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第二十九話  春が来たのか?

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「アンドレスに春が来たのかな」

「は?」

「だって、あのアンドレスがだよ?心配で心配で仕方がないっていう様子で、執務も放り出してペネロペ嬢に付き添っているんだよ?」

「ただの罪悪感の表れなんじゃないかしら?」


 ペネロペは瀕死の重傷を負っていた。

 先ほど、離宮の人間は生き残ったというようなことをエルが言っていたけれど、実際には半分以上の人間が今回の急襲で亡くなっているのだ。


 離宮全体にかけられた魔法陣は特殊なもので、アンドレスが内側から破壊しなければ恐らく全員が殺されているような事態に陥っていたのだ。


 アンドレスの氷の魔法によって侵入者は仮死状態となっていたが、氷の氷解と共に全ての人間が死んだ。呪術による死亡が確認されているのだが、結果、アルフォンソ王子が侵入したという証拠は何一つ残されず、襲撃事件の犯人を特定するものは離宮の人間の証言のみという状態になっている。


「それにしたって、罪悪感で手なんか握る?アンドレスが女性の手を握る姿なんか初めて見たんだけど?」

「ダンスを踊る時に手ぐらい握るじゃない」

「だけどさ!絶対に違うって!」


 呆れた様子でグロリアはため息を吐き出すと、

「呑気で良いわね?」

 と、嫌味混じりで言い出した。


「今日から例の公爵令嬢が王宮に入るのよ?私は嫌な予感しかしないのだけど?」

「例のって、クレルモン王国の自殺したことになっているという公爵令嬢のこと?」

「そうよ、忘れていたの?」

「うわー」


 もじゃもじゃ髪のお陰で目元まで隠れてしまっているエルだけれど、心底嫌そうな顔をしながらグロリアの腕を掴んで言い出した。


「僕はね、あの人のことが苦手なんだよ」

「あら、それじゃあ良かったじゃない」


 グロリアはエルの顔を見上げながら言い出した。

「あの令嬢は、宰相補佐にぞっこんなのだから」

 その言葉を聞いて、エルは自分の口をへの字に曲げた。



       ◇◇◇



 王宮の癒しの手と言われる回復魔法師の処置を受けたペネロペは一命を取り留めたものの、斬りつけられた肩の傷は残ることになるし、内臓の損傷を治癒しているので、しばらくの間は絶対安静となるらしい。


「頭を打ちつけた君は昏倒した状態だったため、目を覚ますか覚まさないかは賭けだと言われていたんだ」


 ペネロペの手を握っていたアンドレスがしょげかえっている為、いつもは偉そうな宰相補佐が哀れに見えてきたのだが、

「私は屋根を破壊して離宮に侵入したのだが、その時の瓦礫が君に直撃したようなんだ。本当にすまないことをした」

 そう言ってアンドレスが頭を下げて謝ってきた為、ペネロペは哀れに思うのをやめた。


「今でも頭がズキズキと痛いのは貴方の所為ですか?」

「そうかもしれない、本当に申し訳ないことをしたと思っている」


 離宮の屋根を破壊して侵入するなんて、どれだけ膨大な魔力を持っているのだろうかと呆れながらも、一応、宰相補佐が命を削ってまで助けに来てくれたからこそ、自分は死なずに済んだのは間違いない事実でもあるわけで・・


「まあ、寿命を縮めてまで助けてくれたのは感謝しています」

 ペネロペがそう言うと、アンドレスは彼女の右手の薬指に嵌められた指輪にキスを落とした。


「指輪・・・」


 外して手に握りしめていたはずの指輪が、自分の指に戻っている。


「この指輪のお陰で君を助けることが出来たんだ」

「でも・・魔力を流すことが出来なかったのに・・」

「君を失うことになりそうになって、本当に肝が冷えた。魔力暴走を起こしかけて離宮を氷漬けにする寸前だったんだ」


 お陰で鎮火が済んだのだけれど、アンドレスが色々とやらかしているのは間違いない事実でもある。


 自分が意識を失ったあの現場に現れたアンドレスがどんな状態だったのかペネロペにはよく分からないけれど、無精髭も剃らずにシワだらけのシャツを着た彼の顔を見上げて、思わず笑みが溢れでる。


「そんなに心配だったんですか?」

「ああ・・心配だった」


 そう言って二人の距離が縮まり、唇と唇が重なり合わさりそうになったその寸前で、

「アンドレス様!ドルブリューズ公爵が娘、ミッシェル・ドルブリューズが参上いたしましたわ!お会いしとうございました!アンドレス様!」

 ドアがノックもなく開いて、一人の美しい女性が歓喜に頬を染めながら飛び込んできたのだった。


「なっ」

 慌てて立ち上がったアンドレスが部屋の入り口の方へと向かうと、外出用の帽子も被ったままの状態で、令嬢はアンドレスの胸に飛び込みながら喜びの声を上げる。


「お待たせ致しました!貴方の愛するミシェルが到着いたしましたのよ!」

「な・・何が愛するミシェルだ!寝言は寝てから言って欲しい!」


 アンドレスに飛びつく令嬢が、一体何処の誰なのかがペネロペにはよく分からないが、

「前にもこんな場面を見たわ・・確か、あの時はマカレナ・ペドロウサ嬢だったわよね」

 応接室でマカレナ嬢に抱きつかれているアンドレスの姿を思い出したペネロペは、つくづくと長いため息を吐き出した。


「やっぱり、イケメンには碌な奴がいないのよ」


 顔が良い男には光に群がる虫のように、数多の令嬢がやって来る。一時、ペネロペのことを大事にしたとしても、次から次へと他の女に乗り換えていくことになるのだ。


 自分勝手な都合で婚約者という冠をつけたキープちゃんを側に置いておいたとしても、遊ぶ相手はよりどりみどりの状態なのだ。その中からより良い相手を見つけたら、キープちゃんとの入れ替え制度を適用していくことになるのだろう。


「クソが、死ねばいい」


 ペネロペは頭から布団を被って目を瞑った。

 今回は命を救って貰ったけれど、そもそも、宰相補佐が変な作戦を考えなければペネロペが危機に陥るなんてことにもならなかったのだ。


 ペネロペにとってロザリア姫が安全であればそれで良いので、姫と一緒に離宮から逃げ出せば良かったのだ。姫の安全を最優先にして侍女のマリーを手放したのも痛かった。三人一緒に居れば何の問題もなかったのに、宰相補佐の愚策に乗った自分が一番悪い。


「やっぱり結婚する相手は三日で顔を忘れてしまうような没個性の顔の人が一番だわ!」


 危ない、危ない、顔が良い奴は碌な奴がいないのにうっかりトキメキかけたのは、死ぬ寸前までよく分からない魔法使いに追い込まれたからに違いない。正気に戻れ!ペネロペ!私が結婚するのは、私だけを愛する、顔は三日で忘れてしまうような感じの男の人のはず!


「ペネロペ、すまなかった。まさかミシェル嬢がこんな所にまで入り込んでくるとは思いもしなかった」

「・・・」

「ペネロペ?ペネロペ?」

「・・・・」


 布団を被ったまま、ペネロペは絶対に顔を出さなかった。

 自分は瀕死の重傷だったのだ。

 いくらでも寝ていたって、何の問題もないはずなのだから。


                〈第二部  完〉


第二部はこれで終わりとなります。ここまでお読み頂きありがとうございます!!

第三部は忘れられたフェレやマカレナ嬢も出てきて、恋愛やら策謀やらがごちゃごちゃする予定でおりますので、最後までお読み頂ければ幸いです!よろしくお願いいたします!モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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