得物とするのは魔法ではなく、銃弾を発射させる武器であり、最近はその武器の精度が上がってきていることが問題視されてもいたのだった。


「おばあさま!おばあさま!」


 若い女は狙われる。男たちの慰み者となるだろうし、その後は祖国からも離れた南大陸へ奴隷として売り払われることになるだろう。自分の孫をそんな目には遭わせられないと祖母は必死になっていたけれど、狭い階段を駆け降りている際に足を挫いてしゃがみ込んでしまったのだ。


「ミシェル!貴女だけでも船底の隠し部屋に逃げて頂戴!」

「おばあさまを置いていくなんて出来ません!」


 誰か・・誰か助けて・・


 神に祈るような思いでミシェルが船窓から外を眺めると、春を通り越して夏を迎えようとしている時期だというのに、窓に霜がついていることに気が付いた。

 船の中全体がひんやりと冷たく感じたかと思うと、船はぴたりと停止して動かなくなったのだ。


「嘘だろ!アストゥリアスの英雄じゃないか!」

「氷の英雄様だ!助かったぞ!」


 丸窓にしがみつくようにして外を眺めたミシェルは、自分が乗る船が氷に覆われていることに気が付いた。氷の柱の上に立つ男性が、こちらに移動してくる様が良く見える。まるで凍った波を引き起こしているようにも見えるその男性は、容赦無く氷柱を降り注ぎ、海賊の船を大破させたのだった。


「まさかこの船に王太后様がお乗りになっているとは思いもしませんでした」

 海賊たちをあっという間に捕らえたその人は、白金の髪にブルートパーズの瞳を持つ美丈夫で、海戦で帝国軍を蹴散らしたアルカンデュラの英雄とも言われる人だった。


「アンドレス・マルティネス卿、まさか隣国の英雄に助けられるとは思いもしませんでした」

 手の甲に接吻を受ける祖母の姿を見て、その立場、代わってほしいー!と、ミシェルは心の奥底で叫んでいた。


 南大陸で破竹の勢いで勢力を拡大させているアブデルカデル帝国は、アラゴン大陸への進出を目論んでいる。そのため、周辺諸国とのぶつかり合いはしょっちゅう起こしているような状態だったのだ。


 海に面したアストゥリアス王国は多くの軍船を持っている関係で、帝国とは時にぶつかり合い、時に協力関係を結んだ歴史がある。そのぶつかり合いの中で、海岸線に潜伏する海賊たちは、国に協力したり、反旗を翻したりしながら活動をしているのだった。


「ご令嬢も怪我がないようで良かった」


 アンドレスがミシェルに話しかけてきたのはこれだけのことだったけれど、顔を真っ赤にしたミシェルが天にも昇る心地だったのは言うまでも無い。


 ミシェルには婚約者が幼い時から居たけれど、海賊から助けられた時からミシェルの心の大部分を占めていたのがアンドレスで、

「君を愛することはない!僕の愛は君の元にはないのだから、全てを諦めてくれ!」

 と、初夜の場で夫から言われた時も、心が傷付くことはなかったのだ。


「アンドレス様以外に抱かれるだなんて冗談じゃないもの!愛することはない宣言!有り難うございます状態よ!」


 馬鹿な夫は王立学院に通っている時から平民出身の恋人がおり、その恋人を学院卒業と同時に愛人として囲っているような状態だったのだ。そんな男との結婚など絶対にしたくないミシェルは、伯父である国王の力を使って相手が有責の婚約破棄に持ち込もうとしたのだが、

「神の前で交わした誓約を破棄するなど、神に唾するのと同じ行為でございます」

 と、言い出すムサ・イル派の司教の言葉で頓挫することになってしまったのだ。


 クレルモン王国では司教の発言はとても大きいものとして捉えられることになった為、

「きっと結婚すればあの子も心を入れ替えるから」

「婚約も婚姻も、神の御元で行われる契約となるのだから、解消も破棄もすることなど許されないよ」

 という周りの意見に押される形で結婚をしてみたら、初夜でのお前を愛することはない宣言だ。


 当時はアストゥリアス王国でも高位身分の婚約破棄が連続して起こっていたような状態であり、

「私は普通に相手の有責で婚約破棄できましたけれど、この国では無理なのですか?信じられないですわ!」

 と、言い出したのは初等部を卒業してこちらの学院に留学してきたカルネッタ・バシュタール令嬢だった。


「私、自分の夫やその父母についてもそうなんだけど、神の威光で全てを都合よく捻じ曲げていくムサ・イルの司教たちも嫌悪の対象となっているの」


 ミシェルの怒りに朗らかな笑みを浮かべたカルネッタは言い出した。

「それじゃあ、どちらにも、ギャフンでざまあを与えなければなりませんわね」

 その時のカルネッタは、とても良い笑顔を浮かべてミシェルに大きく頷いたのだった。


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