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第二十一話  姫の行先

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 妃の処刑の場にアンドレスの婚約者として参加していたペネロペは、貴族令嬢らしい冬用の外出着の上に毛皮のコートを羽織っていたのだが、お仕着せに着替えぬままにロザリア姫の離宮へと戻ると、姫は自分の荷物をすっかりとまとめて、後は出掛けるばかりといった様子でペネロペを待ち構えていた。


 その隣にはグロリアが立っていて、底知れないような笑みを浮かべている。


 宰相ガスパールがグロリアとペネロペに会いたいと言い出して急遽行われた茶会では、今後、危うい立場となるロザリア姫の処遇についての話し合いも行われた。


 帝国の血を引くハビエル第二王子を次の王の座に据えるという事になると、正妃イスベルが産んだロザリアを正統な後継だとして、多くの貴族たちが騒ぎ出すだろう。


 ムサ・イル派が強い力を持っているままでは、光の神の元に、異民族や他宗教を信奉する人々は漏れなく排除されることになる。預言者ルカは全ての民を包み込む、光の神の懐の深さを福音書に残していたが、ムサ・イルの福音書では、穢れた血は焼け尽くすような光の力によって排除するとまで記されているのだ。


 この穢れた血が示すものとは、異民族のことであり、他宗教を信奉する人々のことであり、自分たちにとって都合が悪い人々のことを言う。自分たちの権力を維持するために、そうやってルス教はいつでも利用されてきたのだ。


「ペネロペ、私、遂にここから出ることが出来るわ」


 ロザリアにとって、離宮は姫に与えられた牢獄と同じようなものだった。イスベル妃はロザリアを視界に入れることもせず、ラミレス王は忙しさにかまけて姫を顧みることもしなかった。


 姫の与えられた予算は横領され、最低限の世話を受けるままに放置されているようなものだった。


「グロリアお姉様と一緒に行く事になったの」

 グロリアはロザリアの兄であるアドルフォ王子の婚約者であった為、ロザリアが姉として密かに慕っていたことをペネロペは知っている。


 なにしろ、新年にロザリア姫に贈られるドレス一式はグロリアの生家であるカサス侯爵家から毎年贈られていたのだ。姫が恥をかかないようにグロリアは常に心を配っていたのだが、人事はイスベル妃の管轄であるため、なかなか踏み込んだことまでは出来なかったらしい。


「それでは、私もすぐに出発する準備をしますね!」


 今さっき見た、イスベル妃の処刑風景が脳裏から離れないペネロペとしては、一刻も早くこの王宮から脱出したかった。小説の物語などでは、王宮の中は魑魅魍魎の集まりだと表現することがあるけれど、本当の本当に、魑魅魍魎が蠢くとんでもない所であることが十分に理解できた。


 もうお腹いっぱい!こんな場所からはさっさとおさらばしてしまいましょう!

「待て、待て、待て、待て」

 ペネロペと一緒に離宮までやって来たアンドレスが、ペネロペの腕を掴みながら言い出した。

「行かせるわけがないだろう?」

「何故ですか?私はロザリア様の専属侍女で教育係なのですよ?」


「姫がラミレス王の本当の娘であれば、ペネロペは専属侍女のままだったけれど、そうではない可能性が大きいと判断されたため、我が家で保護することになったのよ。だから、王家から離宮への勤務を任命されているペネロペは来られないの」


 グロリアの悪の華が花開くような笑みを見たペネロペは、思わず生唾を飲み込んだ。こんな笑い方をグロリアがしている時は、悪巧みをしているのに他ならず、誰にも止められない状態になっているのもまた事実でもあるため、


「それにペネロペにはまだやる事があるでしょう?こちらに来るなら来るで、あちらを完成させてからにしなさい」

 と、グロリアは言って、美しい微笑を口元に浮かべた。


「それに、愛する婚約者様はペネロペを離そうとはしませんもの。ロザリア様、私の力あっても、愛する二人を引き裂くことなど出来ませんの。ごめんなさい」


 何とも言えない表情でその場で足踏みをしていたロザリア姫は、ペネロペに飛びつくようにして抱きつきながら言い出した。

「ペネロペ!絶対に結婚式には呼んでね!絶対に!絶対よ!」

「結婚式ですか・・・」

 ペネロペはロザリアの体をギュッと抱きしめながら頭を悩ませた。


 ペネロペはアンドレスと婚約をしているが、これは何も本気の婚約などではなく、冗談みたいな理由で進められることになった婚約なのだ。


 イケメンには碌な奴はいない。だからこそ、アンドレスだって碌な奴ではないのは間違いないはず。アンドレスの碌でもないところを、一年の間に証明出来ればペネロペの勝ち。証明出来なければペネロペの負けで、負けた場合には何でも願い事を一つ叶えることになっている。そんな馬鹿げた話なのだ。ロザリア姫が希望するように、結婚式に呼ぶようなことには絶対にならないのだ!


「そうですね!ペネロペとの結婚式には離宮の大聖堂を使わせてもらうつもりなので、是非、姫様を招待させて頂きますよ」


 ニコニコ笑いながらそう言い切るアンドレスは、天才ペテン師かも知れない。王族に対して、一切の嘘のサインを出さずに堂々と嘘を言い切るその腹黒さ。流石は宰相補佐という役職に就くだけはある。


「まあ!ペネロペ!私と老後は共にせずに、愛ある結婚生活をやっぱり貴女は選ぶのね!」

「ちょっと待ってくださいよ!グロリア様!」


 確かに、ペネロペは老後の友としてグロリアをキープしながら、結婚相手を探し続けているという狡猾さを発揮しているけれど、お顔が神々しいまでに整っている宰相補佐と結婚することは絶対にない。


 イケメンに碌な奴はいないのだ。三日経てば顔を忘れてしまうほどの没個性の、自分だけを愛してくれる男性と結婚するのがペネロペの夢なのだから。


「私の将来なんかどうでも良いのです!」


 ペネロペにとっては、目先の結婚よりも、王宮から姫と一緒に脱出出来ないという事態の方が身を引き裂かれるように痛い。


「それよりも、私が姫様にお供が出来ないというのなら、侍女のマリーを是非とも連れて行ってください!」


 人間不信が凄いことになっているロザリアには、まだまだ、心を許した人間が少な過ぎる状態なのだ。いくらグロリアが居ると言っても、四六時中一緒に居られるわけもないため、一人くらいは姫様の心の平穏のためについていて欲しい。


「マリーは護衛も出来る侍女なので、姫様の専属として使ってください。身元はバルデム伯爵家が保証いたします。マリー!マリー!」


 声高に侍女のマリーを呼ぶと、マリーは荷物一式を持ってすぐさま離宮のエントランスホールに現れた。マリーはすっかり準備万端の様子で、ペネロペを置いてきぼりにする気満々だった様子だ。


「マリー・・姫様を守ってくださいね、お願いします」

「お嬢様、姫様のことはこのマリーにお任せください!」

 マリーはにこりと笑うと言い出した。

「お嬢様の結婚式、マリーも楽しみにしておりますので!結婚までの準備を頑張ってくださいね!」

 その言葉を聞いて、ペネロペは可愛らしい顔をくちゃくちゃに顰めて見せたのだった。


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