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第二十六話  ペネロペ、窮地に陥る

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 後、もう少しで手紙が完成するという時に、ペネロペは自身の魔法に歪みを感じて顔を上げた。その途端、魔法灯が次々と消えていき、暗く沈んだ室内には窓から差し込む月明かりのみとなった。


「何?何があったの?」


 夜間、離宮は魔石を使った動力源を使って室内に明かりを灯すようになっている。突然、魔法灯が消えたというのは、動力源の故障というよりも、魔力そのものに何らかの干渉がかかったのではないかとペネロペは考えた。


 自分が与えられた仕事部屋の外へとペネロペが出ると、階下で武器を叩きつけ合うような音が響いている。今は真夜中のため二階の廊下に人影はないけれど、階段を登ってくる足音だけがやけに大きな音で耳に届いた。


「おやおや、ロザリアの専属侍女として仕えるペネロペ・バルデム嬢じゃないか」


 階段を上って来たのは黄金の髪に碧玉の瞳を持つ男で、軍人らしい逞しい体つきをしたその人は煩わしそうに瞳を眇めながら言い出した。


「一階の姫の居室にも寝室にも、誰も居ないような状態だった。ここの二階は客室となっているはずだが、お前以外に人の気配はないようだな」


「ボルゴーニャ王国のアルフォンソ殿下でございますね」


 何年か前に行われた式典で、ペネロペも遠目ではあるもののアルフォンソ王子の姿は見たことがある。王子様らしい金の髪に碧玉の瞳という容姿の彼は、太々しいまでの笑みを浮かべながら言い出した。


「ロザリア姫は何処に移動した?まさか本宮に移動したというわけではあるまい?」

「姫様ですか?」


 ゾロゾロと階段を上がってくるのは、マルティネス侯爵家から呼んだ護衛を兼ねた使用人には見えない。ペネロペは必死に右手の薬指に嵌った呪術刻印入りの指輪に魔力を注ごうとしたものの、何かの障害がかかって指輪に魔力を注ぐことが出来ない。


 しかも、抜けないはずの指輪がすっぽりと指から抜けてしまったのだ。抜けた指輪を手の平の中に握り締めながら、ペネロペは自分の唇をギュッと噛み締めた。


 緊急事態に陥ったら転移をしてくる?

 王都の屋敷(タウンハウス)3軒分の費用が掛かった呪術刻印入りの指輪?

 危機に陥った時に使えないのでは、何の役にも立たないのと同じことではないか!


「早く言え、姫は今、何処にいる?」


 ペネロペの目の前まで来たアルフォンソは、ペネロペの首を片手で掴んで締めあげた。早く言えと脅迫している割には、首を絞めて声を出さないようにしているのだから、どういうつもりなんだと燃えるような怒りが湧いてくる。


 筋骨逞しいアルフォンソは、片手でペネロペの首を絞めたまま上に持ち上げた為、ペネロペの首は自重できつく締まり、ペネロペの足は宙を浮いた。


 頭の血管に血が上るとはこのことで、頭の中を中心に渦を巻くように何かの魔力が動いていく。外側から圧をかけられて魔力が使えないようにされているけれど、怒りのあまり、指先からほんの僅かの魔力が噴出した。


 ペネロペは水の魔法の使い手である。

 首を絞められたまま手を伸ばしたペネロペは、王子様そのもののアルフォンソの整った顔に指先を触れる。


 人間の体には水分が多く含まれている。そして、微弱な力でも最大限の衝撃を与えることが出来るのが眼球だ。ほんの一瞬、眼球の表面を覆う水の膜を紙から水分を吸い取るようにして枯渇させると、

「うわあああああっ!」

 ペネロペを放り投げるようにして手を離したアルフォンソが、自分の両目を押さえながら激痛に身悶えた。


「殿下に何をする!」

 護衛の男が振り下ろす剣がペネロペの肩を掠めた為、真っ赤な血が飛び散った。ペネロペはすかさず自分の血液を操作して、男の眼球に血液を飛び込ませる。僅かな量であってもペネロペの血は眼球を保護する水の膜に溶け込んで、目の奥へ奥へと侵入していく。


「ぎゃああああっ!」

 染み込んだ血液の魔力を通して、遠隔操作で水分を吸い取りながら、ペネロペは斬り付けられた自分の肩を押さえた。手の平がぬるぬるとした血で濡れて、深く斬られたことに改めて気がついた。


「腹が立つ〜!」


 何に腹が立つって、本当に微細な魔力しか使えないことに腹が立つ。自分の血液は魔力の塊のようなものだから、それを使って自分の周りに血の滴を作っていくけれど、カンテラでこちらを照らし出した男たちが躊躇している様がよく見えた。


「使えるとしても僅かな魔力しか使えないはずなのだが」


 躊躇する男たちの後ろから、漆黒のローブを着た男が現れた。ローブに施された金の刺繍は魔法王国サラマンカの魔法使いの証であり、幾重にも加護が付与された外套が、魔法が使えない今の空間でも男を守っていることがよく分かる。


「ふーむ、随分と魔力コントロールに優れているのだな。我が国でもこれほど魔力を精密にコントロールする人間は居ないだろう」


 黒髪に黒眼の男は感心したように言いながら杖を振ると、ペネロペの周囲に浮かんだ血液があっという間に床に落ちる。


「サラマンカとボロゴーニャは隣国同士、だけど隣り合った二つの国の仲は良くなかったと思うんだけど?」

「魔法使いに政治は関係ないんだよ」


 漆黒の魔法使いはペネロペを楽しそうに見下ろしながら言い出した。


「争いが起こせるかどうか、人が殺せるかどうかが僕に取っては大事なのでね」


 その言葉を聞いたペネロペは、肩を押さえながら答えた。


「はい、嘘です」


 新緑の瞳をギラギラと光らせながらペネロペは目の前の男を睨みつける。


「争いとかそんなもの、どうでも良いと本当は思っていますよね?もしかして復讐?復讐をしようとしているの?」


 男は眇めるようにして瞳を細めると、杖の先でペネロペの額を押さえた。すると、ペネロペの心臓は暴れるように鼓動を打ち始め、大量の血をペネロペは吐き出した。



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