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第二十二話  残された二人  

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ロザリア姫もマリーも出て行ってしまった姫の離宮のティーサロンで、我が物顔でアンドレスが飲み物を用意するように命じると、見たこともない侍女が二人の前に、ケーキと紅茶、軽い軽食としてサンドイッチなどを用意する。


「二人だけで話をしたい」

「承知いたしました、旦那様」


 恭しく辞儀をして侍女やメイドたちが出ていくと、人払いが済んだティーサロンで、

「旦那様?」

 と、ペネロペは疑問を口にした。何故、見知らぬ侍女がアンドレスのことを旦那様と呼ぶのだろうか?


「もしかして・・愛人?」


 これは賭けが終了したという合図なのかもしれない。姫様を離宮から追い出して、自分の愛人を招き入れる宰相補佐の大胆さ。やっぱりイケメンには碌な奴がいないのがこの世の摂理に他ならず・・・


「今、この離宮には、護衛も出来る我が家の使用人を送り込んでいる状態だ」

「何故ですか?」

「ボルゴーニャ王国の第一王子であるアルフォンソ殿下が、密かに我が国へ入国した」

「えーっと」


「不義の子と疑われて酷く心を痛めているロザリア姫が心配な為、お慰めするためとは言いながら、姫をボルゴーニャへ連れ去ることも考えているのに違いない。我々がハビエル王子を王太子として担ぎ上げた場合、正当な王はロザリア様に他ならないとして、我が国の王位も国の全ても丸ごと奪い取るつもりでいるのだろう」


「王配として我が国にまずは入り込むつもりだったんじゃないんですか?」

「イスベル妃がヘマをやらかしてしまったからな。ロザリア姫がそのまま女王となるには瑕疵が付いた形となるから、別の方法を取ることにしたのだろうさ」


 どうやら、姫に母親の死が伝わる前に、グロリアの元へ移動させてしまおうという話になったらしい。

 姫は、生きたまま自分の母親が板に括り付けられて泉の底へと沈み込んでいってしまったことを知らずに済んだ。その差配についてはペネロペも感謝しきりとなっているところではあるけれど、やっぱり自分も一緒に連れて行って欲しかった。ペネロペの食欲は一気に萎えていくのは仕方がないことだ。


「あのぉ」

 美しい所作でサンドイッチを口に運ぶアンドレスを見上げながら、ペネロペは問いかける。

「そもそも、なんでイスベル妃殿下は死ななければならなかったのでしょうか?」


 ムサ・イルの厳しい戒律に照らし合わせて罰が下されたということは分かるのだが、不貞相手を戸板の裏に縛り付けて、二人揃って殺すこともないだろうと思わずには居られない。


「クレルモン王国でムサ・イルの戒律に従って婚約を破棄することが出来なかった公爵令嬢が自殺をしただろう?」


「ええ、それで公爵令嬢の伯父であるクレルモン国王が激怒されて、ムサ・イルからフィリカ派へ宗旨替えしたのですから」


「我が国も、妃の死を利用して、ムサ・イル派からフィリカ派へ宗旨替えしようと考えている」


 えーっと、えーっと、ペネロペにはよく分からない。

「イスベル妃殿下が愛人と一緒に戸板に括り付けられて殺されるのが、宗旨替えへとつながっていくのでしょうか?」


「本来は、ムサ・イルの戒律は非常に厳しいものなのだ。多くの者達が、今日の刑罰を見て戒律の厳しさに恐れ慄くこととなっただろう」

「うーんと・・」

「我が国だからこそ、そこまで厳しく取り締まるようなことをしなかったのだが、今日の司教たちの様子を見て、皆はどう感じたのだろうな?」


 宗教というものは難しい。自分たちが天国に行くためならば、何だってするという心理が働いてしまうのだから、半世紀もの間、ムサ・イルの教義の通りにアストゥリアスの人々も従ってきたのだけれど・・

「だからこその、経典の破壊だよ」

 その言葉を聞いた途端、ペネロペの胃がキリキリと痛くなってくる。


「グロリア嬢が言うには、彼女の曽祖父は金の瞳を持っていたという。曽祖父の祖母が王家の姫だったということで、隔世遺伝ということなのだろう。ちなみに、イスベル妃の祖母もまた、王家の姫だったというのは間違いのない事実」


 そうやって、ロザリア姫の金の瞳が、ラミレス王由来のものではないと主張する。近くでまじまじと見れば、姫の鼻の形は陛下にそっくりだし、瞳の色の濃さが隔世遺伝ではないものと主張しているのだけれど、そこはそこ。離宮の引きこもり姫だったロザリア姫の姿を間近で見ている者は家庭教師だけだし、姫の身近にいた侍女達は、大半が、宝石を盗んだ罪で再度身柄を拘束されているような状態なのだ。


「種が近衛第二部隊長かもしれないと噂される姫様を、誰も女王にしようとは考えないでしょうね」


「追々、貴族たちや民衆にも、姫の出自について確かなことは言えない状況だということは周知することになるだろう。今のところ、姫は秘密裏に離宮を出発したため、周囲の人間は未だにロザリア姫が離宮に居るものだと考えている。残った君は、今まで通り姫に仕えていると見せかけながら、自分の仕事を進めてくれたまえ」


「えーっと、私が離宮に残るのは理解出来たんですけど、何で宰相補佐様の家の人間が離宮に勤めることになったのでしょうか?」

「だって、我が国を乗っ取りたいと考えるアルフォンソ王子が、離宮まで姫を誘拐しに来るかもしれないだろう?」

「はあ?」


 ペネロペは呆然とアンドレスの整った顔を見つめた。


「ボルゴーニャ王国は離宮の侍女頭として間諜を潜り込ませて居たほどなのだ。奴らがその気になれば、離宮に入り込むなど簡単なのかもしれないし」

「えーっと」

「もしも離宮への潜入中に一網打尽に出来たならば、我が国はボルゴーニャに対して強く抗議をすることが出来るし、アルフォンソ王子という強力なカードを手に入れることが出来るわけだ」

「うーんっと」


 ペネロペはまじまじと自分の名ばかり婚約者の顔を見つめながら言い出した。

「それで、私は危機に陥ったらどうするんですか?」

「そうなったらそれがあるだろう」


 アンドレスはペネロペの右手薬指に嵌められた指輪を指し示しながら言い出した。


「指輪に力いっぱい魔力を込めれば、私は君の元まで転移をしてこよう」

「宰相補佐様が転移をしてきた時に、メチャクチャ大勢に囲まれている状態だったらどうするんですか?二人で即死なんてこともあるかもしれないですよ?」

「その時はその時だな」


 アンドレスはペネロペの顔を覗き込むように見ながら言い出した。

「こういうのを、死なば諸共というのだろう?実に私達らしいじゃないか」

「はあ?」

 ペネロペは豪快に顔を引き攣らせた。


「死なば諸共じゃないですよ!私はまだ死にたくなんかないんですからね?」

 そう言いながら仰け反ったペネロペは、すっかり食欲が無くなってしまったのだ。


 残ったケーキや軽食はペネロペの作業部屋へと運ばれることになり、いつでも食べられるような状態で保管されることになったのだが、

「ええええ!姫様のお世話がなくなったから!自分のお仕事やり放題の状態になったってこと!」

 と、山のように本が積み重なる部屋で、ペネロペは一人で絶叫したのだった。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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