表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/165

第二十三話  破滅する人々

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「お父様が死んだ?」


 屋敷で身柄を拘束された、ロザリア姫の元専属侍女だったイバナは、そのまま王宮の地下にある牢屋へと収監されることになったのだが、またすぐに解放されるだろうとたかを括っていたわけだ。自分にはイスベル妃殿下が後ろ盾として居るため、今は拘束をされたとしても、いずれ解放されるはず。


「お父様と妃殿下が板に括られて泉に沈められたのですって?」

「女神の慈悲があらわれることもなく、お二人は沈んだままだったということさ」


 牢番はそう言って牢の外にイバナを連れ出すと、

「宰相閣下がお待ちになっている」

 と言って、イバナの腕を掴んだまま歩き出したのだった。



「妃殿下がお亡くなりになった?」


 すぐに釈放だと聞いたまま、牢屋に入れられたままだったセルジオ・コルテスは、牢番からイスベル妃とイバナの父親であるロドリゴの悲惨な処刑方法を牢番から聞いて、思わずその場にへたり込むように座り込んだ。


 正妃イスベルの力があるからこそ、ロザリア姫の宝石を盗んだ云々については有耶無耶に出来ると考えていたというのに、そのイスベル妃が不貞を理由に厳しすぎる裁きを受けたというのなら、王族が所有する宝石を狙った自分はどうなるというのだろうか?


「牢屋に放り込まれたというのに、悠々自適に過ごせるのも今日までだったな」

 二人の牢番はセルジオを強かに殴りつけると、両腕を掴むようにして無理矢理立たせた。

「宰相閣下がお待ちになっている、今すぐ移動するぞ」


 引きずられるようにして歩き出したセルジオの頭の中はパニックとなっていた。王族の私物を盗んだ場合、通常『死刑』が即座に確定する。厳しい処罰を設けなければ、ちょっとした出来心で盗みを働く者が続出することになるからだ。

 だからこそ、王族の私物を盗んだら死刑、これは王宮で働くことになった時に、下働きの隅々にまで周知されることでもあるのだ。


「ふむ、君がセルジオ・コルテスか」


 面会室のような場所で待ち構えていた宰相ガスパールは、目の前に置かれた椅子に座るようにセルジオに命じる。すでにイバナが宰相の前に置かれた椅子に座っており、宰相の後には屈強な兵士たちが立ち並んでいる。牢番勤めの者たちであるからか、近衛出身のセルジオが見たこともないような兵士たちだった。


「イバナ・エトゥラ、今はエトゥラ家は没落しているのでただのイバナであるのだが、君は離宮に勤める者たちを先導して、ロザリア姫の宝石を盗み、市中での売却の指示を出した。君の父上であるロドリゴ・コルテスは、イスベル妃との不貞と娘である君の窃盗の責任を取るために、死刑となっている」


 イバナの口には後ろに回った兵士が布が巻き付けた為、彼女はもごもご言うだけで言葉を発することが出来ない。


 イバナが椅子に押さえ付けられている様を眺めていると、近づいてきた男がセルジオの口にも布をぐるぐると巻き付ける。


「セルジオ・コルテス、君は隣に居るイバナと交際をしていたようだが、下働きの女性たちに随分と不埒な真似をして歩いているようだったね。君にはイスベル妃の後ろ盾があるから何の問題もないんだっけ?君に頼めばどんな問題も解消されるんだったかな?」


 ガスパールは指先で自分の眼鏡を押し上げながら言い出した。


「宝石を盗む実行犯は離宮で働く侍女たちだったようだが、離宮で何か騒ぎがある時には大概、君が護衛の兵士として勤務についていたことが分かっている。婦女暴行に加えて、王族の宝石を盗みだす幇助をしていた君にもまた相応しい罰を与えなければならないわけだ」


 ガスパールの前には液体が満たされた小さなカップが二つと、切れ味が良さそうな幅広の鉈が一本、置かれている。


「最近、ムサ・イル派の司教たちがやたらと煩いものでね。彼らは我がアストゥリアス人が不信心者ではないかと疑いの目で見ているわけだ。そのため、戒律に従って罪を犯したイスベル妃とその恋人は処分を受けたし、今後、処罰の対象者にはムサ・イルの戒律を適用しなければならないようなのだよ」


 テーブルの上に両肘を突いて手を組んだ宰相は、そこに自分の顎を乗せながら言い出した。


「ムサ・イルの戒律では盗みを行った者はその盗んだ者の手首を切断して罰を与えよと記されている。ちなみに、高貴な身分の者の品に手を付けた場合は両手首を切断の上、奉仕活動への参加を義務付けられている」


 二人の生唾を飲み込む音が響く。


「大臣たちと相談をしたのだが、鉱山での奉仕活動が丁度良いのではないかということになった。手首が無くても、あそこでは色々な方法で奉仕が出来そうだからね」


 わかるでしょう?そう蛇のような目で語りかけられたセルジオは、椅子をひっくり返して倒れ込みそうになってしまった。


「戒律に従えば、両手首を切断の上で鉱山での奉仕活動を行うことになるのだが、アストゥリアス王国の法律に則って考えるのであれば、毒杯による死が順当であると考えられている。後は、君たちが選べば良いと思うのだが、君たちはどれを選ぶ?」



 隣では、イバナがくぐもった声で泣き出している。セルジオはナタと毒杯を交互に見ながら考えた。片方は即座に死ぬことになるけれど、もう片方は死ぬよりも酷い目に遭うことは間違いない。


 ムサ・イルの戒律?一体どういうことになっているんだよ?神様の教えなんだろう?もっと優しい処罰にしてくれたって良いじゃないか!そんなことを頭の中で考えながらも、どんどんと時間だけが過ぎていくことに彼は気が付いていなかった。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ