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第二十四話  ペネロペの魔法

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ペネロペは水の魔法を操る魔法使いである。

 魔法が使えるペネロペは、アリカンテ魔法学校へと入学することは決定している。ペネロペの先輩であるグロリアは入学時から空間魔法の研究を続けているし、ペネロペもグロリアと同じように入学した時から研究しているテーマがある。


 社会的貢献度が高いもの、今後、国の発展に寄与するものであると認められることになれば、特待生として魔法学校に迎え入れられることになる。研究室を与えられ、研究費用も用意してもらえることになる。ちなみにペネロペの研究テーマは『水魔法による古紙の再生』というものだ。


 ペネロペの生家であるバルデム伯爵家の先代当主は古書の蒐集家だったため、多額の金を本の購入に投じて、家を傾けたという過去がある。


 今では紙で本は作られているが、昔は羊皮紙を使って本を作っていた。一字一字丁寧に写字生が筆写したものであり、挿絵も装飾も美しいものが多い。そして、保存状態が良ければ高く売れる。そう、保存状態さえ良ければ高値で売れるはずなのに、保存状態が悪過ぎた為に、ゴミ同然となっている古書が山ほど伯爵家にはあるわけだ。


「君はどうせ自分でお金を稼いだことがないだろう?」


 四歳年上にあたるペネロペの元婚約者であるフェレ・アルボランは王宮に出仕し始めた頃に、王宮で働く職業婦人の素晴らしさをペネロペに滔々と語って聞かせていたわけだ。そうして、最後に彼が言った言葉が、

「君はどうせ自分でお金を稼いだことがないだろう?」

 というものだったのだ。


 四歳年下のペネロペは翌年からアリカンテ魔法学校に通うことが決まっているものの、今は家庭教師の先生から教わるばかりの身でもある。もちろん、自分で金など稼げるわけもないのだけれど・・


「フェレ様は自分でお金も稼げる自立した女性がお好きなのね!だったら私も自分でお金を稼げるようにならなければ、フェレ様の隣に立つのに相応しいとは言えませんわね!」


 荒んでもいないし、すれてもいない。清純無垢だったペネロペは、愛する婚約者に相応しくあるために自分に何が出来るかを考えた。


「そうだわ!このお爺様が収集した古書を修復して売ったら、相当のお金になると言われていたのよね!」


 家が傾くほど購入した祖父のコレクションの中には非常に貴重なものがあるし、保存状態さえ良ければ一冊で家の二軒や三軒は購入できる値段になると言われたことがある。


 古書は一冊一冊、手作業で作られた物であり、絵の一枚、一枚、文字の一文字、一文字を端正に写しとってきた、多くの人の手が掛かった貴重なものであるのは間違いない。


 製本技術が発展した今の世の中では、古書は歴史を知るための貴重な資料であり、美術品にもなるものなのだが、その価値は本の保存状態に大きく左右されることになる。


「フェレ様に相応しい妻になるために、王宮で侍女として働いて箔を付けられたら良かったのだけど・・」


 フェレは四歳も年上であるため、魔法学校を卒業後に何年も彼を待たせる訳にはいかない。フェレを待たせることなく、素晴らしい妻を得たと思われる為には・・


「アリカンテ魔法学校に古書の再生技術を研究テーマとして認められれば、私は魔法学校に特待生として通うことが出来るようになるのよね」


 特待生には研究室や研究費も支給されるし、アリカンテの特待生の地位は王宮の侍女以上の箔付になるのは間違いない事実。


「そうよ、アドルフォ王子の婚約者であるグロリア様も、魔法学校の特待生として入学して注目されることになったのだもの。私だって特待生になれば、きっとフェレ様も私のことをもっと好きになってくれると思うもの!」


 すでに浮気三昧となっている、フェレ・アルボランの実態を知らなかったペネロペは、彼に相応しくあるように、彼の好意がもっと自分に向くように、努力に努力を重ねるようになったのだ。


 ペネロペは水の魔法を使うことが出来る。


 干からびて劣化した羊皮紙に水分を少しずつ与えることによって古紙を再生し、薄れたインクには微細な魔力で注ぎ込むようにインクで上書きをしていく。薄れた彩色には、当時使われた絵具を利用し、当時と同じ色使いを再現しながら魔力を使って注ぎ込む。


 過去に存在した水の記憶を利用して、魔力で再現をしていくのはペネロペにしか出来ない技術であり、微細な魔力操作は他の追随を許さないものとなる。


 アリカンテ魔法学校を入学する際には特待生として認められ、以降、同じ特待生である一年先輩のグロリアとの親交が深まることになる。


 婚約者のフェレとは、彼の浮気が原因で婚約が破棄されることになったけれど、彼の為にした血の滲むような努力は、確かにペネロペの血肉となっていた。ペネロペは誰からも一目置かれる存在になることが出来たのだが・・


「ハーーーッ、いくらグロリア様とカルネッタ様が望み、国王陛下までもがノリノリで後押しして下さったと言っても、気が重い、気が重い、本当の本当に気が重い」


 ロザリア姫の離宮に与えられたペネロペの作業部屋、その部屋に置かれた作業机の上には、それはそれは古い福音書と、とても古い手紙が置かれていた。


 これは隣国クレルモン王国のリオンヌ公へ送られた手紙と公が所有する福音書である。手紙については、これと同じような内容のものが、新しい羊皮紙に記された状態でテーブルの上に載っている。


「ハーーッ、嘘は嘘でも、その嘘が大きすぎる。神よ、お許しください!」


 ペネロペはそう言って椅子に座ると、新しい羊皮紙に指で触れた。そこから水を吸い取るようにして、少しずつ、少しずつ、羊皮紙を劣化させていく。彼女の周囲には約三百年前の羊皮紙が無数に散らばっているのだが、それと同じようになるように、彼女は水魔法を駆使して、いつものように羊皮紙を再生する訳ではなく、枯渇させていくのだった。



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